閑話(禁断のマッサージ)
リリー宅に泊まることになった女性陣を振り切れなかったレイは、仕方なくリビングのソファーで
寝ることになった。
しかし、夜が更けるにつれ、なぜかそのソファーが“人気スポット”と化していく。
最初にやってきたのはフィオナだった。
彼女は当然のようにレイの足元に座り込む。
「狭いが、まあ寝るだけなら問題ないな」
続いて現れたのはセリア。レイの頭をくるりと持ち上げ、自分の膝に置く。
「ふふ、これで今日は勝ちね」
レイは寝たふりを貫こうとしたが、すでに遅かった。
さらに悪ノリしたサラが、ソファーの背もたれとレイの体の隙間に無理やり滑り込んでくる。
「ニャー、ここが空いてるニャ!」
「空いてないです!」と心の中で叫んだレイだったが、声は出なかった。
あっという間にソファーは満席になり、人口密度は異常レベルまで達した。
まるで陣取り合戦のように場所の奪い合いが始まり、最後には全員がぎゅうぎゅう詰めのまま、
無理な姿勢で眠り込んでしまった。
翌朝。
全員、揃って寝違えた。
レイは今、ナノボットによる治療中だ。気功ならぬ、“電子の気合い”である。
隣で様子を見ていたフィオナが、肩をぐるぐる回しながら不満げに言う。
「うーむ、動かすたびに肩がバキバキ鳴るんだが、これでは弓がブレそうだな…」
レイは苦笑しながら、彼女の肩に手を置いた。
「ちょっと実験ですけど……試してみますね」
手のひらからナノボットが流れ出し、フィオナの肩へと浸透していく。微細な振動が筋肉をほぐし、凝り固まった部分にじんわりと熱が広がる。
「うわ、何だこれは……」
最初は驚いたフィオナだったが、徐々に表情が緩み、目を閉じて深いため息をついた。
「これはクセになるな……」
そして次の瞬間――
「ぴりっ!」
鋭い刺激が走るが、それもすぐに快感に変わり、彼女はうっとりとした声を漏らした。
「くぅ……これは痛気持ちいいぞ。もう少し、続けてくれないか?」
「少しだけですよ?」とレイが笑いながら返す。
その様子を見ていたセリアが、背中をさすりながら訴えてきた。
「レイ〜、私もお願い! 背中がもうダメなのよ、板でも入ってるみたい!」
仕方なくレイがセリアに手を伸ばすと、彼女はとろけそうな声を漏らす。
「ああ〜そこっ、そこよ……。あっ、気持ちいい……!」
「やめてください! なんか変な空気になってますって!」
セリアはケラケラ笑いながら肩をすくめた。
「だって、本当に気持ちいいんだもの。文句言うならやめてくれてもいいけど?」
「……続けます」
そこへ、サラが手を挙げて割り込んできた。
「ニャ! 首がまわらないニャ! 猫の命、首筋が要ニャのよ!」
「はいはい、今行きますよ……」
首筋に手を添えると、サラは目を細めて声を漏らす。
「ニャ〜、これは極楽ニャ……」
リビングの隅で腕を組んでいたリリーが、怒ったような声を上げた。
「ちょっと! 布団敷いたのに、なんでみんなでソファーで寝てるのよ!?」
……その通りである。
リリーはしばらく黙って考え込むと、ふと口を開いた。
「……ねぇ、レイ君。私にも治療、してくれない?」
「え?リリーさんも寝違えたんですか?」
「いいえ、違うわよ。今後の参考のためよ。ほら、こういうのって実戦データが大事じゃない?」
「その顔、絶対楽しんでますよね……」
「うん、無理! だってみんな極楽だって顔に出ちゃってるじゃない!試さない手は無いわ!」
仕方なく施術した結果――リリーはしばらく放心状態で座椅子の上に転がっていた。
「ふふ……これ知っちゃったら、レイ君を離せなくなるわね?」
その言葉に反応して、フィオナが手を挙げた。
「私、もう一回!」
すぐにセリアが食ってかかる。
「ちょっと待って、今度は私の番でしょ!」
レイは目を見開いた。
「ちょ、落ち着いてください! 一人ずつ……!」
だがその声も虚しく、ふたりは全く引かずに言い争う。
「私が最初に頼んだんだぞ!」
「でも前は私が後だったでしょ、順番は公平に!」
そこにサラがちゃっかり加わってくる。
「ニャー、私は一回だけニャ! 次は私の番ニャ!」
頭を抱えるレイ。
「もう、勘弁してください……」
そんなやり取りを見ながら、リリーは微笑んで肩をすくめる。
「人気者って、大変ね」
レイは、返す言葉もなく、ため息まじりに苦笑するしかなかった。
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