第168話(過剰過ぎる護衛)
伯爵様との面会を終えたレイたちは、ファルコナーの教会へと向かった。
重厚な扉を静かに押し開けて中に入ると、そこには厳かな空気が満ちていた。
レイはそっと聖者の証である指輪を取り出し、教会の司祭に見せながら、小声で事情を説明する。
「実はセリンのランベール司祭から、『町に寄ったら教会に行け』と言われまして…今はお忍びで、このファルコナーに来ています」
司祭は指輪を見た瞬間に目を見開き、すぐに神妙な表情になる。
「では、万が一何かのトラブルが発生した場合、速やかに対処できるようにいたします」
そう言って、即座に教会内へ指示を飛ばし始めた。聖者殿を守るための防衛体制を整える準備に入ったのだ。
***
「伯爵様との面会は済んだし、教会にも挨拶したし、これで堂々と町を探索できますね!」
と言ってレイたちは気軽に街歩きを始めたのだが――
「ちょっと、レイ君。待って!これって……まさか、あの防衛体制?」
セリアが周囲を見回しながら眉をひそめる。
「うむ、護衛がついているな。しかも、かなりの人数だ」
フィオナも後ろを振り返って苦笑した。
「ニャ? これは一体どういうことニャ? 何かの行列みたいニャ!」
サラは戸惑った様子で、後ろに続く護衛の列を見つめる。
リリーも腕を組んでため息をついた。
「レイ、あんた……これじゃお忍びどころじゃないわよ。完全に目立ちまくってるじゃないの」
「うん、さすがにここまでやるとは思わなかったけど……教会の司祭様たちが“聖者様を守るため”って、真面目にやってくれてるんじゃないかと思うと、なんか止めづらいですね……」
レイは困ったように頭をかいた。
状況を見たリリーが焦りながら言う。
「ちょっと、どこかに入って作戦を練りましょう。これじゃ身動き取れなくなるわよ!」
皆がその提案にうなずき、近くの喫茶店に駆け込む。
店内は最初こそガラガラだったが――
外から続々と護衛たちが入ってきて、あっという間に満席状態になってしまった。
その様子を見て、フィオナが呆れた声を漏らす。
「これは……すごいな…」
セリアも苦笑いしながらつぶやく。
「ここまで来ると、もう笑うしかないわね……」
「これは一度、教会に戻るしかないニャ……」
サラの提案に、全員が賛成した。
そして人目を避けるため、路地裏を選んで戻ろうとしたが――
「……って、こっちにもいるの!?」
リリーが驚いた声を上げた。
路地にも護衛たちが溢れていて、逆にものすごく目立ってしまっていた。
「帰っても目立つ!」
フィオナが諦めたように叫んだ。
「もうダッシュで教会に戻るしかない!」
その言葉を合図に、レイたちは一斉に駆け出した。
護衛たちもそれに続き、全力で教会に向かって走り始める。
そして――
教会に駆け込むと、息を切らせながら司祭様に訴えた。
「司祭様、護衛の数が多すぎます!これじゃ町の中も歩けません!」
司祭様は困惑した表情で返す。
「私は“影から聖者様をお守りしろ”と言ったのですが……?」
半信半疑で外に出ると、教会前の広場には護衛たちが五十人近く、地面に座り込み、息を切らしていた。
「何だこの人数は……何がどうなっておる!」
一人の護衛が前に出て、真剣な顔で答える。
「はぁ……はぁ……はい、司祭様。我々は、はぁ……全員で後ろについて……はぁ……目立たないように護衛しようとして……」
「……“影から”と言ったはずだが、これでは影どころか大行列だ。全く、どうしてこうなったのか……」
司祭様は深く頭を抱えた。
レイも苦笑しながら頼む。
「これじゃ逆に目立ちすぎますよ……もう少し人数、減らせませんか?」
司祭様は深々と頭を下げる。
「申し訳ありません、聖者様。この事態を解決するために、護衛を厳選し、必要最低限に絞ります」
どうやら、「聖者様を一目見たい」と希望する者が多すぎて、次々と護衛に加わった結果、この騒ぎになっていたらしい。
そんな事ならばと、レイは集まってくれた人全員と握手を交わし、「ありがとうございました」と丁寧に挨拶をした。その気配りが功を奏し、その後の護衛の人選はスムーズに進んだ。
これでひとまず、一安心だ。
ようやく体制が整い、レイたちはようやく落ち着いて町を探索できるようになった。
***
護衛の件もひと段落し、落ち着いた雰囲気の中で町を歩いていると、レイがふと口を開いた。
「このファルコナーって、ダンジョンとかはないんですよね?」
それを聞いたリリーが、少し微笑みながら答える。
「ファルコナーにはダンジョンはないけど、実は海側に狩場があるのよ。海の向こうにある小さな島が、その狩場なの」
「えっ、じゃあ船に乗って狩場に行くんですか? それって、どんなところなんですか?」
レイが驚いて目を見開くと、リリーは少し興奮気味に語り始めた。
「その島はね、古くから魔物が棲みついている場所で、地元の冒険者たちの間では有名なの。特に強力な海洋生物や、島特有の魔物がいるのよ」
「海の狩場か……それは新鮮な経験になりそうだな」
フィオナが興味深げに呟く。
セリアも頷いて加えた。
「私、誰かからその島の話を聞いた気がする。確か、船で移動するから、魔物を倒せないと大赤字になるって話だったわよね?」
「そうなの。だからこそ、腕に覚えのある冒険者が集まるの。報酬は大きいけど、リスクもそれなりに高いわ。
でも、もし挑戦するなら――きっといい経験になると思うわ」
「これは行くしかないニャ!」
サラが目を輝かせて叫んだ。
その様子を見て、レイは仲間たちに微笑む。
「よし、せっかくだから行ってみますか」
こうして彼らは、新たな海の狩場へと向かうことを決めたのだった。
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