第140話(危険な質問)
その日の夕方、レイは一線を超えた。
ここがファンタジー世界でなければ「地雷を踏んだ!」と言った方が正しかったかもしれないが…。
宿に戻ってきたフィオナが微笑みながら言った。
「レイとサラは、ずっと遊んでて、まるで子供みたいだったぞ」
「え〜っ、ちゃんとした大人ですよ。もう十八歳なんだから。それより三人は、お幾つなんですか?」
その瞬間、フィオナとセリアはピキピキと音が鳴るくらい完全に固まり、一方でサラは気にせず元気よく答えた。
「私は二十四になったニャ!」
フィオナとセリアは驚いた表情でサラを見つめ、レイも少し戸惑いながら呟いた。
「言っちゃうの? それ!」
フィオナは少し焦りながら、控えめに注意する。
「レイ殿、その、なんだ、あまり女性に歳を聞くのは…」
セリアは落ち着いた表情で微笑んだ。
「私はレイより四つ上かな。年上の女の人って、どう?」
フィオナはセリアに裏切られたような気持ちを抱きつつも観念し、蚊の鳴く声で話す。
「わ、私は、三十になったが…ハーフエルフだからな、に、人間で言えば十八歳だ!」
レイはフィオナの力強い宣言に少し驚きながらも目を輝かせた。
「え、そうなんですか? じゃあ、フィオナさんとオレ、人間の歳で言えば、ほぼ同い年ってことですか?」
フィオナは若干引きつった笑顔で苦笑しつつ答える。
「そ、そういうことにしておこう…ハーフエルフだからな…」
セリアはニヤリと笑って言った。
「でも実年齢は三十歳でしょ?」
レイはセリアの挑発に慌ててフォローに回る。
「い、いや、エルフの年齢って人間とは違うし、見た目も若いし、全然大丈夫ですよ!」
フィオナはそんなレイを見て、少し照れながらも微笑んだ。
「ま、まあ、そうだな。見た目が若ければ問題ない…だろう?」
サラは楽しそうに笑い声を上げる。
「ニャハハ! レイ、フィオナの機嫌を損ねないように頑張れニャ!」
セリアもクスクス笑いながら冗談めかして言った。
「レイ君、本当に可愛いわね。そんなに慌てなくても、怒ってないわよ。ただ…次に歳の話をする時は、覚悟しておいたほうがいいかもね」
レイはその言葉に少し怯えつつも、素直に返事をした。
「はい、肝に銘じます…」
(メリサンドさんが言ってた、女の人に歳の話をするって、本当にタブーだったんだ!)
その日の夜、レイは地雷原を抜けようと匍匐前進で違うベッドに移動しようとした。
「どこに行くのかな?」
セリアに見つかってしまった。
まるで彼女が多機能端末を使ってレイの行動を観察していたかのように、あっさり捕まったのだ。
今度はバックパックを障害物として利用し、足音を立てずに少しずつ移動を試みたが、今度は腕組みをしたフィオナに見つかってしまう。
「もう、遅い。早くベッドに戻って寝た方が良い」
仕方なくレイは、セリアとフィオナに挟まれたベッドに戻るのだった。
なぜ三つのベッドが相向かいに並んでいる中で、レイが真ん中のベッドに寝ているのかは言うまでもないだろう。
神殿での一夜を思い出したレイは、毛布を被って寝ることにした。
次の日の明け方、レイはついに「地雷原」を抜け出すことに成功した。
忘れないうちに村の中を巡り、「実がなったトマトゥルの株」を探してみたものの、そう簡単に見つかるものではなかった。結局、レイは諦めてダンジョンに向かうことにした。
レイがスキップしているように見えるのは、きっと気のせいだろう。
レイたちはいよいよダンジョン攻略に向かう準備を整えた。
レイは宿屋に大きな荷物を置き、使い慣れたバックパックを背負う。
出発前、セリアからダンジョンについてのレクチャーが始まった。
「良い? ここのダンジョンは『迷いの森』って呼ばれているだけあって、冒険者が遭難することが多いの。
もしはぐれてしまったら、無理にダンジョンに戻るんじゃなくて、一旦森の外に出て、村に帰ってきてね」
三人は真剣な表情で頷いた。
「はい!」
「了解した」
「ニャー!」
レイたちは「迷いの森」ダンジョンの中に足を踏み入れた。
しかし、そこは見た目には普通の森にしか見えなかった。
木々が青々と茂り、鳥たちがさえずり、日差しが木漏れ日となって地面に落ちている。
レイは首をかしげながら、周囲を見渡した。
「これが本当にダンジョンなの?」
フィオナは慎重な口調で説明する。
「見た目は普通の森だが、ここでは方向感覚が狂いやすいんだ。前回もトレントを倒しているうちに、いつの間にか森の外に出てしまったことがある」
サラも警戒を促した。
「ニャ、匂いも普通だけど、油断しないほうがいいニャ。進んでいるつもりが、気づいたら森の外周にいることがあるニャ」
セリアが注意を促す。
「だからこそ、ここで迷わないように気をつけないとね。はぐれたら、すぐに村に戻ることを忘れないで」
レイは真剣に頷いた。
見た目は普通の森でも、「迷いの森」の名に違わぬ不思議と危険が潜んでいることを知りつつ、レイたちは慎重に歩を進めていったのだった。
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