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第100話(ジャンク品の剣)

昨日の戦いで、皆には相当無理をさせてしまったことを気にしていた。

ゆっくり休んでほしいと心から思っていた。


フィオナとセリアの間には、なんだか張り合ってるみたいな空気が流れていることも、レイには何となく分かっていた。二人とも面倒見はいいのに、話すとどうしてか張り合う感じになってしまう。


「二人が仲良くなってくれたらいいのに」――そう思いながら、レイはファルコナーの街へと向かった。


目的は明確だった。スタンピードで折れてしまった剣の代わりを探すこと。


レイが武器屋に足を踏み入れると、店内には剣がぎっしり並んでいた。金ならいくらでも出せるはずなのに、「本当に今の自分に必要か?」と考えると、どうにも踏ん切りがつかない。


(レイ、それは金額の問題ではありません。必要かどうかを考えるなら、まず用途で選ぶべきです)

(いや、そうなんだけどさ…)


こんなときだけ妙に小心者な自分がいやになる。しかも、並んでいる剣は今まで使っていたものと大差なさそうに見える。


「これじゃ、前のと変わらないよなぁ…」


ため息をつきながら、レイは店を出ようとした。しかし、一歩踏み出す前に足を止める。


「でも、剣がないと困るんだよな…」

そう思い直し、再び店内を見渡すと、樽に入れられたジャンク品の剣の山が目に入った。


「まぁ、一応見ておくか…」

(レイ、それってジャンクの山じゃないですか…?)

(うん、ないよりはマシだと思ってさ)


レイはその山をかき分け、一本ずつ手に取って確認し始めた。

どれも刃が欠けていて、使い物になりそうにないものばかりだったが、一本の大剣を手に取った瞬間、アルの声が響いた。


(レイ、それが良いです。それを買ってください)

「えっ、これ…?」


レイは少し驚いた様子で、その大剣を樽から引き抜いた。

幅広でくたびれた見た目。使い古され、ボロボロにしか見えなかった。


(理由は後で説明します。それを買ってください)

「わかった、これを買うよ。でも、この剣メンテしないとダメだろうね。刃こぼれして刃がギザギザで、そこから折れちゃいそうだよ」


(すみません。その材質に見覚えがあったので…)

「ふーん、じゃあ、もう一本、すぐ使えそうなやつも買っておくかな…」


レイは別のジャンク品の中から、比較的まともに使えそうな剣を一本拾い上げ、二本をカウンターへ持っていった。


それを見た店主が目を細めた。

「おい、兄ちゃん、それも本気で買うのか?」


「うん、これでいいと思うんだけど…」

「ジャンク品は返品不可だからな?使えなくても文句言うなよ」


そう言いながら、店主は重そうに大剣を持ち上げた。


「じゃあ、そっちの剣と合わせて銀貨三枚でいいよ」

「はい、じゃあこれで」


レイは銀貨を渡した。店主は銀貨を受け取りながら、困ったような顔を見せる。


「この大剣、何でできてるか分からないんだが、ほとんど研げない。だからメンテナンスができなくてボロボロなんだよ」


「研げないって…?どういうこと?」


「この大剣の刃は、普通の砥石じゃ全然研げないんだ。何度か試したが、歯が立たなかった。だから突くか叩くしかできないし、これ以上刃こぼれしても直せない。しかも重すぎて振り回すのもひと苦労だ」


それを聞いてレイは思わず眉をひそめた。しかし、再びアルの声が響く。


(レイなら、それを使いこなせます)


大剣は見た目だけでも「使い物にならない」と思われて当然の代物だった。刃は大きく欠け、ギザギザで不揃い。鈍く曇った表面は光を反射せず、まるで金属の墓標のようだった。


柄も黒ずみ、巻かれた革はほとんど剥がれている。持ってみれば異様に重く、バランスも最悪。戦闘で使えるとは到底思えない。


それでも、レイはアルの言葉を信じ、普通のジャンク品と共にその黒い大剣を手に店を後にした。ひとまず鍛冶師に見せてみようと思ったからだ。


レイは、町の人に聞きながら評判の高い鍛冶屋を訪れた。黒い大剣を見せると、鍛冶屋のおっちゃんはすぐに両手を上げて、お手上げのポーズを取った


「おう、その剣、今度は兄ちゃんが買ったのか……これまで何人も研ぎを頼まれて、断り続けてきたってのに。いやー、ほんとお気の毒さまだな」


「えっ?この大剣、前にも見たことあるんですか?」


「ああ、前の持ち主も直せばいいものになると思って、ここに持ち込んできた。でも、たぶんこれは特殊な金属でできててな。いくら火を入れても、打ち直すことが出来なかったんだ」


「この大剣って…やっぱり直せないんだ…」


レイが不安そうに尋ねると、鍛冶師は真剣な表情でうなずいた。


「これを直すには、もっと高温の炉が必要なんだろうな。たぶん、このあたりのどの鍛冶屋に持っていっても断られるぞ!」


「高温の炉って…どこにあるんですか?」

「そんなもん知ってたら、ウチの鍛冶場もとっくに作り替えてるよ!」


「すみません…でも、何か方法は…この大剣、どうしてもなんとかしたいんです」


「とは言ってもなぁ…可能性があるとしたら、王都の近くのドワーフの里まで行くか、またはシルバーホルムくらいだな」


「えっ?シルバーホルムってそんなに凄いんですか?」


「あそこは鉱山の近くだからな。良い鉱石が取れるってんで、腕利きの鍛冶屋が集まった町だ。しかも、ここ数年で鍛冶の質もぐんと上がってる。弟子を修行に送った連中も多いが、そいつら帰って来やしねぇ」


「え?それって…誘拐とか?」

「いや、みんな自分の意思で帰ってこねぇのさ。『ここにいたい』って言ってよ」


「へぇ…」

「だから『技が宿れば鍛冶屋戻らず』って言葉が生まれたんだ」

「はぁ、そうなんですね…」


「兄ちゃん、知らねぇのか?技術に心奪われて家に戻れなくなる。それがシルバーホルムって町よ。あそこは、ただの鉱山町じゃねぇ。質の良い鉱石が山ほど眠ってて、腕のいい職人が夢中になっちまう場所なんだよ!」


(いや、鉱山のことなら誰よりも知ってるけどな…)

レイはそう思いつつも、「そうなんですね」とだけ返した。


鍛冶屋を出たレイは、アルに話しかける。


(ふぅ、あの人、ただの話好きだったな。余計な話まで聞かされたよ…)

(そうですね。話し相手ができて、嬉しかったんでしょう)


(まぁ、捕まっちゃったってわけだな)

(ですね)


(なぁ、アル。この大剣って、材質に見覚えがあるって言ってたよな)


(はい、レイ。この大剣はただの剣ではありません。私のいた世界では、宇宙船の前面など、デブリと衝突しやすい部分に使われる特殊な合金によく似ています)


「宇宙船……?」


(はい。おそらく宇宙船の破片が隕鉄となってこの世界に落ち、それを元に加工されたのか、あるいは最初から剣として持ち込まれた可能性もあります。クォンタム・ステライトという名の合金です)


「クォンタム……?何のことだ……?」


レイは完全に戸惑っていた。聞き慣れない単語が次々に出てきて、頭の中が混乱していく。


(説明すると長くなりますね。とにかくレイ、この大剣は非常に特別な金属でできたものです。それだけは信じてください)


「よく分からないけど、普通の剣じゃないってことは分かったよ…」

そう呟いて、レイは手にした黒い大剣をじっと見つめた。


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