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第163話(消えた痕跡)

収穫祭の翌日、レイジングスピリットの一行はリーフ村に向かっていた。

リリーが「転移を一度経験しておきたい」と言ったことから、今のうちに行ってしまおうという話になったのだ。


今回は野営をしないように全員が馬で移動することになっている。


「信じられないけど、間違いなくスレイプニルよね。嘘みたい!」

リリーが驚きを隠せない様子で言った。


セリアは微笑んで返事を返した。

「まだまだ驚いてもらうことはいっぱいあるわ」


その後、彼らはセリンの西門を出て、レイはシルバーに乗るための踏ん切りをつけようとしていた。

シルバーの前で立ち尽くすレイを見て、フィオナが不思議そうに尋ねた。


「レイ殿、どうしたのだ?そんなに躊躇して」

「レイ君、早くしないと置いてっちゃうわよ!」

セリアが促す。


恐る恐るシルバーにまたがるレイだったが、シルバーは初日や昨日のようなスピードを出さず、他の馬と並走していた。シルバーは、まるで群れのリーダーのように、他の馬たちを引き連れつつも、その歩調をしっかりと見守り、全体のペースを整えていた。

仲間たちが遅れないよう、自らの力を巧みに抑えつつ、共に進む姿はまさにリーダーそのものだった。


「あれ?これなら全然怖くない!」

レイは驚きつつも安心した様子で言った。


フィオナは微笑んで言った。

「ほう、昨日も練習したと聞いていたが、だいぶ板についてきたんじゃないか?」


セリアも安心した様子で続ける。

「レイ君、完璧じゃない。これなら馬での移動も問題なさそうね」


サラは少し不思議そうに首をかしげた。

「シルバーがおとなしいニャ!」


リリーが感心したように声を上げる。

「スレイプニルってすごく賢いのね!」


その日のうちにリーフ村に到着した一行は、乗ってきた馬を預けて宿屋に入った。

シルバーは迷いの森に帰るかと思いきや、そのまま厩舎に入った。


どうやら、レイたちと一緒にダンジョンに入るつもりらしい。

そして、レイは宿屋で念願の一人部屋に入ることができた。

他に宿泊客がいなかったためだが、レイはその静けさを楽しんだ。


翌日、早朝から迷いの森ダンジョンに入ったが、シルバーがいるおかげで魔物にはほとんど合わず、森の深部に入ってしまった。

接敵したのはイエローホーネット四匹とアルミラージが一匹飛び出して来ただけで戦闘はあっさり終わった。


「これも、スレイプニルの力なのかしら?まるでピクニックに来た気分だわ!」

リリーが笑いながら言った。


セリアは拍子抜けしたように言った。

「思ったより簡単にここまで来れたわね」


しかし、その会話を横で聞いていたレイは、不満げに顔をしかめた。

新調した剣を試し、思いっきり戦いたかったのに、まったく出番がなかったからだ。

火魔法をぶっ放す機会さえなく、気が済まない思いでいっぱいだった。


そして前回同様にシルバーが森の深部の草原に入るとゆっくりと頭を下げて、その額を地面に触れさせた。

その瞬間、ゴゴゴゴッという重々しい音が響き、地面から石碑が現れた。


「これが例の石碑ってやつね。どういう仕組みなのかしら?」

リリーは興味津々のようだった。


「今までの戦績は二勝二敗だニャ!」

サラは屈伸運動を始めた。


どうやら走る準備は万端のようだ。そして三勝三敗となったところで、森が徐々に開けて道が現れた。

シルバーとサラが七戦目を始めようと勢いよくスタート地点に走り出そうとするのを、レイたちは宥めながら進んでいった。


やがて、森の中の広葉樹が針葉樹に変わっていく様子に気づいた。

これも以前に転移した時と同じだった。リリーが不思議そうに顔をしかめた。


「今ので転移したの?」


気温が下がり、景色が一変したことに驚いている様子だった。


シルバーは道を外れて温泉の方向に進もうとしたが、レイたちがなんとか引き戻し、針葉樹に囲まれた森を抜けると、目の前にコニファー村が見えてきた。


リリーは自分で確かめるべく、コニファー村に入っていき村人と何かを話している。

どうやらこの辺りに生えている薬草の話を聞いているようだった。


リリーはラドリアッチから来た薬師という設定で村人たちに色々と聞き込みをしていたらしい。


村人が開口一番、遠くの山を見ながらと驚いて言った。

「あの山を越えて来ただべか、嬢ちゃんすんげぇ健脚だべ!」


リリーは村人たちから、この辺りで採れる薬草や、他にも薬草が採れそうな村や町についての話を聞き出した。

その中で、コニファー村が北方の地だけでなく、標高も高い場所に位置していることがわかった。

彼らが教えてくれた薬草の半分はリリーの知らない名前だったが、知っている薬草の名前に関しては、高山植物に分類されるものが多く含まれていた。

この情報から、コニファー村やフロストッチが標高の高い場所に存在し、さらに帝国の首都ラドリアッチがコニファー村からは南の山の先にあることが明らかになったほか、フロストッチとノースレッチの間にブリス村があることも聞き出した。


「私、本当に帝国に来てるのよね、信じられないわ」

リリーは周りを見渡しながら、信じられないというよりも、少し興奮と不安が入り混じった表情を浮かべていた。


「その割には演技が上手かったわよ、リリ姉」

セリアは軽く笑った。


その後、一行はフロストッチにも足を運び、前回と同様に通行税を支払って町に入った。

彼らは早速、前回訪れた屋敷を探りに向かったが、屋敷はもぬけの殻となっていた。


屋敷の中で、唯一見つかったのは、暖炉の上に無造作に置かれた新聞だった。

新聞には帝国の出来事やフロストッチの名が記されており、その日付は十五日前のものだった。


これにより、ここが確かに帝国の領地であり、つい最近まで何らかの活動が行われていたことが確認できたが、それ以上の手がかりは見つからなかった。


フィオナはレイから聞いた二つの地下室の話を思い出しながら、初めてその場所に足を踏み入れた。


彼女は冷静に周囲を見渡し、静かに言った。

「それにしても、痕跡を残さないとは、慎重に動いているな」


そこは何も置かれておらず、まるでここに何も存在していなかったかのようだった。


セリアは軽く肩をすくめた。

「敵もさる者ね。前回ここに来た時から半月で、こうもあっさり拠点を捨てるなんて、よほど知られたくないことを隠してるんでしょうね」


「見つかったのは新聞だけか…でも必ず見つけてやるわよ!」

リリーは何かを決心したようだった。


レイは前回の逃走劇が派手になり過ぎたことを思い出し、反省した。

「敵が逃げてしまったのは自分のせいかもしれない」


次こそは、闇の密偵としてクールに隠れなければならない。

そう決意したレイは、目立たないように完全に存在感を消す方法を考え始めた。


だがその一方で、ふと頭に別の考えがよぎる。

「いや、もしかしてクールに登場しても良かったんじゃないか?」


早くも頓珍漢な思考に迷い込み、レイは小さくため息をついた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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