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第138話(嫉妬の火花)

レイは、セリンをしばらく離れることを伝えるため、セリアたちパーティメンバーと一緒に赤レンガ亭を出た。まずはギルドに寄ることにした。


ギルドの扉を開けた瞬間、バランとリサが満面の笑みで駆け寄ってくる。


「上手いことやりやがってコノヤロー!」

バランはそう言いながら、レイの背中をバシバシと叩いた。


続けてリサも同じように叩きながら言う。


「本当よ、まったく!」

肩をビシィっと音が鳴るほど叩かれ、レイは「グェ!」と声を上げる。


何が「上手いことやりやがって」なのか分からなかったが、最近の「聖者タッチ」がここまで浸透してしまったのだと、内心で思いながら大人しくされるがままになった。


周りにいた冒険者たちも遠慮なく叩いてくる。

(ちょっと力が強くない?これ)

その様子を見ていたセリアが声をかけた。


「レイ君、ギルドマスターにも挨拶しておいた方がいいわよ」


そう言って、周りの冒険者たちを散らしてくれる。


「ああ、セリアさんが…」

周りが騒いでいたが、レイには何を嘆いているのか分からなかった。


「ええっ、ギルドマスターに?」

少し戸惑いながらも、レイはセリアの後をついて行くことにした。


階段の手前では、フィオナとサラがまるでお見送りをするかのように手を振っていた。


「ギルドマスター、レイがセリンをしばらく離れるって報告したいんです。お願い、聞いてあげてください」

セリアが頼むと、ギルドマスターのアーノルドは机の上で腕を組みながら重々しく頷いた。


「ほう、またどこかに行くのか。お前の噂は町中で聞いているぞ。今回はどんな無茶をするつもりだ?」

鋭い眼差しをレイに向けるアーノルドに、レイは少し緊張しながら口を開いた。


「トマトゥルの苗を探しに行くんです。セリンを少しの間離れることになりますが、戻ったらまたよろしくお願いします」


アーノルドは深く息を吸い込み、レイをじっと見つめる。


「レイ、お前がセリンを盛り上げた功績、それは大いに評価されるべきだ。聖者トマトゥル祭の案も、町を大いに賑わせた。セリンの住民たちにとって、お前がどれほど重要な存在かは間違いない。だがな…」


言葉を一度切り、アーノルドはレイの目を捉える。


「そのためにはまず、お前自身の命が大事だ。無茶をすれば、せっかくのお前の努力が全て無駄になる。お前の行動が、仲間や町の人々にどれだけの影響を与えるか、しっかり自覚してほしい。無謀な行動は避け、冷静に状況を見極めて、自分ができることを最大限に生かしてくれ」


アーノルドはレイの肩を軽く叩き、続ける。


「セリンを離れることになっても、ここはお前の帰る場所だ。どんな時でも、お前を待っている仲間がいることを忘れるな」


(やっぱりこの人の話は長いよ…)

と、レイは心の中で思う。


(これじゃ尺がなくなっちゃうだろう)

内心焦りながらも、口に出す勇気はなかった。言い出したら、さらに話が長くなるだけだ。ぐっと堪えて黙って聞くことにした。


「ありがとうございました」

頭を下げると、アーノルドはレイの頭をバシッと叩いた。


「ったく、上手くやりやがって!」

笑いながら言われ、レイは話が長くなるのを恐れてさらに堪える。


(ここでも聖者タッチなのか)

と心の中で呟く。


その様子を見たセリアは、呆れつつも苦笑いを浮かべていた。


「まったく、みんなして…」

小さくつぶやきながら、レイを見守る。


ギルドを出たレイたちは、次に孤児院を訪れることにした。

ファルコナーのお土産を渡した後は、トマトゥル畑を見に行った時くらいしか孤児院のメンバーと話せていなかったため、久しぶりに顔を合わせたいと思ったのだ。


孤児院に到着すると、シスター・ラウラは教会に出掛けていて不在だった。

すると、シスター・イリスがすぐに駆け寄ってきた。


「レイ、その人たちは…誰なのよ?」


「一緒に冒険してるパーティメンバーなんだ」

レイが答えると、イリスはさらに眉をひそめた。


「どうしてみんな年増の女の人ばかりなのよ?」


その瞬間、空気が一気に険悪なムードに変わる。

フィオナ、セリア、サラは思わずイリスを睨んだ。


「あ、あの…」

レイが状況を和らげようと口を開きかけたが、その前にセルデンが寄ってきて助け舟を出す。


「まぁまぁ、みんなして張り詰めてないで、何か話があったんでしょう?」


レイよりしっかりした様子で宥めに入った。

レイは少し緊張しながら、領主様と畑を増やす話をして、トマトゥルの苗を探しに旅に出ることを伝える。


すると、イリスが寂しそうな顔で問いかける。


「また行っちゃうの?」


さらに続けて、


「その女たちと?」


再び険悪な雰囲気が漂いそうになったが、セルデンとレイは何とか宥めることに成功した。


(やばい、これ以上ここで話をするのは不味い)

そう直感したレイは、苦笑いを浮かべて口を開く。


「実は、他にも寄らないといけないところがあって…」


そう言って、急いで孤児院を出ることにした。

フィオナ、セリア、サラも状況を察して、そそくさとレイに続いた。


レイは心の中でホッとしつつも、次の目的地の当てもないまま足を速める。

だが、簡単に許されることはなかった。


「レイ、あのシスターは何なのだ?」

「そうよ、何なの? 絶対喧嘩売ってるわよね」

「よい度胸だニャ!」


三人は怒りを露わにしていた。

レイは冷や汗をかきながら、なんとか説得を試みる。


「イリスは、孤児院で一緒に育った妹みたいなやつなんだ。確かにちょっと独特なところがあるけど、悪いやつじゃないんですよ。本当に。昔からオレのことを心配してくれてたし、ちょっと過保護なところもあるけど、あいつなりにオレを気遣ってくれてるんです」


フィオナは腕を組みながらうなずいた。

「妹のような存在か……なら、少しは理解できる気がするな」


セリアが肩をすくめて言う。

「妹みたいな子なら仕方ないけど、もう少し言い方は考えてほしいわね」


サラも不満げに尻尾を揺らした。

「ニャるほど、妹ニャら仕方ないけど、次は穏やかにしてほしいニャ」


三人は一応レイの顔を立て、レイはほっとした様子で微笑む。


「だから、みんなもあまり気にしないでやってよ。もしまた何かあったら、オレがちゃんと話すからさ」


三人はやや不満を残しつつも、レイの言葉に納得し頷き、それぞれ気持ちを整理し始めた。

レイは、これでなんとか一件落着だと胸を撫で下ろした。


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