第120話(エルフの里があった場所)
木々の間を移動しながら、フィオナ、セリア、そしてサラの三人が話していた。
ここは神殿とは反対側にある、湖に面した森の中だ。
今日は自主訓練にしませんか?というレイの提案を受け、フィオナとサラは、大昔にエルフの里があったと思われる場所を調べに行こうと決めた。そこへセリアも「私も行く」と言い出し、この組み合わせになった。
フィオナとセリアが何やら楽しげに話している。
サラは少し後ろを歩きながら、二人の会話を穏やかに傍観していた。
やがて、セリアがちらりとフィオナを見て、ためらいがちに口を開いた。
「フィオナ、ちょっと真面目な話をしてもいい?」
声色に気づいたフィオナが足を止め、振り返る。
「うむ、構わんが?」
セリアは一瞬目を伏せ、少し照れくさそうに言った。
「お互いに分かってると思うけど、レイの一番になりたいんでしょう?」
フィオナは少し驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかに頷いた。
「うむ、そうだな。だが、セリア殿も同じ気持ちなのだろう?」
セリアは真剣な目でフィオナを見つめる。
「そう。だから、前の話の続きになるけど、ライバルとして協定を結ばない?お互い正々堂々と勝負して、抜け駆けはなしにしよう」
フィオナは少し考えたあと、柔らかく笑った。
「正々堂々と勝負か。それは良いな。お互いの気持ちを尊重し、レイがどちらを選んでも恨みっこなし、というわけだな」
「そう、それがいいと思う。フェアな勝負をしましょう」
セリアも笑顔を見せた。
フィオナは手を差し出しながら言う。
「うむ、良かろう。では協定成立だ」
「協定成立ね」
セリアもその手をしっかりと握り返した。
少し離れた場所で見守っていたサラが、楽しそうに言った。
「破ったら、お魚百匹ニャ!」
「誰にだ?」
「誰によ!」
笑い合う三人は、気持ちも軽やかに森を進んでいった。
***
陽が斜めに傾き始めたころ、自主練習を終えた仲間たちが戻ってきた。
三人は一緒に行動していたらしく、湖畔で魔法の練習をしていたレイを見つけると、そのまま近づいてくる。
「皆さん、おかえりなさい」
「ただいまニャ」
「ただいま」
「ただいま」
セリアも満足そうに返しながら、「お土産よ」と言ってウサギを掲げてみせる。
遠くから見ていたのか、三人がレイの魔法を褒め始めた。
「それにしても、レイ君、すっかり一端の火魔法使いって感じね」
「うん、いい感じだニャ。これなら魔法使いを名乗ってもいいニャ」
「ああ、本当に見違えるほど上手くなっているな」
三人の言葉に、レイは照れくさそうに頬を赤らめた。
「そんな、大したことないですよ」
レイは居心地の悪さから話題を変える事にした。
「それより、三人はどこに行ってたんですか?」
「ああ、昔の話なんだが…と言っても私が生まれるずっと前のことなんだけどな…」
フィオナが少し遠い目をしながら言った。
「そんな、もったいぶらないの」
セリアがからかうように笑いながら続ける。
「この先にエルフの里があったらしいのよ」
「すっごく昔ニャ」
三人が探していたのは、かつて星降りによって消滅したエルフの里の跡だった。
フィオナが祖父母から聞いた話によれば、かつて東の森に住んでいたエルフたちは、星詠の賢老の占いによって
移動を決めた。森が人の住めぬ地になると知った彼らは、西や東に散り、新たな里を築いたという。
その後、星降りが起こり、東の森はほとんど消滅した。その跡地に湖ができたとされている。
フィオナは祖父母の話を思い出し、もしかするとエルフが戻ってきているかもしれないと考えて、湖の反対側を訪ねたのだ。
レイが視線を向けると、フィオナが指を伸ばした。
「多分だが、湖の先の、あの森がかつてエルフの里があった場所なのだと思う」
「フィオナさんも確かではないんですか?」
「…ああ、伝聞だからな。祖父母から聞いただけだし、ここに来たのも初めてだ。もしあの森に誰か戻ってきていたら、父の話を聞けるかもしれないと…そう思ったんだ。でも、ファルコナーを最後の捜索地点にすると言っておきながら、やっぱり未練が残っているようでな…」
困ったように笑うフィオナに、レイが優しく声をかけた。
「フィオナさん…無理しなくてもいいですよ」
フィオナは少し間を置いてから、頷いた。
「そうだな。ありがとう」
「で、誰も居なかったんですか?」
レイが問いかけると、フィオナは少し困ったように返す。
「そうだ」
そして、少し解説を加えるように話し始めた。
「湖の北側に森が見えたから、もしかしてと思って行ってみたのだが、あの森はまだ若かった。木の樹皮も滑らかで、枝も狭い範囲しか広がっていなかった。古い木なら根が地面を這うように広がるが、あの森の木々は根も深く、土の中にしっかり埋まっていた。つまり、星降りで更地になったあとにできた、新しい森だったんだ」
「へぇ、そんなことも分かっちゃうんですね。」
レイが感心して言うと、フィオナは少し得意げに微笑む。
「一応、半分はエルフだからな。森のことはそれなりに知っているぞ」
「へぇ、じゃあ森での狩りの仕方とか教えてもらおうかな」
「もちろん、レ、レイにだけ特別に教えるぞ!」
照れた声で近づいてくるフィオナ。
それを見たセリアがスッと間に割り込み、フィオナを引き剥がす。
「はいはい、さっき約束したでしょう?」
「ああ、そうだったな…」
名残惜しそうに頷くフィオナ。
何のことだか分からずサラの顔を見るレイだったが、サラはニヤニヤと笑うばかりで、
何も教えてくれそうにない。レイはますます混乱しながらも、二人のやり取りを見守るしかなかった。
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