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第113話(何でこうなる?)

貴賓室のソファには、セリア、フィオナ、サラが並んで腰掛けていた。

レイは立ち上がり、姿勢を正すと小さく咳払いをして切り出した。


「えっと、定刻になりましたので、ミーティングを始めます。

 皆さん、本日はご多忙の中、お集まりいただきありがとうございます」


言い終えた瞬間、三人から一斉に声が返ってくる。


「レイ君、身体は大丈夫なの?」

「レイ殿、休んでいなくて良いのか?」

「何の挨拶ニャ、これから謝罪会見が始まるのかニャ?」


アルに教わった“会議の冒頭のあいさつ”を実践してみたものの、いまいち反応がよろしくない。

しかもサラに謝罪会見だと見抜かれたことに、レイは内心で冷や汗をかく。


(なんて恐ろしいんだ…)

(やはり、慣れない事はしない方が良いですね)

(だって、今まで隠してた事を言うんだぞ。どう反応されるか分かったもんじゃないんだぞ)


針のむしろに座らされる未来がよぎりつつも、レイは慎重に次の言葉を選んだ。


「え、えっと、ありがとうございます。身体の方は問題ありません。実は今日は、みんなに話したいことがあります」


言葉に緊張がにじむ。

三人は少し不安げな表情を浮かべながら耳を傾ける。


「これまで隠していたことがあって、謝らなきゃいけないことがあるんです」


「隠していたこと?何?」

セリアが即座に問いかけた。


「ええ、実は…」

レイは少し言い淀みながら、視線を伏せる。


「一昨日ですね、オレ、じゃなく、私がアルって名前を連呼してたの、覚えてますか?」

「もちろん覚えてるぞ。あれほど取り乱すとは一体何だったのだ?」


フィオナが冷静に尋ねるも、レイには鋭く追及されているように感じた。


「あれだけ騒いでたもんね」

セリアの言葉も、妙に冷たい目で見られている気がしてならない。


レイは深く息を吸い込み、思いきって頭を下げた。


「アルは、実はこことは違う世界からやってきた精霊みたいな存在なんです!それを黙ってました!」

腰を九十度に折り、視線を床に向けたまま固まる。

驚きに満ちた空気が、室内に広がっている……はずだった。


「なんだ、そのことならすでに助祭司殿から聞いて、皆んな知っているぞ」

「聞いたわよ。レイ君は、そのアルテミスという名の精霊様から聖なる核を救えって言われたんでしょ?」

「謝罪じゃないニャ。つまんニャいぞ」


一気に緊張が瓦解する。


「えっ、ちょちょっと待ってください。違うんです」


レイは思わず声を上げた。


「ん?精霊様じゃないのか?」

「いえ、それはあってます」


「じゃ、こことは違う世界ってところ?」

「いえ、それもあってます」


「じゃあ、正しい事を言ってるニャ!」

「……あれ?なんでこうなるんだ?」


話が妙な方向へ流れている。レイは必死に言葉をつなぐ。


「ちょっと待ってください。今、整理します。えっと、アルはただの精霊じゃなくて、ナノボットっていうすごい技術を持った存在なんです」


「ナノボットって何なのだ?」

フィオナが即座に問いかける。レイは一拍置いて答えた。


「それは精霊みたいなものです」

「つまり、精霊なんでしょ?」


「はい、そうですね」


「アルは異世界から来た精霊であってるニャ?」


「はい、そうですね」


「待ってくれ。それだと全部最初から言ってることが同じではないのか?」


「……あれ?なんでこうなるんだ?」

レイは真っ白に燃え尽きた。


***


その後、朝食を挟んで行われたミーティングでは、アルの助けを借りながら説明を続けた。


(では、こう答えてください。『私の体は指の指紋の線と線の間に千体が並ぶくらい小さいです。なので接触すればフィオナさんの体の中に入り込むことが出来ます』)


レイはアルの言葉をなぞって説明する。


するとフィオナが腕を組みながらレイをじっと見つめた。


「だからレイ殿は、アル殿を私に移動させるために、傷口に触らないといけなかったのだな?」


レイは一瞬ためらったが、頷いた。

「はい、そうです。すみませんでした」


フィオナは軽く微笑みを浮かべた。

「いや、私は感謝しているのだ。レイ殿に会わなければ、私は歩くこともままならなかったかもしれない」


「いや、それほどでも……」

「それに秘術以上に話せない内容ではないか?精霊様が住まわれる身体だぞ!」


「まあ、そうですね。だから秘密にしてください。お願いします」

「うむ、承知した」


フィオナの素直な感謝の言葉に、レイは少し照れたような表情を浮かべる。

だが次の瞬間、セリアが不意に言葉を挟んだ。


「それより、レイ君。私には何かないの?ギルドの受付をしてた時もレイ君をいっぱいお世話したと思うんだけど、私、何か特別なことをしてもらった記憶がないのよね」


レイはその一言に、ほんの少しの嫉妬を感じ取った。

(えっ、セリアさんにも何か“特別”なことを?)

レイは思いつつ、記憶をたぐってみる。


だが――何も出てこない。

一緒に戦ったことはある。情報交換もした。街を歩いたこともあった気がする。でも、“特別”と呼べるような出来事は……いや、たぶん、していない。


「えっと……特別なことって」


その言い回しすら、セリアの視線を受けているとどこか罪悪感めいてくる。

セリアは軽くため息をつきながらも、冗談めかして言葉を続ける。


「まあ、レイ君には期待してるから。私にも特別なことをしてね」


まさかの指名。思いがけない展開にレイが言葉を詰まらせていると、フィオナがすかさず口を挟んだ。


「ちょっと待つのだ。私だってキズを治してもらっただけで、そう言った方面の特別なことをしてもらった覚えはないぞ。私もレイ殿に要求したいのだが?」


しかも、その表情は意外にもやや真顔だった。


(うわ、フィオナさんまで参戦してきた。なぜか要求制になってきている!)


セリアもすぐに反論する。

「ちょっと待ってよフィオナ。あなたはスタンピードの時、レイに腰を持ってもらって、『合体魔法だ!』って叫ぶほど特別なことをしてもらってるのよ?次は私の番だわ!」


一気にヒートアップしてきた。なぜこの話題で張り合うんだ。オレは何かの景品なのか?


そして極めつけはサラ。


「シュッシュッ!面白いニャ、もっと捻り込むニャ!」


冗談半分どころか、完全にリングの実況が始まってしまった。


レイは静かに頭を抱える。会議はどこへ行った。真面目な報告のはずが、なぜか謎の特別合戦に巻き込まれている。


「……あれ?なんでこうなるんだ?」


深く息を吐きながら、レイはゆっくりと現実逃避を始めたのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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