第13話(シスターは男前)
(レイ、大丈夫ですか?)
アルが声をかけたが、レイは放心状態のまま町を歩いていた。
「魔法が使えると思ったのに、精霊との契約が必要って……。それに儀式って……」
レイは迷子の子羊のように考えながら歩いていた。
(その幼少期に受ける儀式ですが、レイは受けなかったのですか?)
アルが問いかけてくる。
「儀式なんて受けたことないよ。そんなのがあることすら知らなかった!」
(それが分かる人に、心当たりはありませんか?)
「心当たりねぇ……」
しばらく考えた後、
「ああっ、分かる人がいるかも!」
とレイは叫び、一目散に走り出した。
大広場を抜け、いつもの道を曲がると、孤児院が見えてきた。レイは待ちきれない気持ちで扉をノックした。
「レイです! シスター、シスターいますかー?」
「はいよ。そんなに大声出さなくても聞こえてるさね。ちょっとお待ちよ」
シスターが(うるさいねぇ)と思いながら扉を開けた。
「レイ、どうしたんだい? こんな真っ昼間に孤児院に来るとは珍しいさね」
「シスター、ちょっと聞きたいことがあったんです」
「そうかい。じゃ、中にお入りよ」
「はい、お邪魔します」
「で、聞きたいことって何さね?」
レイは、今日図書館で調べた魔法について話し、自分が儀式を受けた記憶がないことを明かした。
それを聞いたシスターは大きなため息をついた。
「はぁ……レイ、そんな“当たり前のこと”を、なんで今まで気にしなかったんだい!」
「ええっ!? 何のことですか?」
「ええっ、じゃないよ、あんた。ここに何年いたんだい? その間に何人の子が洗礼式を受けたと思ってるのさ」
レイは考える。自分より年下の孤児は六人いるが、下の二人は洗礼前である。
「えっと、キャロットに、ルルに、ラクスイに、バズゥの四人ですね」
「それだけ洗礼式をやってるのを見てれば、自分がやってないことくらい、すぐに思いつくだろう?」
そう言いながら、シスターは少し難しい顔をして、しばらく黙り込んだ。
やがて口を開いて…
「そういや、あんたがこの孤児院に来る前に、変なことがあったんだよ。
あんたのいた村には教会がなかったから、私たちが行って『洗礼式』をやることになってたのさ……
いや、そもそもこの町で洗礼式を受けさせるためにレイを呼ぶはずだったんだよ」
「すみません。昔の話なのに……」
「そう、レオニウス司祭がね。あんたのいた村だけ巡回に回るから、洗礼式に呼ばなくていいって
言い出したんだ。それで巡回の準備を始めようとしたら、一人で行くって言い張ってね。
結局、レオニウス司祭が冒険者を雇って出かけちまったのさ」
「で、三日も経たないうちに、冒険者が役人とギルド長を連れて来てね。
村がオークに襲われて、司祭様も亡くなったって。生き残ったのは子供だけで、あんたたちを
引き取ることになったのさ」
シスターはそこまで一気に話すと、レイの顔を見つめながら続けた。
「レオニウス司祭は、あんたに会いに行ったんだよ」
レイは小さかった頃の記憶を思い出そうとしたが、司祭様に会った記憶も洗礼式を受けた記憶も思い出せなかった。
「オークに襲われた日のことは覚えています。今でも忘れられません。でも、その前に司祭様に会った記憶も、洗礼式の記憶も……無いんです」
と、レイも考え込んでしまった。
シスターはしばらく黙った後、
「おかしいねぇ。まあ、普通なら、洗礼式を受けてない子がいても、次の年に受けさせるもんだけどさ。
洗礼が済んだかどうか調べる方法はあるから、ちょっと待ってな」
続けて、
「あのときはみんな気が動転してたからねぇ。いろんなことが一遍に起きちまって、
何かが抜けても仕方なかったかもしれないねぇ」
そして、
「神に仕える身でこういうことを言うのは拙いと思うけど……でも、その歳で洗礼もないってんなら、
エーテルクォーツに触れて、魔力の有無を確かめるのはどうだい?」と言った。
レイはゆっくりと立ち上がり、目を輝かせながら訊ねた。
「それって、今でも確かめられるんですか?」
シスターはうなずき、口元を緩める。
「儀式は今さらできないけど、触って確かめるだけなら誰にも言わなきゃ問題ないさね」
シスターはちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
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