第149話(未知への一歩)
レイは開口一番、口を開いた。
「やっぱりラドリア帝国でした。ここの教会の司祭様が言ってたので間違いありません」
そしてすぐに続ける。
「で、この後、どうしますか?」
フィオナが提案する。
「ラドリア帝国とわかった以上、戻った方が良いだろう。我々は通行許可証もないのだからな」
セリアも頷きながら言った。
「そうね、危険は避けるべきね」
サラは軽い調子で言う。
「どうするかは、任せるニャ。私のランク票はイシリア発行じゃニャいから、敵国にはならないニャ」
「せっかく来たのに帰っちゃうんですか?」
レイが少し残念そうに返した。
セリアはため息をついた。
「うーん、危険なのよ」
「通行許可証ってどんな時に必要なんですか?」
レイの問いに、フィオナが答える。
「たとえば、大きな町に入る時、ギルドのランク票と一緒に提出だな」
「ギルドのランク票を持ってない人は?」
「商人なら商人ギルドの会員証だし、何も持っていないと通行税を取られるな」
レイは少し考え込んでから提案した。
「じゃあ通行税を払って町に入るってどうですか?」
セリアは即座に反対した。
「レイ君、ダメよ。ここに来る前にギルドでダンジョンに入る手続きしてるの。一週間音沙汰が無かったら捜索依頼が出されるわ」
「まだ二日目ですよね?」
レイが確認するように問い返す。
セリアが問いかけた。
「レイ君、何がしたいの?」
レイは少し恥ずかしそうに言った。
「ほんの少しだけでも見てみたくて……他の国の屋敷って、どんな造りなんでしょう。もしかしたら、オレの記憶にある家に似た場所があるかもしれないって思って…」
フィオナとセリアは一瞬、顔を見合わせた。
「そうか…」
「そうね…」
二人は、レイの家族の手がかりを探すために行動していた。
今の一言で、彼が何を見たがっているのかを察し、多少の危険を伴っても彼の願いを叶えようと考えを変えた。
フィオナが提案する。
「では、こうしよう。隣町に行くまでの日数が往復三日以内ならば、その町まで行って町を見て回ろう。そしてこの国にいる間、ギルド票は一切見せない」
セリアが同意し、注意を加える。
「あと、この国のお金も必要ね
サラが自信満々に提案した。
「なら私が換金するニャ! 獣人国のギルド票なら問題ニャいはずニャ!」
こうして、レイの願いを叶えるための行動が始まった。
セリアは村人にフロストッチまでの道のりと所要時間を尋ねた。
馬車で約一日かかると分かると、サラにOKサインを出す。
サラはギルドに向かい、迷いの森で得た魔石や牙、針などの採取品を換金した。
一方で、レイとフィオナは森の中の木陰で、シルバーと共に静かに息を潜めて待機していた。
二人が戻るのを待って、いよいよ出発である。
フィオナとセリアがレイとサラの荷物を持ち、二人はシルバーにしがみついた。
サラはジャンプシューズを起動し、レイもアルの強化を受ける。
アルのサーマルレギュレーションシステムのおかげで、レイの体温は完璧に調節され、
汗もほとんどかかなかった。
そして、通常ならば一日はかかるであろう馬車の旅を、二人と一頭はわずか一刻で踏破した。
フロストッチの町が見えるところまで来ると、レイはシルバーに合図を送った。
シルバーは注意深く減速し、ピタリと止まると「ブルルッ」と鼻を鳴らした。
だが、町に着いたはいいものの、シルバーを中に入れられないことは分かっていた。
テイム証の無い魔物を町に連れて入るのは不可能だ。
誰かがシルバーと共に町の外に残るか、別の策を講じる必要がある。
セリアが提案する。
「一人がシルバーと共に町の外に残って、他のメンバーが町に入るのが無難かもしれないわ」
フィオナも頷いた。
「町の周辺で安全な場所を探して、そこにシルバーを待機させるのも手かもしれない。彼が自分で見張ってくれるなら、危険も少ないだろうし」
サラが何か思いついたように言った。
「ニャ、シルバーが自分で森に戻って隠れてくれたら良いニャ。戻ってきたら森で合流するのはどうニャ?」
レイはシルバーに向き直る。
そんなこと、言って通じるのか?
しかし、シルバーは「ヒヒィン」と鳴くと、レイをベロッと舐め、後ろを向いてコニファー村の方向に
駆けて行ってしまった。
レイはその突然の行動に驚き、戸惑った表情を浮かべた。
「あれ、これって通じたの? それともここでお別れなの?」
セリアが首をかしげながら言う。
「分からないけど、シルバーは何かを察したのかもしれないわね」
フィオナも静かに頷いた。
「シルバーは賢い魔物だ。私たちが戻るまで、森のどこかで待機しているのかもしれない」
サラは笑顔で言った。
「きっと森で待ってるニャ」
レイは少し安心した様子で、仲間たちに向かって言った。
「そうだよね。ちゃんと返事をしたし。シルバーを信じよう」
こうして、シルバーのことを心に留めながらも、レイたちはフロストッチの町へと足を踏み入れることになった。
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