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第132話(静かなる聖者の帰還)

セリンに戻ったレイは、「あの狭くて何も無い部屋が落ち着くんです」という理由で、フィオナとサラの反対を押し切り、宿屋の素亭に戻った。


家賃が銅貨十枚というこの場所が、こんなに落ち着くとは今まで知らなかったと、深いため息をつく。

それに、この後のことを考えると気が重くなる。


セリアはギルドに向かい、辞める手続きを行うと言って、レイには来なくて良いと告げていた。


「孤児院にお土産を渡しに行くんでしょ?だったらそっちを優先して。ね!」

そう言われてしまったのだ。


レイは宿に荷物を置くと、セリアの言葉に従ってお土産を持ち、孤児院に向かうことにした。


ドアをノックすると、シスターラウラが出迎え、彼を孤児院の中へ案内した。

この建物はかつて教会として使われていたが、現在は孤児院として利用されている。


ふと建物を見渡すと、あちこちに修理の跡が目立つ。

壁のひびも修復されており、明らかに人の手が入っていることが分かった。


「なんか、色々修理されてませんか?」


レイがそう尋ねると、シスターラウラは微笑んで答えた。


「これかい?赤レンガ亭の主人が寄付を置いていったんだよ」

「そうなんですか?」


レイが驚くと、ラウラは頷いて続けた。


「ああ、向こうにとっちゃ先行投資みたいなもんなんだろうよ。何しろ、トマトゥルの最初の出荷はあの店だからね」

「大丈夫なんでしょうか?」


少し心配そうに尋ねたレイに、シスターラウラは軽く返した。


「寄付なんだから大丈夫に決まってるだろう?」


妙に納得してしまうレイ。


その時、シスターイリスとセルデンがやって来た。


「レイ、おかえりなさい」


セルデンがそう言うと、イリスが少し恥ずかしそうに声を上げた。

「あ、あんた、帰ってきたなら…お、お土産くらい渡しなさいよ!」


レイは笑顔で袋を差し出す。

「ちゃんと忘れずに買ってきたぞ!」


「当然でしょ…!」

イリスは、いつものように少しツンとした態度を見せた。


レイは心の中で安堵した。アルに干物を復活してもらっていて本当に良かった、と心から思う。


(まさか二回も干物を復活させるとは思いませんでしたが…)


「すまん、アル。もしお土産をダメにしたと知られたら、イリスが怖かったんだよ」

レイは小さく心の中で謝った。


「で、レイ、お土産は司祭様の分も買ってきたかい?」


シスターラウラに問いかけられ、レイは少し困ったように答える。


「いえ、司祭様に何を買えば良いのか分からなかったので…でも手紙なら預かってます」

「誰からだい?」


「えっと、東部神殿の神殿長です」

「だったらさっさと持って行きな!何をモタモタしてるんだい!」


シスターラウラが叱りつけるように言った。


「はいっ、分かりました〜っ!」

レイは慌てて返事をし、急いで孤児院を飛び出した。


「あっ、ちょっと…」

イリスの声が遠くから聞こえたが、レイは聞こえなかったふりをして、そのまま走り去った。


レイはアルの示す矢印を無視して、いつも通っている道を選ぶ。


(レイ、急いだほうがいいんじゃないですか?)

アルが疑問を投げかけた。


(いや、その道って人の家の庭を通るだろ!)


レイが反論すると、アルは冷静に返す。

(そうですが…)


(いつマッピングしたんだよ?)

レイが問い詰めると、アルは淡々と答えた。


(補完しただけです。実際に通ってみないと正確なルートは出せません)


レイは呆れたように肩をすくめる。

(おいおい、それって地図を埋めたいだけなんじゃ?)


少し間を置いて、アルが返答する。

(それも少しありますが、効率的な移動のためです)


レイは半ば諦め、肩をすくめながら呟いた。

(やれやれ、付き合いきれないよ)


やがてレイが教会に到着すると、シスターに声をかけ、東部の神殿長から司祭様に手紙を預かってきたことを伝えた。シスターはうなずき、レイを司祭様のいる部屋へと案内してくれた。


レイが手紙を渡すと、司祭様は「ありがとう」と微笑みながら受け取った。

しかし、その場で手紙を開くことはせず、大切そうに机の上にそっと置いた。

そして、「お疲れ様でした」とレイに優しく言い、彼を労った。


「すぐ読まないんですか?」

レイが恐る恐る尋ねた。


司祭様は微笑みながら答える。


「手紙というものは、ゆっくりと心を落ち着けて読むものですよ。特に、神殿長からの手紙ですからね。あなたの前で読むのは少し失礼かもしれません」


レイは少し顔を赤らめ、慌てて頷いた。

「そ、そうですよね」


司祭様は再び微笑み、レイの緊張を和らげるように優しい眼差しを向けた。


「多分、自分のことが書かれてると思うんです」

レイは正直な気持ちを口にした。


司祭様は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて頷く。


「そうですか。それなら、あとでゆっくり読んで、必要なら君に伝えることもあるでしょう」


レイは少しホッとしたように頭を下げた。

「ありがとうございます。でも、気になるので、後で教えていただけると助かります」


「もちろんです、レイ。安心して待っていてください」

司祭様は穏やかに言葉を返した。


レイは司祭様の部屋を出ると、そのまま宿には戻らず、礼拝堂へと向かった。

広い空間に静寂が漂い、祭壇の前でしばらくじっと立ち尽くす。


(アル、おれ、何回も念を押したよな)


レイが心の中で問いかけると、アルは落ち着いた声で返した。

(ええ、レイはしっかりと司祭に確認していました。なのでここで待てば良いと思います。すぐに呼ばれると思いますし)


(オレもそう思う)

 

レイは頷きながら、礼拝堂のベンチに腰を下ろし、静かに待つことにした。


やがて執務室の方から、ドタドタと足音が響いてきた。


「誰か、誰かいますか?」


慌てた様子の司祭様の声が、礼拝堂に響き渡る。


レイはベンチから立ち上がり、(やっぱりきたか〜)と心の中で呟きながら、司祭様の方へと歩き出した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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