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第124話(不吉な予言)

その男は、ヴォルグズ連邦国に住む流れのジャーナリストで、一匹狼として知られていた。

十五年前の不可解な事件をきっかけに、このメルディ星系にある未発展文明の惑星、ケスラに降り立った。


調べを進めるうちに、七十年前の宇宙船事故がすべての発端だったと気づく。

ヴォルグズ連邦の船と、エリューシアの船がこの星に不時着し、ヴォルグズの船はこの付近に墜落。

その後、銀河連盟の事務次官リューエンが、この一帯を「禁域」として指定した。


「五十年間、この星域に立ち入ってはならない」

そんな法案が、なぜか強引に可決されていた。今ではその期限も切れ、渡航は再び可能になっている。

だが、いまだに許可なしでは星系に入ることすらできない。


禁域が解除された十五年前、調査団が編成された。

しかし、その調査中に「AI誤作動事件」が発生した。

現地で採取された鉱物サンプルと調査データが完全に混ざり、全データが使用不能となったのだ。


原因は不明のまま。調査は突如打ち切られた。

常識では考えにくい結末だった。その不自然さが、男の疑念を深めていく。


なぜこの星を、それほどまでに隠したがるのか?

男は、事務次官リューエンの背後に“何か特別な力”があると疑っていた。

調べ続けるうち、リューエンがケスラの言葉を話せるという情報を掴んだ。


彼は長寿の種族、長耳族の男。

六十五年前、突如としてエリューシア星系同盟の中枢に現れた人物で、その出自には謎が多い。

ジャーナリストは、整形で人間の姿を作り、違法に言語をダウンロードし、監視の目をすり抜けて

ケスラに潜入した。


だが、情報は少なかった。

この町の近辺では長耳族の話は聞こえてこない。ようやく得たのは、二週間前に駆け出し冒険者が

長耳族の女と獣人を連れて護衛依頼に出た、という噂だけだった。


その冒険者が向かった町の名を尋ねると、すぐに返事が返された。


「帰ってくるから、待ったほうがいい」


宇宙船を使えばすぐに移動できるが、痕跡は残したくなかった。

動けば動くほど、見つかるリスクが増えるからだ。


さらにこうも言われた。


「アンタ、言葉遣いが昔っぽいな。どこで育ったんだ?」


どうやら、ダウンロードした言語のバージョンが古かったらしい。

それでも、リューエンに関する手がかりをこの星でつかめれば、確実に“ネタ”になる。

慎重に動く価値はあると判断した。


***


その頃、レイたちは神殿に戻っていた。

エリオス助祭司とエゼキエル神殿長から、馬車の件についての謝罪とお礼を受け、聖者認定の手続きも、なんとかセリンで済むように調整された。


それならばと、さっさと帰ろうとしたのだが――気づけば、陽が斜めに傾きかけている。


「これは呪いだ。間違いなく呪いなんだ…」


レイは呪詛のようにブツブツと呟きながら、神殿長に頼み込んだ。


「今日一晩だけ泊まらせてください。大部屋で良いので!」


だが案内されたのは、やはり貴賓室だった。ぽかんとするレイの横を、個室に向かう仲間たちが通り過ぎる。

フィオナとセリアは、ちらりと振り返りながら言った。


「大部屋の方が良いのだがな…」

「大部屋の方が良かったのに…」


不満げな声を残しつつ、それぞれの部屋に入っていった。


サラだけは特に何も言わず、もぐもぐとすり身スティックを頬張りながら個室へと向かっていく。


レイはというと――


「大部屋の隅とか、狭い部屋のが落ち着くのに…」


そう言いたい気持ちをぐっとこらえ、居心地の悪い貴賓室に腰を落ち着ける羽目になった。


しばらくじっとしてみたが、どうにも落ち着かない。

気分を変えようと立ち上がり、ふと外の空気を吸いたくなった。


「そうだ、湖にでも行くか…」


神殿近くの湖まで足を運ぶ。水面は静かで、風も穏やか。心のざわめきが少しずつ引いていくようだった。

浜辺に腰を下ろし、レイはぼんやりと考え事を始める。


そのときだった。すぐ近くに、ひとりの男の姿が現れた。


フードを深くかぶった長身の男。どこか不思議な雰囲気をまといながら、湖畔をゆっくり歩いてくる。


男はブツブツと独り言をつぶやいていた。


「…ったく船で鳥を追っかけたかと思えば…街道に穴を掘ったり…ホントにこの力、使い勝手が悪いな…。これでホントに……を守れるのか…?」


奇妙な言葉の断片が、風に乗ってレイの耳に届く。

聴覚を強化すると、男の呟きがはっきりと聞こえてきた。


「…と思った……、誰かいるな。こいつが鍵か? 話しかけた方が良さそうだな」


男はこちらに気づき、ゆっくりと近づいてくる。

やがてレイをじっと見つめると、男は言った。


「お前、普通の人族だよな。ここに来るとなんか良いことが起きるような気がして来たんだが、まさかお前、オレの娘に手を出してたりしないよな…」


「へっ? なんですか、いきなり」


思わずレイの声が裏返る。

男はさらに呟きを続ける。


「いや、それは良いとして。うーん…このまま去ると良くないことが起きそうだな…」


「誰ですか? あなたは」


レイの問いに、男は目を伏せる。


「今は、その質問に答えられないんだよな」

「すみません、さっきから何を言っているのか分からないんですが…」


困惑するレイに、男は淡々と続けた。


「気にするな。こいつが多分、何かの鍵なんだけど…」

「すみません、何も用がないなら戻りますけど良いですか?」


レイが立ち上がろうとすると、男が手を伸ばす。


「ちょっと待て。お前、この後の用事はなんだ?」

「えっと、夕飯を食べますけど…」


「いや、違う、もう少し先の予定だ」

「セリンに帰ることですかね」


男は「うーん…」とうなると、口を開いた。


「あの町のことか…」

そして真剣な目で、レイに言った。


「お前、まだ帰るな」

「へ?」


「だから帰るなと言っている」


レイは戸惑う。

「いや、そう言われても意味が分からないですよ」


「まあ、そうだな。ずっと帰るなと言ってる訳じゃないんだ」


男はひと息つき、少し落ち着いた口調で語りかける。


「すまんな。いきなり知らない奴に『帰るな』なんて言われても信用できないだろうが、聞いてくれ!」

「壺を買えとか言うタイプの人ですか? そういうのは要らないですよ、旅の途中だし壺とか、訪問販売お断りですので!」


レイがジト目で言うと、男は大げさに手を振る。


「いや、壺は売らないけどな。オレは占いができるんだよ」


「やっぱり幸運の壺じゃないですか! そうやって騙して壺を買わせるつもりなんでしょ!」

「だから、何も売らないって言ってるだろ。オレは占い師なんだよ」


「売らない占い師?」


「最初のは要らない。でだ、お前、今、町に戻ると取り返しがつかない悪いことが起きるって、顔に書いてあるんだよ!」


「ええぇっ!」

レイが大げさにのけぞる。


男は表情を引き締め、再び言った。


「だから、よく聞け。それを防ぐには一日、いや二日、そうだな、二日後にしろ。そうすれば災いから逃れられる。もし町に帰ったら…」


「帰ったら?」

レイがごくりと唾を飲む。


男はしばらく黙ったまま、頭を左右に何度も振った。その様子は何かを否定し続けるような、焦燥と葛藤に満ちていた。


やがて、男の動きが止まり、真剣な眼差しで言い放つ。


「もしそれより早く町に帰ったら、お前の大事な人が金輪際、お前の元から居なくなるぞ!

「それって本当ですか?」


一拍の沈黙の後。男は苦い顔で、ぼそっと答えた。


「ああ、そう言う風に顔に書いてあるんだよ!だから少し待て!あ〜なんか知らんがムカつくな!このクソッタレが〜っ!」


そういうと、フードを深くかぶった長身の男はこの場を去っていった。


「何だったんだ?あの人…」



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