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第133話(怒涛の準備期間)

司祭様の対応は素早かった。

レイから総本部の返事と式典の内容を聞き出すと、「セリンで良いですね?」と念を押し、

レイが「それでお願いします」と答えるやいなや、大広場の奥にある町役場へと彼を引っ張っていった。


「さぁ聖者殿、行きますよ!」

「えっ、どこにですか?」

「領主様に会いに行きます」


「ええぇ!? ちょ、ちょっと待ってください、ま、まだ心の準備が、あぁ、待って!」


ずるずると引きずられながら、レイはそのまま町の領主様と面会することになった。


司祭様は一ヶ月後の儀式を予定し、日程の承認と式典の規模を領主様と協議。その場で教会関係者への指示を飛ばし、セリンでの開催を決定。スカイホーク便で総本部にも正式な書状が送られた。


領主様に紹介されたレイは、緊張で声を裏返す。


「ヒャイ、い、いや、これは皆さんの助けがあってですね…」


「ふむ、君が聖者殿か。これからはセリンの誇りとなってもらうよ。……しかし、ちょっと格好が貧相だな。

 聖者として見栄えがせん!すぐに服屋を呼べ、立派な衣装を作らせよう!」


その瞬間、職員がガッとレイの腕を掴んだ。


「ちょ、ちょっと待って、あぁ、待って!!」


領主様はすぐにシルバーホルム、ファルコナー、グリムホルトなど近隣の町や村に連絡を指示。

参列者への招待状が次々と発送された。町役場は装飾、パレードのルート、祝祭の手配に追われ、

警備隊と騎士団には非常体制が通達された。


「やあ、聖者様、どうですかな? なかなかの規模の儀式になりそうですぞ」

「いや、これ、やり過ぎじゃないんですかね?」

「聖者殿、丁度いいところに。これからリハーサルです。早くこれに乗って!」


「あ、ちょっと待って、あぁ、待って!」


教会では、祈りの儀式や聖具の準備が進み、配置や参列の調整が繰り返された。町役場では、屋台や祝祭用の設営、通行規制の対応に追われる。


「聖者殿、こちらでパレードのリハーサルを行っております。お見えになったところで、ご一緒にどうぞ!」

「えっ、ちょっと待って、まだ心の準備が…」

「おっと、次は儀式の練習です。早くこちらへ! 急がないと間に合いません!」


「ちょ、ちょっと待って、まだ着替えが半分しか、あぁ、待って!!」


一方、近隣の信者たちも続々とセリン入りを始め、早めに到着した者たちは屋台や大道芸に興じ、町はお祭り騒ぎと化していた。市場はにぎわい、広場には特産品が並んだ。


「おい、あれ見てみろ! あそこに聖者様がいるぞ!」

「わっ、みんな、そんなに一気に来ないで…!」

「おお〜聖者様、聖者様だ〜! わ〜〜っ!」


「ちょっと待ってくれ、そんなに押されたら、あぁ、待って〜!!」


騎士団は町の外周を警戒し、音楽隊や舞踏団が到着。大広場には特設舞台が設けられ、祝祭の準備は最終段階へ。商人たちは「特別な聖者グッズ」を次々と売り出し始めた。


「あら、聖者様! どうですか、この音楽に踊り、華やかでしょう!」

「そうですかね……ちょっと派手じゃないですか?」


そこへ商人が満面の笑みで駆け寄ってくる。


「おお〜聖者様! 聖者様の刻印が入った肉串、食べてくだされ! 聖者汁っていうのも作ったんだ、飲んでくれ! 聖者様抱き枕もあるぞ〜!」


「ちょっと待って、何でそんなものまで作ってるんですか、あぁ、待って!!そんなの売らないで!」


怒涛の勢いでこれらの準備が進められる中、レイは領主様の前に連れ出され、司祭様から紹介された。


「聖者様はトマトゥルの生産の代表でもあるのです」


その言葉を受けて、領主様の喜びはさらに大きなものとなった。そして、こう提案する。


「おお、これは実に喜ばしい!ならばこの日を、毎年セリンのお祭りにしようではないか!

 名は、そうだな、“聖者トマトゥル祭り”だ!」

「ちょっと待ってください!トマトゥルの前に違う言葉が…」


レイが必死に抗議したが、その提案はあっさりと押し通されてしまった。


その間、レイはほとんどメンバーとは会えなかった。

遠くから手を振るくらいが精一杯で、思うように話す時間も取れなかった。


そして、ある日、司祭様からレイに当日のスケジュールが伝えられた。


「早朝は教会での祈りと聖者認定の儀式、昼前からはパレードで町を練り歩きます。

 昼過ぎには広場で祝祭と市場が開かれ、音楽や舞踏もございます。

 夕方には教会に戻って最終祈祷、町全体での祝賀会がありまして、

 日が沈んだら夜市で締めくくりです」


これらの予定を聞いたレイは、そのスケジュールの過密さに、再び肩を落とすしかなかった。


「聖者様、大丈夫です。移動は全て輿で行いますから、レイ様は輿にお座りになって手を振るだけのお仕事です」


一方、通行人たちの噂も広がり始め、あらぬ方向に膨らんでいった。


「おい、聞いたか? 荷車モンスターの祭りがあるらしいぞ!」

「また変なあだ名だな。あの冒険者のことか?」


「そうそう。聖者トマトゥルを運ぶ荷車を、町中で追いかけるんだと!」

「追いかけるって何だよ、それ。馬か?」


「荷台のトマトゥル掴めた奴には褒美だってよ!」

「うちのばあさんなら五つは取れるな」


「しかも“最後尾はこちら”って札が立ったらしいぞ」

「列できてんのかよ……って、え、今から並ぶの?」


「当たり前だろ。俺は聖者様のトマトゥルを頂くつもりだ!だって一つ銀貨一枚だぞ」

「それを先に言えって!」


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