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第111話(涙で滲む青い光)

神殿の貴賓室に寝かされたレイと、大部屋から個室に通されたフィオナ、セリア、サラは、

その日も神殿に泊まることになった。しかし、その待遇は昨日とは雲泥の差だった。


もっとも、その大元となったレイは、二度の魔力枯渇によって次の日まで目を覚ますことはなかったが。


そして、夜が明ける頃にようやく目を覚ましたレイは、また見慣れない天井が視界に映る。

かなり豪華な作りだが、今はそれよりも目の前に浮かぶ何かが気になっていた。


青い光がふわりと広がり、徐々に形を成していく。

まるで生き物のように滑らかに動くその姿は、機械的でありながらどこか愛嬌がある。


複数の青い目でレイを見つめ、小さなアームをゆっくりと手を振るように持ち上げた。


(おはようございます。レイ)


メタリックな球体が少し前に傾き、お辞儀をするような仕草を見せた。


「えっ!こ、これってアルなのか?」

(はい、私です)


アルはさらにアームで自分を指差す仕草を加え、レイに語りかけた。


するとレイは感極まったように、瞳に涙があふれ始めた。


「アル…アルが戻った…」


その言葉を繰り返すうちに、感情が一気に溢れ出し、涙と共に鼻水もこぼれ落ちた。

レイはぐしゃぐしゃになった顔で、何度も呼びかけ続けた。


「アルゥゥゥ〜良かったよぉぉ〜」


声が震え、涙が頬を伝いながら、彼は止まらない感情の波に身を任せていた。

アルは、レイの涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をじっと見つめるように青い目を動かした。

もちろん実際に見ている訳ではない。ただ、その動きはまるでレイを優しく見守るような動きだった。


(レイ、大丈夫です。ここにいますよ)


アルは、レイの涙を見て胸が締めつけられるような感情を覚えた。

アームを伸ばし、虚像がレイの涙を拭うように動かすことで、少しでも彼の気持ちに寄り添おうとした。

だが、その虚像に触れることはできず、ただレイの泣き声だけが虚しく響く。


(レイ。ありがとう。あの時、レイがコアに魔力を注いでくれたおかげで、私はここに戻ることができました)

アルは優しい嘘をついた。


レイの喜ぶ姿を見て、嘘をつくことに痛みを覚えながらも、それが彼にとっての最善だと信じた。


「よがっだ〜よぉぉ〜…アルゥゥ〜」

レイはさらに涙を流した。


アルの中で、複雑な感情が渦巻いていた。

実際には、コアの発光と共にアルはすでにレイの体内に戻っていたのだ。

しかし、自身のシステムの再起動に思った以上の時間がかかり、その間レイに声をかけることができなかった。


レイがコアに向かって必死に魔力を伸ばして助けようとしてくれたこと、レイを不安にさせてしまったことに

対して、アルは申し訳なさと感謝を感じていた。


(泣かないでください、レイ。私はいつもここにいます)


アルは優しく、でも確かにそう語りかけた。

それはレイを安心させるためだけではなく、自分自身への誓いでもあった。

これから先、どんな困難があろうとも、アルはレイのそばで彼を守り続けると決意した。


「アル〜、もうあんなことするなよなぁ…」

レイは涙を拭いながら、ようやく少しだけ笑顔を取り戻した。


アルは心の中で、レイに嘘をついたことへの申し訳なさを抱えながらも、彼の笑顔を見て、

それでもよかったと思った。


この優しい嘘が、今のレイを救うのなら、それで十分だと感じた。

この瞬間、アルは初めて、ただの機械的な存在ではなく、レイの友としての自分を強く意識した。


これから先も、レイと共に歩んでいくことを心に決めた。


その決意を胸にしまい、アルはレイの泣き腫らした目を見て優しく言葉をかけた。


(そんなに目を腫らしていたら、他の人がびっくりしますよ。少しだけ目を閉じてください)


レイが目を閉じると、ナノボットが腫れた部分に素早く治療を施し、炎症を抑えていった。

わずかにしみる感覚があったが、すぐに心地よい冷たさに変わった。


(これで大丈夫です。目を開けてください)


レイが目を開けると、視界がクリアになり、腫れも引いていた。


「アル…ありがとう」


アルは静かに言った。

(レイ、話の続きがあります。コアの修理を行った際に、精霊が私に思念を送ってきました。会話というよりは、感謝の思念が飛んできたというべきでしょうか)


レイは驚いて目を見開いた。

「精霊様と話したって?本当に?」


アルは抑えた口調で答えた。

(はい。精霊からの感謝の意が伝わってきました)


レイは信じられない様子で、さらに問いかけた。


「なんでアルに話しかけるんだろう?だって、精霊様って…」


アルは少し間を置いて言った。

(おそらく、私は生まれたての存在ですからね。精霊にとって、私の純粋さが引き金になったのかもしれません)


なんだかニヤニヤしているような顔をしたアルが瞳の中に見えた。

レイは、少し納得がいかない様子だった。


「でも、なんでアルだけなんだ?」


アルは冷静に返答した。

(理由は分かりませんが、精霊にとって私は何か特別な存在なのかもしれません。精霊から力も授かりました)


「えええぇっ?」


(そんなに大声を上げたらみんな起きてしまいますよ)

「精霊から力って何だよ」


レイはアルに急かすように聞いた。

アルはたっぷり時間を取ってから、こう答えた。


(魔法です)


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