第126話(次の目的地へ)
レイは悩んでいた。
帰るべきか? 帰らざるべきか?
いや、それだけじゃない。神殿からセリンに戻るのも二日かかる。
「あと二日」という言葉の意味は、果たしてどこまでを含めているのか。
単純に待てばいいのか、それとも神殿にとどまっている必要があるのか。
それが問題だった。
(レイ、悩んでも仕方ありません。あの男の言葉を信じるなら、今から四日後にセリンに着けばよいのです。
余裕を持つに越したことはありません)
「なるほどね……了解。もっとちゃんと壺売りの占い師さんに聞いておけば良かったよ。こんなに悩むなんて自分でも思わなかった」
レイは軽く頷きながら言い、その場にしゃがみ込んで小さく息を吐いた。
「でも、そうすると、ここでじっとしてるのもなんか落ち着かないよな」
肩をすくめるレイに、アルが静かに問いかける。
(神殿にいる理由はありませんね?)
「……たしかに。移動しながら時間を潰せばいいだけか」
顔を上げたレイの表情に、ようやく迷いが晴れた。
(ようやく気づきましたか)
「ま、多少遠回りでも、行ってみたい場所を探せばいいんだよな」
レイは小さく笑い、首をひねる。
(近隣に詳しい方に聞いてみるのが良いでしょう)
「なら、セリアさんだな」
素早く決断し、レイはそのまま歩き出した。
神殿の中庭では、セリアが涼しげな顔でお茶を楽しんでいた。
柔らかな風が吹き、庭の花々が優しく揺れている。
「セリアさん、少し相談があるんですけど」
そう声をかけると、セリアは湯飲みを置き、軽く目を細めた。
「どうしたの?」
「このまま神殿で待つより、どこか狩場とかダンジョンに寄り道できればと思って。でも、近くの地理にはあまり詳しくなくて」
セリアは顎に手を当て、うーんと唸るように考え込む。
「そうね……このあたりだと、この前行った廃村を越えた先に山岳地帯があるくらいかな。ファルコナー方面も山道が続くだけで、特に新しい発見はないと思うわ」
レイは「なるほど」と頷いた。
だが、セリアはふと何かを思い出したように、パッと表情を明るくする。
「そうだ、シルバーホルムの廃坑があったわ」
「廃坑?」
「うん。ここから行っても多分一日はかかると思うけど、シルバーホルムの鉱山の奥に使われなくなった廃坑があるの。中にはゴーレムが出てくるからDランク以上が推奨なんけど、今のレイ君なら問題ないわ」
「それ、なんだか面白そうですね。ありがとう、セリアさん」
レイは一礼し、すぐに行動に移った。
フィオナとサラにもそのことを伝え、出発の準備を進めていく。
もう迷いはなかった。次の目的地も、行動の指針も定まり、足止めの不安はすでに過去のものになっていた。
神殿前では、神殿長や助祭司、シスター、侍女たちが見送りに立っていた。
「本当にお世話になりました」
レイが丁寧に頭を下げると、神殿長は深く頷き、ゆったりと語る。
「こちらこそ、レイ殿には長く足止めさせてしまい、申し訳なく思っている。我らもいずれセリンへ向かう。道中、どうか気をつけてくれ」
「ありがとうございます」
レイは柔らかく笑って返した。
そうして歩き出したその横で、セリアが振り返りながら言う。
「レイ君、その廃坑は街道からだと遠回りになるから、ここから西へ向かったほうが早いわ」
そう言って、セリアは道を指さし、進行方向を示した。
すると、フィオナがレイの隣へと並ぶ。
「何か起きた時、すぐに対応できるようにしておきたい。私が横に付く」
「私は案内役ね」
セリアが反対側に立ち、レイは自然と両側を囲まれる形になった。
「……なんか守られてるな」
少し照れくさそうに笑うレイ。
その前方で、サラが元気よく手を挙げた。
「斥候ニャ! 先に行ってるニャ!」
軽快に駆け出していくサラの背中を見送り、一行は神殿を後にし、西へ向かい始めた。
長く続いた足止めから、ようやく解放された気分だった。
廃坑での狩りはちょっとした息抜きになるだろうと、そんな軽い気持ちで足を進めていった。
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