第11話(ごめんなさい。嘘です)
ギルドの一階に戻ると、セリアが紙をヒラヒラとさせて待っていた。
「はい、レイ君、図書館までの地図ね」
「あ、ありがとうございます」
セリアはレイに地図が見えるように置いて、図書館までの道を教えてくれた。
「ここがギルドね。ギルドを出たら大広場に出て、噴水のところまで進んで。噴水に着いたら左に曲がって、突き当たりまで真っすぐ行くの。右手にドーム屋根の大きな建物が見えるから、そこが図書館よ」
「町の西側なんですね。あっちは、ほとんど行ったことないです」
「そうなの。ちなみに、この突き当たりを左に曲がると美味しいレストランがあるのよ」
そう言ってセリアは、レストランの位置を地図に書き込んでいく。
「町の西側って、お屋敷が多いじゃないですか?どう考えても高そうで、オレにはちょっと…」
「じゃあ、早くDランクに上がらないとね」
そう言いながら、セリアは手のひらを上に向けて差し出してきた。
レイが「えっ?お金取るの?」という顔をすると、それが伝わったのか、セリアはあわてて手を横に振った。
「違う違う。魔石を換金して行くんでしょ?」
「あ、はい。いや…」
レイは困り顔で俯いてしまった。
「どうしたの? 朝はお金が入り用だって言ってたじゃない。またゴブリンでも倒してきたんでしょ?」
「それは、そうなんですが…」
確かに、今朝は金が必要だと相談していた。けれど、ドゥームウッドまで行ってオークを倒してきたなんて言えない。レイはここでオークの魔石を出していいものか、躊躇した。
すると――
「レイ君。何か隠してるでしょ!」
セリアが怒った顔で、レイの目を覗き込んできた。
レイは耐え切れず、ポケットからオークの魔石を一個だけ取り出し、カウンターに置いた。
セリアは「やっぱり」という顔をして、奥の厚手のカーテンで仕切られた小部屋を指差した。お説教コース、確定である。
セリアは奥の職員に「受付お願い」と声をかけると、レイの手を引いて小部屋の木製の椅子に座らせた。
そしてテーブルを挟んだ反対側に腰を下ろすと、低く一言。
「今朝からのこと、全部話しなさい」
レイが言い淀んでいると、アルが頭の中で囁いてきた。
(レイ、私の言ったことを復唱してください)
アルは、嘘の中に真実を織り交ぜてストーリーを作ってくれた。
レイはアルの囁きに従い、身振り手振りを交えながら一生懸命に話し始めた。
「今日のことなんですけど……まず、もっと良い装備が必要だと思って。それにはお金が必要で、だからゴブリンの穴の最下層まで行けるようになったんです。で、もう少し強いボアとかも倒せたらって思っていたんです。そしたら森でオークが出てきて……祖父母の仇だから、倒したいと思って戦ったんです」
レイは少し間を置き、手を振りながら続ける。
「思ったよりは苦戦しなかったんですけど、持ち帰るのが大変で……そのとき、ガラハドさんが通りかかって、オークを買い取ってくれたんです。それで、戦いの幅を広げようと思って、魔法も勉強しようと思ったんです」
「‥と、これが今日の経緯です」
セリアは黙ってレイの目をじっと見つめ、腕を組んだままうなずいた。
「ふむ……なるほどね。色々無茶もしたみたいだけど、ちゃんと考えて行動できているのね」
少し呆れたように眉をひそめつつも、目には優しさが浮かぶ。
感極まった顔で、セリアは微笑んだ。
「レイ君、すっごく成長したのね」
レイは罪悪感で一杯になった。
(ごめんなさいセリアさん、最初からオーク目当てで森に行きました…)
レイは頭の中で必死にセリアに謝った。
「とりあえずこの魔石のことは分かったわ、でもレイ君はまだEランクなんだから無茶したらダメよ。オークが出たらまず逃げられるかを先に考えるのよ。分かった?」
そう言ってセリアは解放してくれた。
セリアに魔石を渡し換金を済ませたレイは、なんだか疲れてしまい、図書館に向かうのは明日に回して宿に帰るのだった。
***
あくる日、レイはセリアから聞いた図書館に向かっていた。
宿屋からギルドまで行き、そこから地図の通りに大広場まで歩いて行った。大広場には何軒か露店が出ていた。
焼きたてのパンや、具が詰まったパイ。干し肉や、ソーセージにフルーツやチーズの露店、パン粥やスープの店もあった。
(アル、今まで宿屋の近くの露店で済ませてたけど、大広場の露店の方が品揃えが良いかもしれないな。以前より店もかなり増えたみたいだ)
(そうですね、栄養補給の観点から言わせてもらえば、こちらの方が好ましいです。温かい食事はエネルギーを補充しやすいですから)
(今まで宿屋とギルドと雑貨屋で用が足りてたからな〜。後は孤児院か。それだって、宿屋から左に曲がって道なりに行けばすぐだからね。この町の半分も知らずに過ごしてたよ)
(町のどこに便利な店があるかとか、緊急時に避難する場所とか、知らなかったんですか?)
アルが質問してくる。
(うーん…言われてみれば、そういうことはあまり意識していなかったかもしれない。毎日、どうしたら強くなれるのかとか、そんな事を考えてたよ)
(冒険者として成功するためにも、まず自分の拠点である町をもっと知るべきだと思います。情報を集めて、町の構造や重要な場所を理解することで、いざというときに役立ちますからね)
(分かった。今度、暇な時に町を探索してみるよ)
レイは、露店でパンとスープを買い、広場のベンチで朝食を済ませると、図書館に向かって歩き出した。
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