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第125話(どっちが大事?)

レイは貴賓室へ戻ると、仲間を全員呼び集めた。

そして、緑のフードを深く被った長身の占い師から聞いた話を伝える。


「後二日はセリンに帰らない方が良い。帰ると大事な人が金輪際居なくなるらしいんです!」

そう忠告されたのだと。

最後にやたら怒っていた理由だけは、よく分からなかったが。


「なんだその変な輩は」

「何なのかしらね?」

「ふーんニャ」


と、三者三様で返事が返ってくる。しかし目線はレイに向けられており、気にしている様子がうかがえる。


レイは皆を見渡し、真剣な表情で口を開いた。

「で、どうしようか相談しようと思ったんです」


すると、フィオナが強い口調で詰め寄る。

「その男の言葉を間に受けるのか? レイ殿」


レイは焦ったように言い返した。

「でも、大事な人が金輪際居なくなるって、この中にいる誰かかもしれないじゃないですか!」


「大事な人!」

「大事な人!」


フィオナとセリアがハモるように叫ぶ。

レイは首をかしげた。


「ん?」


「少年、続けるニャ!」

サラに急かされ、レイは話を続ける。


「その人、壺を売ることもせず、ただ忠告して去っていったんです。大事な人が居なくなっても良いのかと」


「だ、大事な人!」


再びフィオナとセリアが揃って叫んだ。

レイは気圧され、小さな声で続ける。


「それは困るので、みんなに相談してから決めようかと思ったんです」


フィオナは腕を組み、深刻な顔でうなずく。

「そうだな、大事な人に居なくなられたら困るな」


セリアも真剣な眼差しでうなずいた。

「そうね、大事な人だもんね」


レイが少し言葉を詰まらせる。

「でも、その人が何か企んでて、嘘を言ってる可能性もあるかもしれないんです」


「ふむ、確かにその線もあるな。だが、大事な人が居なくなるのも困るのではないか?」

フィオナは冷静に問い返す。


セリアも心配そうに首を傾げる。

「まあ、確かに騙される可能性が無い訳じゃないけど、二日後にしたとしてレ、レイに不都合はあるのかしら?」


レイは少し苦笑しながら答える。

「まあ、強いて言うなら干物が心配でしょうか?」


「レ、レイ殿、大事な人と干物、どっちが大事なんだ?」

「そうよ、干物と私、どっちが大事なの?」


フィオナとセリアの鋭い視線がレイに突き刺さる。


「むっ、ずるい。私と干物とどっちを取るのだ?」

フィオナがさらに一歩踏み込む。


「神ニャ、神のような流れニャ」

サラがぽつりと呟いた。


レイは焦りながら、必死に答えた。

「何を言ってるんですか、干物より三人の方が大事ですよ!」


「そ、そ、そうだな」

「あはは、そうよね」


フィオナもセリアもバツの悪そうな笑みを浮かべた。


「飽きニャい面白さだニャ」


サラは楽しそうに笑っている。

レイは困惑の面持ちで問いかけた。


「すみません。で、どっちにすれば良いんでしょうか?」


三人が即答する。


「レイ君が決めて!」

「レイに任すニャ!」

「レイ殿にお任せする!」


レイは内心で助けを求めた。


(アル〜助けて〜)


だが、アルはあくまで冷静だった。


(お任せします)

「そんな〜」


***

 


side:壺売りの占い師と呼ばれた男

 

「まったく、リューエンのオヤジは人使いが荒くていかんな……」

男はぶつぶつ文句を言いながら、セリンの市壁を登っていた。


「えっと〜家族を守るにはどうすればいいんだ?」


ボソボソと独り言を漏らしながら、ようやく壁の上へ。

見下ろす町の景色を睨みつけ、方向を見定めるように呟いた。


「どっちが愛しい家族を守れるんだ? 右か?」


その瞬間――ズキンッ!

胸に刺すような悪寒が走った。


「ハズレかよ。じゃ、左だな」

そう言って壁を降り、左へ進路を取る。


「ヤバいな。あと何回か使ったら魔力切れになりそうだ。ったく、使い勝手が悪すぎだろこの能力はよぉ…」


男はまたぼやきながら、フードを深く被り直して町に入っていった。


「せっかくケスラに戻ってきたのに、家にも帰れないなんて……誰が邪魔してんだ?」


苛立ちを滲ませた声が、路地裏に吸い込まれていく。


「怪しいヤツを探せって言ってもなぁ、オレも十分怪しいからなぁ……」

ため息混じりにそう呟いていた時だった。


ピタッ!


突然、男は立ち止まり、ビクッと肩をすくめた。


「……あのシスター怖っ!」

殺気のようなものを感じて慌てて物陰に隠れる。


「何だあの殺気……ただ者じゃないな。もしかして怪しい奴ってあのシスターか?」

半信半疑のまま能力を使ってみる。

 

ズキィッ!


再び胸をえぐるような悪寒。


「違うのかよ。くそっ!」

男は顔をしかめ、荒く吐き捨てた。


「こりゃ今日はダメだな。もう魔力が切れそうだ……」

肩を落としながら呟く。


「明日だ、明日!」


気力を振り絞るように言い聞かせると、男は足早に宿を探し始めた。

大広場に出たところで、雰囲気のいいレストラン兼宿屋を発見した。

レンガの壁に観葉植物が飾られた、小洒落た外観だ。


「ここでいいか…」


男は一泊分の料金を払い、夕飯も頼むことにした。

メニューを開いたが、よく分からない名前ばかりが並んでいた。


「何だこのメニュー、ああ、選ぶの面倒くさい。これでいいか……」


適当に指差しながら注文を告げる。


「おーい、これとこれ、あとパンを二つ」


「しっとりふわふわ柔らかロゥゥストオォークと、気合いを入れて絞ったフルゥッツジュゥースですね〜!」

店員はテンション高く確認してから、軽やかに去っていく。

その背を見送りながら、男は呆れたように呟いた。


「なんて怪しい奴……いや、今日はもうやめよう……」


テーブルに肘をつき、ぼんやり料理を待つ。


「ったく、データセンターで捕まえてれば、こんなに面倒なことにならなかったのに……」


思わず愚痴が漏れる。

深くため息をつきながら、男は視線を宙に泳がせた。


「次はもっと簡単にしろって、リューエンのオヤジに言ってやる……」


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