第147話(進むべき道は何処に)
「ん? 植生? 何のこと?」
レイはアルに問いかけた。
周囲を見渡すと、ついさっきまで広がっていた紅葉樹の森が、いつの間にか針葉樹の森へと変わっていた。
異変に最初に気づいたのは、他でもないアルだった。
(レイ、何かが起こったようです。この場所はさっきとまったく違います)
アルは、現状を見極めるように考えを巡らせていた。
(ここはフィールドダンジョン内なので、何が起きてもおかしくはありませんが――考えられるのは、瞬間的に別の場所へ転移させられたトラップ。または幻覚で景色が変わったように見せられている可能性。あるいは、ダンジョンの一部が擬態して景色を変えたり、異なる生態系が接している場所にたどり着いた結果、急に景色が変わったように感じたのかもしれません)
「ちょっと待って。まず転移だろ? 次に幻覚を見せられてる。それから、森そのものが擬態した可能性と、異なる生態系が接してるってことだよな?」
レイはアルの言葉を整理しながら確認する。
「はい。そして、四番目の可能性は低いですね。今、話しながらレイは後ろを向きましたが、すでに全て針葉樹に変わっています。もし異なる生態系が接しているだけなら、紅葉樹が視界に残っていたはずです」
アルが静かに補足した。
そこへ他のメンバーも近づいてきて、異変について話し合い始める。
「突然こんなに景色が変わるなんて、何か変化が起きたのかもしれないな」
フィオナが少し心配そうに言う。
「戻ったほうがいいのかしら?」
セリアもレイに問いかける。
サラは周囲をぐるりと見渡しながら、やや戸惑った様子でつぶやいた。
「森が一気に変わったニャ」
「アルは、転移したのか幻影を見せられてるのか、それとも森そのものの擬態なのか、まだ分からないって言ってました。とりあえず、警戒しながら進みましょう」
レイは周囲を見回しつつ、落ち着いた口調でメンバーに告げた。
慎重に進んでいくと、やがて道は途切れ、周囲は針葉樹に囲まれた草原へと開けた。
見渡す限り、歩いてきた道以外はすべて森に包まれている。
「これは森の中を進めということだろうか……?」
レイは小さくつぶやいた。
シルバーはキョトンとした顔をしているだけで、どうやら道案内はここまでのようだった。
観念したレイは、再びメンバーの元へ戻った。
「次は、森に入るしかなさそうです」
レイの言葉に、フィオナが続ける。
「そうだな。セリア殿、ここは昼夜の概念があるダンジョンだと思うのだが、何か情報はあるだろうか?」
セリアは空を見上げながら答えた。
「そうね……空は曇っているように見えるけど、夜もあるって聞いているわ」
「ならば、この草原で野営した方が良いだろう。ここなら見通しも良いし、安全だ」
フィオナがそう提案する。
「賛成よ」
「私も賛成ニャ」
セリアも頷きサラも同意した。
「了解です。じゃあ、野営の準備に入ります」
レイがそう返すと、メンバーはそれぞれ準備を始めた。
フィオナは野営場所として、草原の中央に近い位置を選んだ。
風や雨の影響を受けやすいというリスクはあったが、今日の天候は安定しており、
何よりも見通しの良さが索敵のしやすさにつながると判断したからだ。
もちろん、四方八方から敵に狙われやすい点については十分に警戒が必要だった。
だが、最終的な決め手になったのは、やはりシルバーの存在だった。
スレイプニルであるシルバーの姿を見れば、よほどの魔物でなければ近づこうとはしない
――フィオナはそう読んでいた。
その予想は的中していた。
実際、シルバーは優れた感覚で接近する魔物を察知し、ひと睨みするだけで撃退してしまう。
レイが安心してへそを出したまま眠れたのも、まさにシルバーのおかげだった。
こうして一夜を明かしたレイジングスピリットのメンバーは、翌朝、二日目のダンジョン探索に取りかかった。
もっとも、森の真ん中に向かう必要はなかったため、彼らは最短ルートで森を抜ける道を選ぶ。
魔物との遭遇によって多少方位がずれても、特に気にせず進むことにした。
すると途中で、白い毛皮を持つ狐の魔物が姿を現す。
レイたちの前に立ちはだかったが、シルバーがすかさず対応し、あっという間に狐を蹴散らしてしまった。
さらに進むと、今度は巨大な白熊の魔物が現れる。
だが、これもまたシルバーが軽々と撃退した。
この日も、シルバーは大いに役立った。
敵を蹴散らしてくれるのはもちろん、セリアやフィオナを背に乗せても嫌がることなく、
軽快に森を進んでくれる。
最初こそ、セリアもフィオナもおそるおそる背にまたがっていたが、
シルバーの動きがあまりにも安定していたため、やがてすっかり慣れてきた。
鞍がないために少し不安げではあったものの、そのうちスリルを楽しむようになり、
キャーキャーと笑いながら移動を楽しみ始める。
「キャー! 風が気持ちいい!」
セリアが笑顔で叫び、
「これ、思ったよりも楽しいぞ!」
フィオナも声を上げた。
それを聞いていたレイは、少し呆れたようにつぶやいた。
「あんなにシルバーに警戒しろって言っておきながら……全く」
すると、サラがレイを宥めるように笑って言った。
「まぁまぁ、楽しんでるんだからいいじゃニャいか」
そして一行は、ついに迷いの森ダンジョンを抜ける。
だが、そこに広がっていたのは、誰一人として見覚えのない風景だった。
壮大な景観が広がっているわけでもない。
ただ、森の近くに村がひとつ。
だが、その村に並ぶ家々は、今まで見たどの村とも違う、奇妙な造りをしていた。
「……ここは、どこ?」
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