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第117話(魔法の試行錯誤)

アルの試行錯誤は、まるで精密機械が魔法の世界に挑むようなものだった。


まずアルは、レイの体内で皮膚の近くに移動し、呪文を唱えてみた。


「火の精霊よ、我が手に集いて敵を焼き尽くせ。ファイヤーボール!」


だが、何も起こらない。次にエネルギーパックから魔力を放出しながら同じ呪文を唱えてみたが、これも無反応。


そこでアルは、ナノサイズという自分の特性を活かし、さらに細かな試行を重ねた。

エネルギーパックの魔力をアームの先に流し、再び呪文を唱えると、魔力が魔法に変わる瞬間を観測できた。

しかし、その結果はファイヤーボールとはほど遠い代物だった。


アルはこの現象を解析する。魔力はただ放出しただけでは形にならず、魔法として成立しない。

重要なのは、魔力をどこで、どのタイミングで精霊に渡すか――


そこで、呪文の詠唱が終わる直前にバルブを開けるよう調整し、魔力を呪文と連動させるようにした。

ナノサイズながらも、ようやく小さなファイヤーボールが形成された。


だが、それでは戦力にならない。


「呪文の『我が手に集いて』という部分を、レイの手に集わせるようにすれば良いのでは?」


アルは新たな仮説を立てた。術者ではなく、対象者の手に魔力を集める言い回しに変更すれば、精霊がレイの魔力に反応し、レイ自身の手に魔法を出現させるかもしれない。


そこでアルは、様々な呪文の節を考案していった。


『彼の掌に力を集め』

『彼の手に宿り』

『彼の掌に燃え盛る力を集め』

『彼の手に力を与え』

『彼の掌に炎を集い』……


また、「彼」の代わりに『レイ』『この男』『彼の者』『我が友』『若者』などを用いたバリエーションも検討し、最も効果的な組み合わせを模索していった。


レイが眠っている間も、廃村に向かう途中も、アルの試行は止まらなかった。


***


神殿の近く、静かな湖のほとりに立った一行は、アルの実験についてレイから説明を受けていた。


「なるほど、その順番で試すのだな」

「呪文って、そんニャに種類があるニャ!」


「いえ、どれも意味は同じなんです。ただ、その違いが結果にどう影響するかを試すみたいで」

レイがそう答えると、サラは納得したように頷いた。


一方、セリアはここへ来るまで顔を真っ赤にしていたため、少し離れた場所で休んでいる。


「じゃ、始めます」

そう言って、レイは掌を湖に向けて構えた。


レイが魔力を供給し、アルがそれを元に呪文を唱えて魔法を発動させる――

今回の実験はその方式で進められる。レイ自身は呪文を唱えない。

ただ、魔力を一定の方向に放出するだけだ。


しかし外から見ると、レイはただ湖に手をかざして立っているだけに見える。


「どうしたのだ? 始めないのか?」

フィオナが不思議そうに身を乗り出す。


「いえ、もう始めてるんですが……まだうまくいかなくて」


困惑しつつレイが答えたとき、彼の手から棒状の魔力が湖へ向かって伸び始めていた。

アルはその魔力が安定するのを待って、静かに呪文を唱える。


(ファイヤーボール!)


精霊が反応し、魔力に形を与えようとする気配が生まれた。


――『彼の手に宿り』


この表現はどうやら正解らしい。だが、魔力が予定以上に前方へ伸びすぎてしまったため、精霊が反応するべき位置が曖昧になってしまう。結果、形成されるはずのファイヤーボールは不安定なまま、湖の手前で霧のように消えてしまった。


「……失敗ですね」

レイは湖面を見つめながら眉をひそめた。


「今のはニャにか起きたニャ。でもファイヤーボールじゃニャい!」

サラが残念そうに声を上げる。


「ふむ、惜しいな。もう少しではないかな?」

フィオナは腕を組んで微笑むが、レイの表情には悔しさがにじんでいた。


気づけば、セリアもすぐ近くまで来ていた。

「モノにできそう?」


心配そうな声に、レイは小さく笑った。

「アル曰く、魔力を魔法に形成する位置がまだ不安定なんだそうです」


「でも、すごいわよね」

セリアがぽつりと呟く。


「レ、レイが前に言ってたでしょ。魔法は小さい頃から覚えないと無理だって。でも、それを覆そうとしてるんだもん。ある意味、尊敬に値するかな」


「いやいや、そんな……」

照れくさそうに笑うレイに、セリアは優しく言葉を重ねた。


「とにかく、頑張って。私、応援してるから」


そう言って、レイの顔をじっと見つめたまま、セリアはゆっくりと下がっていった。


続けるようにフィオナが声を張る。

「レ、レイ! 私だって……そ、その、応援してるからな!」


「少年、諦めずにやるニャ!」

サラも笑顔で言った。


「皆んな、ありがとう」

レイは少し顔を赤くしながらも、しっかりと頷いた。


そのやり取りを見ながら、アルは冷静に状況を整理していた。


(レイ、魔力の制御が重要です。放出範囲が広がると、精霊の反応点が曖昧になって魔法が成立しなくなります。

 次は、魔力の長さと密度を意識してください)


「わかった。次はもっと集中してやってみる」

レイは深く息を吐き、再び掌を湖へと向けた。


こうして、レイとアルの魔法実験は、陽が沈むまで続いていった。


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