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第114話(秘密の重み)

メンバー全員にアルの秘密を打ち明けたのだが、意外にもあっさり受け入れられてしまった。

今、レイたちは貴賓室で、侍女が運んでくれたお茶を飲んでいる。


この神殿には随分と世話になったが、今日はここを出て、この神殿の東にある廃村に立ち寄ってから、

街道が二手に分かれる二又まで戻る予定だ。


しかし、レイはさっきのミーティングで、皆があまりにも簡単に秘密を受け入れてくれたことが気になり、

心の中でアルに問いかけた。


(なぁ、アル。みんな納得してるみたいだけど、本当に大丈夫かな?)

(何を心配しているのですか?)


(ナノボットを精霊みたいな存在って説明したから、みんなアルのことを精霊様だと思ってるだろ?)

(そうですね)


(それで、オレの中にアルがいて、普通に会話もできるし、怪我や病気も治せるって納得してくれたみたいだけど…)

(はい、その通りです)


(でも、その事に対して何も追及されなかった)

(そうですね。いくつか質問された程度でしたね)


(この力が他の人に知られたら、権力者や悪い奴らに利用されるかもしれないし、危険だって伝えたのに、

 なんでみんな動じないんだろう?)

(それは、私ではなく、彼女らに問うべきことかもしれません)


レイは悩んだ。彼女たちに直接質問して良いものか。

「危険だから自分から離れた方がいい」と言えるほど、レイはまだ大人になりきれていない。

むしろ、この状況に頼ってしまっても良いのだろうかと考え込んでいた。


その時、ドアをノックする音が響いた。

フィオナがすっと立ち上がり、ドアの前で「どうぞ」と声をかけると、神殿長と助祭司が部屋に入ってきた。

レイの考え事は一旦中断され、部屋の雰囲気が引き締まった。


神殿長が入ってきて、セリアが座っていた対面のソファに腰掛けた。

レイはフィオナに連れられ、セリアの横に座らされた。

サラとフィオナはソファの後ろに立ち、助祭司もソファの後ろに立つと、神殿長が話を始めた。


「レイ殿に、ひとつお伝えしたいことがあり、参りました」


「なんでしょうか?」


「聖域での件です。“聖なる核”に関する一件、貴殿の功績は極めて大きく、私どもとしましては、教会本部に対し“聖者”としての認定が可能か、打診の書簡を送らせていただきました。まだ返答は届いておりませんが、それまでの間、出来ればこの神殿に留まっていただければと願っております」


「いや、ちょっと待ってください。こちらも色々予定があるんです」

レイは慌てて返す。


「そこをなんとかお願いしたいのだが」

神殿長は穏やかに言ったが、その声にはどこか切実な響きがあった。


「そう言われても、自分たちはファルコナーからセリンに帰る途中でここに寄っただけなんです」

レイは困惑を隠せない。


「教会総本部へは、特別な手段で既に連絡をしています。その返事が届くまで、どうかこちらでお待ちいただけませんかな」


「いや、そういう話ではなく、聖者認定なんて、重すぎます」

レイは焦りながら言う。


「だがレイ殿はそれだけの事をしたのですが…」

「お断りすることって出来ないんですか?」


「レイ殿は、この事態が明るみに出た時の危うさを、まだご存じあるまい。精霊様の住処を甦らせる力を持つ者が、後ろ盾も持たぬただの民とあらば、それこそ、他国や闇の手に狙われかねませぬぞ」


「えっ、そんなに危ないんですか?」


「隣に座っておられるセリア殿も、そうお考えになっておりませんかな?」

神殿長がセリアに視線を向ける。


「はい、その通りです。この件に関して、後ろの二人とその事について話しておりました」

「えっ、セリアさん?」


「コホン、レイ殿、後ろから声をかけて済まないが、その意見は私も同意している」

「フィオナさんも?」


「ここで単独行動は危険ニャ!もっと仲間を増やしたいくらいニャ!」

「サラさんまで…」


「神殿長、少し考えさせてください」

レイは困惑しつつ、話を待ってもらえるようお願いした。


「良いお返事をお待ちしておりますぞ、レイ殿」

神殿長はそう言うと、ゆっくりと部屋から出ていった。


「ちょっと皆んな、聖者認定なんて受けちゃったら…」

レイは途方に暮れた表情で皆を見渡した。


「受けちゃってもレイ君はレイ君でしょ」

「そうだな、レイ殿はレイ殿だ、そこは何も変わらんだろう」

「そうニャ、少年!」


「だから私たちもレイ君を守ろうとさっきフィオナとサラとも話してたの。だって私たちはパーティでしょ」

真剣な眼差しでレイに言った。


「それはそうなんですが、オレだけじゃなく皆んなも危険に晒されるかもしれないんですよ。それが怖いんです」


レイの声には、真剣な不安が滲んでいた。


「レイ殿、それは私たちも同じだ」


フィオナが静かに言葉を重ねる。


「まず一つ。レイ殿が危険に晒されるというのに、我々が指を咥えて見ていろというのか?私には、それは出来ない」


「それは私も同じよ」

セリアがすぐに頷く。


「皆んな同じだニャ。パーティとして、ちゃんとまとまったニャ」

サラが明るく言い添えると、レイは思わず言葉を失った。


「そして二つ目」

フィオナが少しだけ声を低くした。


「ここにいる全員が、レイ殿の秘密を知っている。もし今ここでバラバラに別れたとして神殿長が言っていたような、他国や裏の組織の輩が、私たちを放っておくと思うか?」


その言葉に、レイは頭を殴られたような衝撃を受けた。


秘密を明かすということは、自分だけでなく、皆を巻き込むということなのか。

レイはようやくその意味を理解し、顔が青ざめた。


「すみません……皆さんを巻き込んでしまったことを、今、知りました。オレは、どうしたら……」


声が震える。


すると、セリアがふわりと笑って言った。


「そうね、責任は取ってもらわないとね」

「そうだな。責任を取ってもらう必要はあるな」


フィオナも頷く。


「わたしは魚を一生分で良いニャ」

サラだけはいつも通りだ。だがその軽さが、どこか救いだった。


「えっと……サラさんのは具体的に分かるんですが、セリアさんとフィオナさんは、どうすれば……?」


レイが困惑して問い返すと、セリアはにこりと笑った。


「後々よ」

「後々だな」


フィオナも同じく、意味深に微笑む。


「ちょっと、教えてください。なんでもしますから……!」


レイが焦って食い下がると、


「“なんでもしますから”というその言葉、忘れんぞ」

フィオナがにやりと笑い、


「言質はとったわよ」

セリアも満足げに微笑んだ。


レイはふうっと小さく息を吐き、肩の力を少し抜いた。仲間たちの言葉に、ほんの少しだけ心が軽くなる。


……だがその表情の意味が、なんとなく気にかかる。


「オレ、なんか変なこと言っちゃった?」


ぽつりと呟いたその声は、小さすぎて誰にも届かなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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