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閑話 リンド村の洗礼式

レオニウス司祭は、デラサイス司教から届いた手紙を読み、深い苦悩に沈んでいた。

そこには「セドリックとサティ夫妻の息子レイを守るため、洗礼式はできる限り延期する術を探ってほしい」と記されていた。


「延期したところで、来年か再来年には、また名簿に載る。洗礼式を繰り返し避けるなど不可能だ」

司祭は溜息をつき、額に手を当てた。


親子二代に渡って魔法使いが生まれることは稀である。

もしレイがその才能を持っていれば、国中の注目を集めるだろう。

もっとも、親が優秀でも子に同じ力が備わることはほとんどない。だが稀にそれが起こった時、その子は必ず大成すると言われていた。


だからこそ洗礼式は、魔法の資質を見極めるために欠かせない儀式だった。


レオニウスはよく理解していた。サティが戦場でどれほどの苦しみを味わい、息子をその運命から遠ざけたいと願っているのかを。

「……あの娘の願いを無視するわけにはいかない」


彼がそう呟けるのには理由があった。

サティがその才能を開花させた頃、神殿で身の回りの世話をしていたのが他ならぬレオニウスだったのだ。彼は誰よりも彼女の歩みを近くで見守ってきた。


リンド村の洗礼式は、長老とシスターたちが見守る厳粛な場である。

簡単に回避できるものではない。それでもレオニウスは考え続けた。


「もし後になってサティたちが考えを改めたなら……エーテルクォーツに不備があったとすれば、祝福をやり直すこともできる。今はとにかく時間を稼ぐしかない」


わずかな希望を胸に、司祭はリンド村に入った。

今回は事情が特別だったため、同行するのは御者と護衛の冒険者一人だけ。

彼は本物のエーテルクォーツを持っておらず、代わりに透明な水晶玉を用意して儀式に臨むつもりでいた。


その夜、祭壇を整えながら彼は神に祈った。

「どうか……あの子を守ってやってください」

けれども祈りの最中も、不安は胸を締めつけて離れなかった。


そして運命は、彼の迷いを待ってはくれなかった。


洗礼式の当日を迎える前に、リンド村は突然オークの襲撃を受けた。

予期せぬ災厄に村人たちは混乱し、叫び声と炎が夜を裂いた。


「皆、逃げろ! 子供を連れて森へ!」

レオニウスは必死に避難を呼びかけたが、自らもオークの刃に倒れてしまう。


皮肉にも、彼は亡くなる前日にレイの名を村の名簿へ加えていた。

それにより、レイは形式上「洗礼を受けた村人」として登録されてしまった。


襲撃後、生き残った御者と護衛は焼け落ちた村を捜索し、子供たちを馬車に乗せてセリンへ急いだ。

助け出せたのは、洗礼前の子供が三名だけだった。


「大人は……もう、誰も」

そう報告され、村人は全滅と断定された。



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