表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/336

第112話(聖なる認定)

「魔法?」


レイがそう口にしたのは、アルから「精霊からの力、魔法です」と告げられた瞬間だった。

一瞬、何を言われたのか理解できず、レイは目を見開いた。驚きと疑念が入り混じり、思わず問いを重ねる。


「誰に? アルに? え? どうして?」


アルは落ち着いた様子で、当時の状況を淡々と語り始めた。


(コアの修復が終わりかけたとき、突然、内部が輝き出したのです)


その言葉に、レイがすぐさま反応する。


「それ、オレも見たよ。もう魔力が限界だったんだけど、いきなりコアが輝き出したんだ。とにかくコアを包もうと思ったんだけど、ダメだった……」


声には落胆の色がにじんでいた。

すかさずアルが言葉を継ぐ。


(それは私のミスです。変換器や蓄積装置まで含めて魔力で覆ったものですから、再計算するべきでした)


「いや、ごめん。そこは気にしてないよ」


レイは軽く首を振って励ましながら、続きを促した。


「話を続けて」


アルは一拍置いてから話を再開する。


(その時、おそらく精霊だと思いますが、私の意識に向けて思念で語りかけてきました。

思念はほとんど単語のようなものでしたが、それを繋げると『この地を守った感謝の印に、我が力を授ける』と

いう言葉になりました。そしてその直後、私のデータの一部が書き換わったように感じたのです)


「確かに、精霊様が『我が力』って言ったら、魔法だよな」


レイは納得したように頷く。


(そうですね。そして、この力を受け取った私は、機能が著しく低下し、再起動を余儀なくされました)

アルの声には、少し疲れたような響きがあった。

反対にレイの胸は高鳴っていた。

アルが「魔法を授かった」と言った瞬間から、彼の心は逸るばかりだった。どんな魔法なのか、早く試したい。

だが、この豪華な貴賓室で魔法を放つのは気が引ける。


「アル、早く試そう!」

レイが興奮を抑えきれずに言った。


(どんなものかも分かりませんし、レイに危害が加わるかもしれませんよ)

アルの冷静な諫めにも、レイは食い下がる。


「でもさ、小さい魔法を絞って出せば大丈夫なんじゃない?」


目は期待に満ちていた。


(レイの胃袋に向かってですか?)


少し茶化すように返され、レイは苦笑する。

「いや、それは勘弁して。でも、こっそり外に出て湖に向かって撃てば大丈夫なんじゃない?」


提案に、アルは静かにアバターの手を耳の位置にかざし、静かに言葉を返した。

(おそらく見張られています。貴賓室の扉の前に、人の気配がします)


「見張り……?」

レイは思わず顔をしかめ、視線を扉へ向けた。背筋がすっと伸びる。


(レイ、少しお待ちください。聴覚を強化しますから、ドアの向こう側の音を聞いてみてください)


レイはその指示に従い、ドアの向こうに耳を澄ませる。

「誰かドアの前に立った?」


小声で漏らすと、アルが即座に肯定した。


(はい。レイが寝ている間に、神殿はあなたを“聖なる核を蘇らせた聖者”として認定することを決めたようです。

おそらく、扉の外に立っているのは、警護か見張りでしょう。外に出ようとすれば、すぐに見つかると思います。どうしますか?)


レイは思わず息を呑んだ。

「聖者認定……? オレが?」


しばらく言葉が出なかった。


(はい。なので、少し大人しくしておいた方が良さそうです。魔法を試す機会は、必ずありますから)

「それは分かったけど、聖者認定って断れないかな」


(難しいですね。教会を敵に回すのは得策ではありませんし)

「そりゃそうだ。オレ、教会には恩があるし」


(なるべく穏便に済むように持っていきましょう。それと、もう一点あります)


「嫌な予感がするんだけど、気のせい?」

(いえ、気のせいではありません。レイが昨日錯乱して、コアに向かって私の名前を連呼してました。そして私は精霊認定されています)


「ど、ど、どうしよう……?」

レイは頭を抱え込んだ。 



***


まだレイが貴賓室で眠っていた夜の神殿。

その奥深く、静かな一室にて、神殿長エゼキエルが一通の手紙をしたためていた。


重厚な机に広げられた上質な羊皮紙には、緻密なカリグラフィーで宛名が記されている。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「尊敬するデラサイス大司教殿


昨夜、精霊の儀において、前代未聞の奇跡が起こりました。

長らく不安定なままであった“聖なる核”が、精霊の導きによって、再び輝きを取り戻したのです。


その瞬間、儀の場にいた一人の少年『レイ』と名乗る者が、精霊に名を呼ばれ、その身をもって

崩壊の兆しを封じました。


我々は、彼こそが精霊に選ばれし者であり、聖なる核を救うという使命を与えられた

“聖者”であると確信しております。


彼の手を通じ、いくつかの御神体にも変化が見られました。一部には喪失もありましたが、

それ以上に明確な啓示と未来への光を感じております。


よって神殿としては、彼を正式に“聖者”と認め、然るべき保護と導きを与えてゆく所存です。


詳細な経緯は追ってご報告いたしますが、まずはこの奇跡の一報を、

いち早く王都へお届けするべく筆を執りました」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


書き終えたエゼキエルは静かに筆を置き、蝋を溶かして封を施す。

神殿の紋章が刻まれた指輪を押し当て、封書を厳かに完成させると、助祭司エリオスを呼んだ。


やがて姿を現したエリオスは、深く一礼して手紙を受け取る。

それを慎重に筒へ収めると、用意されていたスカイホークの足へ括りつけた。


夜風に羽を広げたスカイホークは、ひときわ鋭い鳴き声をあげて飛び立ち、

神殿の屋根を越え、夜空に旋回してから――まっすぐ王都の方角へと消えていった。


聖者の名を記した一通の手紙が静寂に包まれた夜空を、真っ直ぐに駆けていく。


その頃、レイはまだ、見知らぬ天井の下で静かに眠っていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

評価300ポイント達成記念!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ