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第175話(旅立ちの前奏)

町が見えてくると、レイは入城前の従魔や馬車の手続きのことを考えて、しみじみと言った。


「これからは、町に入るたびにこういうことをしないといけないんですね……」


セリアが軽く笑って返す。


「そうよ。でも、馬車で旅するなら必要なことね」


「まあ、私も経験ないけどね。そもそも、冒険者で自分の馬車を持つなんて夢よ夢!」


と、リリーが冗談交じりに言った。

レイが目を丸くする。


「そうなんですか?」


セリアが肩をすくめて答える。


「普通は、馬車の前にパーティハウスとかが先だもんね」


フィオナも頷いて言った。


「確かにそうだな。馬を持ってる冒険者は何人か見たけど、馬車まで持ってるのはほとんどいなかったな。

 たいてい、必要なときに借りる方が多いと思うぞ」


「そうニャ、馬車は贅沢ニャ! 野営しても屋根があるところで寝られるニャ!」


サラはしっぽを振って喜ぶ。


「多分、赤レンガ亭も厩舎を持っているから馬車は預けられると思うぞ。まあ、西門のほうが料金は安いがな」


フィオナが現実的な提案を口にする。


「ちなみに、そういうのはパーティ資金で賄うから、レイ君はお金の心配をしなくてもいいわよ」


リリーが優しく微笑むと、セリアも続ける。


「そうね。シーサーペントでパーティ資金も潤沢になるわ」


「そうだニャ! お屋敷が買えるニャ! ……いや、少年、お屋敷を買うニャ!」


サラが勢いよく叫ぶ。


レイは苦笑しながらも、少し不安そうに口を開いた。


「いや、お屋敷なんて買えないですよ……」


セリアがからかうように笑って言う。


「一人でお屋敷を買うのは無理かもしれないけど、パーティハウスなら余裕で買えるんじゃない? 

 まあ、借りても良いけどね」


「そうだな。パーティハウスがあれば、みんなで集まる場所もできて便利だ」


フィオナも賛成の意を示す。


「でも、男一人がそのパーティハウスにいるのって、なんか気まずくないですか?」


レイがやや遠慮がちに言うと、リリーがあっさり笑い飛ばす。


「だって、パーティなんだからしょうがないじゃない!」


皆が笑い合う中、レイだけがぽつりと呟いた。


「あれ? そういうものなの?」

 

*** 


セリンでの予定は、ファルコナー伯爵に会ったことをセリン子爵に伝え、司祭に王都行きの報告をすること。

それが済めば、ひとまずの一区切りとなる。


孤児院やギルドへの挨拶もあるが、それはついでの範囲だ。


宿を取った後、五人はそれぞれの用事を済ませるために別行動を取る。


フィオナとサラは領主邸に、リリーは教会へと向かった。


レイは孤児院へ。セリアはギルドへと足を運んだ。

 

***

 

孤児院では、レイが子どもたちとシスターたちに挨拶をし、王都へ行くことを伝えた。


「途中の街に寄りながらトマトゥルの株を探してくるよ」


セルデンにそう言い残し、しばらく談笑していたが、帰ろうとしたところでイリスに捕まる。


「帰ってきたと思ったら、また王都に行っちゃうんでしょ? 本当、忙しい人ね」


イリスは少し拗ねたように口を尖らせる。


「しょうがないだろ。いろいろと用事ができちゃってさ……」


「ふん、まあ、私は別に気にしてないけど」


と、ツンとした態度を見せる。


「あれ? 本当に? お土産とか、いいの?」


「さあ、どうだか……。お土産は楽しみにしてるわよ」


最後に、少し照れたように微笑んだ。


「分かった。じゃ、行ってくるよ!」


レイが軽く手を振って言うと、イリスは小さな声で呟いた。


「もう……気をつけてね!」


遠くから、シスター・ラウラも声をかけてくる。


「あんた、気をつけるんだよ!」


「はい、気をつけます!」


レイは振り返りながら笑顔で返事をした。

 


その頃、ギルドではセリアが人だかりに囲まれていた。


「セリアさん、なんでギルド辞めちゃったんですか?」

「レイさんのパーティに入ったって本当ですか?」

「やっぱり聖者さまだから?」

「ウチのパーティに来てください!」

「ギルドに戻ってきてください!」


次々と飛び出す質問に、セリアは少し困ったような笑顔を浮かべながら、答える暇もなく

押し寄せる声に包まれていた。


すると、ギルドマスターの大きな声が響いた。


「おい、お前ら、いい加減にしろ! セリアはすぐに王都に行く準備をしないといけないんだぞ! 

 いつまでも絡んでる暇はねぇんだから、その辺で切り上げろ!」


その一言に、冒険者たちは渋々と周囲から退いていった。


セリアはほっとした表情で、ギルドマスターに頭を下げる。


「ありがとう、ギルドマスター。でも、王都に行くのは一時的なものだから、

 そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」


「分かってるさ。だけど、いつでもここに戻ってきていいんだぞ。

 お前がいると、やっぱりギルドの空気が違うからな」


そう言って、ギルドマスターは軽くセリアの肩を叩いた。

 

このとき――


セリアも、レイも、フィオナも、リリーも、サラも。


彼ら〈レイジングスピリット〉の誰ひとりとして、この先の旅がどれほど長く、

波乱に満ちたものになるのかを、まだ知らなかった。


第五章 完

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

五章完了です。この後、閑話を二つほど入れて第六章に入ります。

あまりに進みが遅いと年末までにキリがいいところまで行かなそうなので

何話か、同じ日に連続投稿します。


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