表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/337

第168話(過剰過ぎる護衛)

伯爵様との面会を終えたレイたちは、ファルコナーの教会へと向かった。

重厚な扉を静かに押し開けて中に入ると、そこには厳かな空気が満ちていた。


レイはそっと聖者の証である指輪を取り出し、教会の司祭に見せながら、小声で事情を説明する。


「実はセリンのランベール司祭から、『町に寄ったら教会に行け』と言われまして…今はお忍びで、このファルコナーに来ています」


司祭は指輪を見た瞬間に目を見開き、すぐに神妙な表情になる。


「では、万が一何かのトラブルが発生した場合、速やかに対処できるようにいたします」


そう言って、即座に教会内へ指示を飛ばし始めた。聖者殿を守るための防衛体制を整える準備に入ったのだ。


***


「伯爵様との面会は済んだし、教会にも挨拶したし、これで堂々と町を探索できますね!」


と言ってレイたちは気軽に街歩きを始めたのだが――


「ちょっと、レイ君。待って!これって……まさか、あの防衛体制?」

セリアが周囲を見回しながら眉をひそめる。


「うむ、護衛がついているな。しかも、かなりの人数だ」

フィオナも後ろを振り返って苦笑した。


「ニャ? これは一体どういうことニャ? 何かの行列みたいニャ!」

サラは戸惑った様子で、後ろに続く護衛の列を見つめる。


リリーも腕を組んでため息をついた。

「レイ、あんた……これじゃお忍びどころじゃないわよ。完全に目立ちまくってるじゃないの」


「うん、さすがにここまでやるとは思わなかったけど……教会の司祭様たちが“聖者様を守るため”って、真面目にやってくれてるんじゃないかと思うと、なんか止めづらいですね……」

レイは困ったように頭をかいた。


状況を見たリリーが焦りながら言う。

「ちょっと、どこかに入って作戦を練りましょう。これじゃ身動き取れなくなるわよ!」


皆がその提案にうなずき、近くの喫茶店に駆け込む。

店内は最初こそガラガラだったが――


外から続々と護衛たちが入ってきて、あっという間に満席状態になってしまった。

その様子を見て、フィオナが呆れた声を漏らす。


「これは……すごいな…」


セリアも苦笑いしながらつぶやく。

「ここまで来ると、もう笑うしかないわね……」


「これは一度、教会に戻るしかないニャ……」

サラの提案に、全員が賛成した。


そして人目を避けるため、路地裏を選んで戻ろうとしたが――


「……って、こっちにもいるの!?」

リリーが驚いた声を上げた。


路地にも護衛たちが溢れていて、逆にものすごく目立ってしまっていた。


「帰っても目立つ!」

フィオナが諦めたように叫んだ。


「もうダッシュで教会に戻るしかない!」

その言葉を合図に、レイたちは一斉に駆け出した。


護衛たちもそれに続き、全力で教会に向かって走り始める。


そして――

教会に駆け込むと、息を切らせながら司祭様に訴えた。


「司祭様、護衛の数が多すぎます!これじゃ町の中も歩けません!」


司祭様は困惑した表情で返す。

「私は“影から聖者様をお守りしろ”と言ったのですが……?」


半信半疑で外に出ると、教会前の広場には護衛たちが五十人近く、地面に座り込み、息を切らしていた。


「何だこの人数は……何がどうなっておる!」


一人の護衛が前に出て、真剣な顔で答える。


「はぁ……はぁ……はい、司祭様。我々は、はぁ……全員で後ろについて……はぁ……目立たないように護衛しようとして……」


「……“影から”と言ったはずだが、これでは影どころか大行列だ。全く、どうしてこうなったのか……」


司祭様は深く頭を抱えた。


レイも苦笑しながら頼む。


「これじゃ逆に目立ちすぎますよ……もう少し人数、減らせませんか?」


司祭様は深々と頭を下げる。


「申し訳ありません、聖者様。この事態を解決するために、護衛を厳選し、必要最低限に絞ります」


どうやら、「聖者様を一目見たい」と希望する者が多すぎて、次々と護衛に加わった結果、この騒ぎになっていたらしい。


そんな事ならばと、レイは集まってくれた人全員と握手を交わし、「ありがとうございました」と丁寧に挨拶をした。その気配りが功を奏し、その後の護衛の人選はスムーズに進んだ。


これでひとまず、一安心だ。


ようやく体制が整い、レイたちはようやく落ち着いて町を探索できるようになった。


***


護衛の件もひと段落し、落ち着いた雰囲気の中で町を歩いていると、レイがふと口を開いた。


「このファルコナーって、ダンジョンとかはないんですよね?」


それを聞いたリリーが、少し微笑みながら答える。

「ファルコナーにはダンジョンはないけど、実は海側に狩場があるのよ。海の向こうにある小さな島が、その狩場なの」


「えっ、じゃあ船に乗って狩場に行くんですか? それって、どんなところなんですか?」


レイが驚いて目を見開くと、リリーは少し興奮気味に語り始めた。


「その島はね、古くから魔物が棲みついている場所で、地元の冒険者たちの間では有名なの。特に強力な海洋生物や、島特有の魔物がいるのよ」


「海の狩場か……それは新鮮な経験になりそうだな」

フィオナが興味深げに呟く。


セリアも頷いて加えた。

「私、誰かからその島の話を聞いた気がする。確か、船で移動するから、魔物を倒せないと大赤字になるって話だったわよね?」


「そうなの。だからこそ、腕に覚えのある冒険者が集まるの。報酬は大きいけど、リスクもそれなりに高いわ。

でも、もし挑戦するなら――きっといい経験になると思うわ」


「これは行くしかないニャ!」

サラが目を輝かせて叫んだ。


その様子を見て、レイは仲間たちに微笑む。


「よし、せっかくだから行ってみますか」


こうして彼らは、新たな海の狩場へと向かうことを決めたのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ