第130話(壺売りと謎の武器)
男を担ぎ上げたレイたちは廃坑を後にした。ゴーレム狩りどころではなくなってしまったからだ。
廃坑を出たところで、古びた作業小屋の裏に壺売りの占い師がいるのが見えた。
壺は売っていないが、レイの記憶の中では壺とセットで定着してしまっていたため、その姿が目に留まった。
レイは占い師が片手を挙げ、手首を折りながら動かして“こちらに来い“とジェスチャーしているのに気づいた。
さらに、もう一方の手で一本の指をレイに向かって伸ばして何回か縦に振っていた。
“一人で“とその意図を強調するように。そのジェスチャーの意味をすぐに理解したレイは、一瞬だけ相手を見てから、慎重に歩を進めた。
男が小屋の裏に身を隠すと同時に、三人から声がかかる。
「どこに行くの?」
「ニャ?」
「ちょっと、誰か居ないか探してきますので、そいつを見張っててください」
そう言い残し、レイは小屋の方へと小走りで進み出した。
「壺売りの占い師さん、なんでここに居るんですか?」
「壺なんて売ってねぇよ! それに、大人には色々あるんだよ」
占い師は肩をすくめ、苦笑いしながら答えた。
「それより、困ってるんだろ?」
そう言って占い師は、少し覗き込むようにレイの顔を見つめる。
「何をですか?」
「あの男をどうしようか? とかだな」
「……ああ、そうですね。誰かに衛兵の人とか呼んできてもらおうかと思ってました」
「じゃあ、それはこっちで手配してやるから、ここの近くに居てくれ」
占い師は手をひらひらと振りながら、にこやかに笑った。
「それと、あの男が変な武器持ってなかったか?」
「それ、なんで知ってるんですか?」
「ああ、すまん。オレもこの星出身なんだが、今は訳あってな」
占い師はそう言うと、あの男のものによく似た奇妙な武器を静かに取り出して見せた。
「あなた、一体何者なんですか?」
「オレは、あの男を追いかけていたんだよ。ここで悪さをしないようにな」
「ああ、そうですね。人を誘拐しようとしてましたからね。だから捕まえたんです」
レイは少し身を正しながら問いかけた。
「占い師さん、もう一つ質問があります。あの男は一体何者なんですか?」
レイの眼差しは鋭く、その問いには強い意思がこもっていた。
占い師は少し考え込むように目を細め、それから静かに口を開いた。
「新聞屋みたいなもんだよ」
「新聞屋…?」
レイは不思議そうに首をかしげた。
「そうだ。あいつは情報を集めてそれを売りさばく。まあ、あまりいい奴じゃないがな」
占い師は冷静な口調でそう答え、再びレイに視線を戻した。
「でも、あの男のせいでパーティメンバーは怖い目にあったんです」
レイは少し緊張をほぐすように吐き出す。
「それは済まなかったな。でも安心していい。あいつ一人の思いつきで犯した事件だからな」
占い師は少し微笑みながら、優しくレイに語りかけた。
「ああ、あとはこっちに任せな。あ、武器は預かるぞ。危険だからな」
彼は穏やかに手を差し出した。
「本当に任せて大丈夫なんですよね?」
レイはまだ不安げに尋ねながら、占い師の表情をじっと観察した。
「大丈夫だ。信じてくれ」
占い師は穏やかな笑みを浮かべつつ、レイの目を真っ直ぐに見つめた。
そのフードの奥に光る眼差しに、嘘はない――そう感じたレイは、少しの間黙った後、ゆっくりと手に持っていた武器を差し出した。
「分かりました。お願いします」
レイがそう言って武器を渡すと、占い師は軽く頷き、それを慎重に受け取った。
占い師は武器を丁寧に扱いながら、レイの方へ向き直る。
「助かる。これで一安心だ。もう町に帰ってもいいぞ。さあ、他の皆も心配してるだろう。早く戻ってやれ」
その目は優しく、どこか父親のようだった。
レイはその言葉に頷き、小屋を後にして仲間たちの元へと戻っていった。
占い師は何かを小さく呟きながらレイと反対の方に小走りで去って行った。
「…チクショウ!目の前に居るのに…」
レイは仲間の元に戻る途中、ふと足を止めた。そして心の中でアルに問いかける。
(なあ、アル、あれで良かったんだよな?)
(はい、レイ。今はそれで良いと思います)
アルの落ち着いた声が頭の中に響き、レイは少し安心した表情を浮かべ、再び歩き出した。
廃坑の入り口に戻ると、占い師の言葉通り、衛兵の格好をした人たちが到着し男を連れて行った。
レイはその一部始終を見届けた後、仲間たちに占い師がここに来た理由と、彼があの男を追っていたこと、情報欲しさにフィオナを拐おうとしたらしいことを説明した。
フィオナは、再び同じように襲われるのではないかという不安があるのだろうか、いつもより表情が固くなっていた。しかし、レイが「何かあったら絶対守りますから」と優しく言うと、少しだけその表情が和らいだ。
その後、セリアがそっとレイに問いかけた。
「私は?」
レイは即座に答える。
「当然、守ります」
その一言に、セリアの頬がほんのりと赤く染まった。
視線を外すようにして、小さく呟く。
「なら、安心ね」
照れ隠しのようなその言葉に、わずかに笑みがこぼれた。
「本当に何者なんでしょうね、あの占い師さん…」
レイが小さく呟きながら、ひとまず騒動が終わったことに安堵の息をついた。
そんな中、にこやかなサラが、すり身スティックを片手に近づいてくる。
「とりあえずこれを食べて落ち着くニャ!」
レイは気が緩んだのか、ふと素朴な疑問を投げかけた。
「サラさん、そんなにすり身スティック食べてて……一体何本買ったんですか?」
すると、サラは口いっぱいにスティックを頬張りながら答える。
「ニャ? これはフィオナのバックパックから出した保存食ニャ! 私は買ってニャい!」
その瞬間、レイの表情が凍りついた。
「それってもしかして!」
叫ぶなり、フィオナのバックパックに駆け寄る。
ガチャッと食料室の蓋を開け、勢いよく中を覗き込む。
「うわーっ! オレのお土産が〜!」
頭を抱えるレイに、サラは悠々とした口調で告げた。
「知らニャいのか、少年。そこに入れたものはパーティ全員の食べ物ニャンだ!」
「知らないよ〜それ先に教えてよ〜!」
“教えてよ〜“ “てよ〜“
レイの声が廃坑の奥へと、虚しく木霊していくのだった。
第三章 完
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