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第108話(輝きの終焉)

レイは心を決め、目を閉じて深呼吸をした。

集中を高め、手のひらを差し出して魔力を送り込み始める。青白い光となった魔力が空間を漂い、エネルギーコアに向かって伸びていく。


ナノボットが微弱な光を放ちながらコアを覆い隠す目印となり、その光の指示に従って、レイの魔力も確かにコアへと届いていった。


魔力がコアに触れた瞬間、コアは輝きを増し、淡い青白い光に包まれる。

周囲に漂っていたエネルギーが整い始め、静かに脈動する光が徐々に強まり、魔力が均等に広がっていく。


レイの集中した魔力制御がそのまま輝きとなって、コア全体を包み込んでいく様子は、神殿の中に幻想的な光景を生み出していた。


アルはナノボットをエネルギーコアの内部へと送り込み、慎重に調査を開始する。


ナノボットの半分以上は、コア内部を内視鏡のように観察し、微細な亀裂や異物の検出に取りかかっていた。

この工程こそ、最も警告メッセージが多くなる要所でもある。


また別のナノボットは、コアの各部位に対して構造解析を行い、詳細なデータを収集する。

エネルギーの分布や圧力の変化も、リアルタイムで記録を開始した。


さらに他のナノボットは、コア内部のエネルギーの流れや異常なパターンをスキャンし、それを視覚化する。

収集されたデータは即座にアルの仮想モニターに表示され、分析が進められていく。


その間、アルはチェックリストを一つひとつ確認し、冷静に項目を埋めていった。

異常が検出されれば、即座に警告が表示され、必要に応じて修復手順の指示を出していく。


「やがて、放射パネルの接続部に比較的新しい損傷が発見された。アルはその箇所を注視しつつも、冷静に次の修復手段を検討する。どうやら、故意に傷つけられた痕のようだ。


(まだ3%も終わっていないですね)


アルは淡々と作業を進めていく。進捗は遅いものの、確実に調査は進んでいた。

彼の集中力と計画性が、綿密なデータ収集と分析を支えていた。


(先にアルゴリズムと処理データをシステムに組み込んでおいたのは正解でした)


珍しく独り言のように思考しながら、アルは作業を続ける。


一方のレイは、時間が経つにつれて徐々に疲労を感じ始めていた。

それでも、アルが何とかしてくれるという確信が、彼を支えていた。


魔力でコアを包む中、ナノボットたちが光を放ちながら動き回る様子は、まるで「ちゃんと作業してますよ」と無言で語っているように感じられた。


レイはその光の束に、確かな信頼と安心を感じていた。


その頃、コア内部ではアルが複雑な回路を一つひとつ調査し、その場で修復可能な部位は即座に処置を行っていた。これはアルがコア内部に居るから出来ることである。また必要な材料が不足する場合には、先ほど見つけた台座の装置から補充できる可能性をアルは探っていた。


このエネルギーコアは、アルから見れば旧世代の設計だった。無駄が多く、構造も洗練されていない。


そのため、壊れた制御パネルや使用されていないセンサー素材など、構造に影響のないパーツを惜しげもなく

剥ぎ取り、リサイクルして活用していく。


さらにアルは、しっかりと自分用のストックも確保していた。ちゃっかりしているのは相変わらずだ。


神殿の外では、すでに半時が過ぎていた。

フィオナ、セリア、サラが不安そうにレイの帰りを待っていた。


「こんなに時間がかかるものなの?」

セリアが眉をひそめてつぶやく。


「私の時は、順番に三人が神殿に入ったが、こんなに時間はかからなかったな」

フィオナが経験からそう答える。


「少年、何をしてるニャ……」

サラも苛立ちを隠さず、ぽつりとつぶやいた。


一方、神殿長もレイがなかなか出てこないことに少し疑念を抱き始めていた。


精霊の儀は本来、五歳になった子供が一人で受ける儀式だ。祭壇にたどり着く前に飽きてしまったり、はしゃいで迷ったりする子供も少なくない。それに魔法を授かるまで神殿から出てこない者もいた。


かつては助司祭や神殿長が付き添って祭壇まで案内したこともあったが、そのせいで精霊が現れなかったという話もあった。


だが今入っているのは子供ではなく、青年のレイだ。さすがに子供のようにはしゃぐこともないだろう。

それでも、長い時間が経つ中で、神殿長の表情にも不安が滲み始めていた。


とはいえ、神殿の掟がある以上、無闇に中に入るわけにもいかない。

ただ、静かに。レイが出てくるのを待つしかなかった。


***


レイが魔力を放出してコアを包んでいると、光が徐々に掌に戻ってくるのを感じた。

やっと終わったのかと安堵して、ふうっと息を吐いた、そのとき――


(レイ、修復はまだ完了していません。必要な部品や素材が不足しています)


「えっ、じゃあこれ直せないの?」

がっかりした声を漏らすと、即座に返答が返ってきた。


(いえ、直せます。必要な素材はこの神殿内にあります)

「どこにあるの?」


(今、マッピングを表示しますので、部品の採取をお願いします)


レイは投影されたマップに目を走らせながら、ふたたび神殿内を駆け回る羽目になった。


(レイ、その装置を根こそぎです!)

「いや、だってこれ神殿のものだろ?いくら何でも…」


(では、レイはセリンやファルコナーが吹き飛んでも良いのですね?)

「いや、そうは言ってない」


(じゃあ、やってください)


魔力で強引に部品を引き剥がしながら、レイはエネルギー変換器だったものや、蓄積装置の残骸をアルに言われるがまま運んだ。それらをコアの周囲に並べ、指示通りに取り外したパーツを隙間へと接続していく。


「なぁ、アル。これって御神体ってやつだよな〜」

「いえ、ただのエネルギー変換器だったものです」


「いいのかな〜」

「本来はここにあってはいけないものでしょうね」


「御神体なのに?」

「元々は私がいた世界の道具ですよ。そんな神々しいものではありません」


「そうなのかな〜」


レイは首をひねりつつも、結局は手を止めなかった。

配置が終わると、再びコア全体を魔力で覆うようにとアルからの要請が入る。


修復対象は放射パネルとの接続部分だと説明されたが、レイにはそれがどこにあるのかすら分からない。

それでも、言われた通りに魔力をコアと周囲の装置に包み込むよう放出していった。


アルは新たに取り出した素材をナノボットに指示し、修復を開始した。

ナノボットがコアの隙間を縫って放射パネルとの接続部を補強しながら、ゆっくりと安定化が進んでいく。


時間にしておよそ半刻。作業がようやく完了しようかというそのときだった。


コアが淡く輝きを放ち始め、やがてその内部から不思議な波動が溢れ出した。

力の源が、アルの意識に向けて思念で語りかける。


『其方、其方』『領域』『救済』『感謝印』『我らが力』『授ける』『感謝』


その力を受け取った瞬間、アルはシステムに急激な負荷を受けた。

制御不能なほどの力が流れ込む中、処理機能が一気に低下し、アルはシステム更新のための強制再起動に入る。


(……レイ、いったん離脱します。すぐ戻…)


アルの意識の糸が途切れる直前、レイは微かにそんな声が聞こえた気がした。


一方、レイの体内では魔力の限界が迫っていた。

本来なら魔法に変換して放つべき力を、ただひたすらコアへ注ぎ込み続けていたのだ。


しかも、放出した魔力は、外気との境界で魔素として拡散し始めている。

維持しようにも、魔力は徐々に大気に溶け、手元から失われていった。


レイは残されたわずかな力を絞り出し、必死に放出を続ける。

しかし、体はすでに限界を超えていた。


「……っ、アル、まだか?…そろそろ…キツいんだけど…」


歯を食いしばりながら、崩れそうな膝に力を込める。

だが、魔力の奔流に身を削られ、視界が滲み、膝が震え始めた。


もうダメかと思った、そのとき。

エネルギーコアが、突如としてまばゆい輝きを放った。


「っ、なんだ……?」


レイは目を細めながらも、わずかな希望にすがるように、魔力を戻そうと試みる。

けれど、もう手遅れだった。

体内からは一滴も魔力が湧かず、視界が白く、そして遠くなっていく。


ぐらりと体が揺れ、膝から崩れ落ちた。

舞い上がる魔力の粒が、風に流されるように空へと散っていく。


レイはその光を、もう焦点の合わない瞳で見つめた。

唇が震え、かすれた声が漏れる。


「……ア……ル……」


そして、彼の意識は、深い闇に沈んでいった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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