閑話(若エルフと老エルフとと鍛冶屋)
これは、昔の話。ある日、王都の鍛冶屋に若いエルフが黒く幅の広い剣を持ってやってきた。
その大剣を鍛冶屋に預けて数刻が過ぎた頃、若いエルフが再び店を訪れた。
「この剣が研げないだと?」と驚いて問いかける若いエルフ。
「ああ、無理だ」と鍛冶屋の男がぼそっと答える。
「うん、無理だ」と隣にいた鍛冶屋の男も同じく頷いた。
「だって、ちゃんと剣の形をしてるんだから、研げないっておかしくねぇか?」
と若いエルフが不満をぶつける。
「ああ、研いでみたが無理だった」
「うん、無理だった」
「じゃあ、打ち直すことは出来ないのか?」
若いエルフは頼りなげに尋ねる。
「ああ、やってみる」
「うん、やってみよう」
「任せた。頼むぜ、ここより腕の良い鍛冶屋は無いんだからよ」
若いエルフが信頼を込めて言う。
「ああ、任せろ」
「うん、任せろ」
数日後、結果は同じだった。
「ああ、無理だ」
「うん、無理だ」
「おいおい、何でだよ!」と若いエルフが苛立つ。
「ああ、火力が足りない」
「うん、火力が足りない」
「じゃあ、どうすりゃ良いんだ?結構派手にやっちまったから刃が欠けちまったんだけどな」
若いエルフが困惑する。
「ああ、何か考える。それまでは無理だ」
「うん、考える。時間をくれ」
そして鍛冶屋の男たちは若いエルフに大剣を返した。
さらに数日後、鍛冶屋の男たちの前に、老エルフが姿を現した。
「ふむ、ここに導かれてやってきたが、何がどう繋がるのか…」
老エルフは独り言を言いながら鍛冶屋に入ってきた。
そして、鍛冶屋の男たちが腰に下げている剣をじっと見つめた。
「ああ、その剣を見せてくれ」
「うん、その剣を見せて」
(これは変装用の剣だが…まぁいいだろう。見せた方が良いと導かれているし)
と老エルフは心の中で思いながら、腰に差していた剣を手に取った。
「ああ、凄い。どうやって打ったんだ?」
「うん、凄い。どこで打ってもらった剣だ?」
「これか?」(精密レーザーで抜いて分子レベルで研いだものとは言えないな)
と老エルフは心の中で考えながら答えた。
「この剣を打つには、お前たちの炉では無理だな。温度が足りないよ。」老エルフが指摘する。
「ああ、頼む、教えてくれ」
「うん、頼む、教えてくれ」
「おいおい、こいつら職人の意地ってもんはないのか?」
と老エルフは思わず呟いたが、その瞬間、ふと異様な感覚が走った。
(ん?導かれている?しかし、これでは文明を進めてしまうのだが…)
と老エルフは心の中で葛藤した。
「分かった、教えよう。ただし、この技術は秘匿されたものだ。
秘匿されたものを守るため、喋らないという約束が必要だが、それを守れるか?」老エルフが厳しく問うた。
「ああ、守る。心配なら、俺の喉を潰せ」鍛冶屋のアーノが毅然として言った。
「うん、俺のも潰せ」鍛冶屋のノーアも同じく答えた。
「おいおい、こやつら、イカれておるのか?やめろ!自分で喉を突こうとするな!」
老エルフが慌てて止める。
「あ、なぜ止める?」アーノが不思議そうに尋ねる。
「うん、なぜ止める?」ノーアも疑問を口にした。
「いや、それでは死んでしまうだろう!分かったから、止めてくれ」
老エルフが説得する。
「では、別の方法で声を対価に技術を教えよう。それで良いか?」
「ああ」
「うん」
こうして、鍛冶屋たちは老エルフから秘伝の技術を学ぶことができた。
老エルフは、端末を使い、脳や神経系に直接接続するインターフェースを用いて、一時的に彼らの
声帯のコントロールを遮断し、声を出せなくした。
たとえこの二人が喋らなくても、技術がいずれ盗まれる可能性はあったが、その頃には文明も
発展しているだろうと老エルフは考えた。そして、この声を出せなくする処置も三年ほどで効力が
切れる運命にあった。
鍛冶屋の爺さんたちは、若いエルフの剣を修復する方法を学び取ることに成功したが、
その修復が実行に移されるのは、まだずっと先の未来のことである。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。