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閑話 リンド村が襲われた理由

闇の商人は、帝国の密偵として王国の軍事力を削ぐために暗躍していた。

この頃の彼はまだ黒いローブをまとうこともなく、見た目はただの華奢な商人にすぎなかった。

だが、その外見に反して、胸の奥には冷酷な決意が宿っていた。


彼の使命はただ一つ。王国の勝利を阻むこと。

そのためなら小国家連合を巻き込み、互いに消耗させることもいとわない。

「たとえ子供であろうが、使えるなら使う」

彼はそう言い切れる冷徹な策略家だった。


王国の中枢に食い込んだ闇の商人は、貴族や宮廷関係者との人脈を築き、隙を突いて情報を集めていく。

特に注視していたのは、王国最強の武器とされる宮廷魔導士部隊だった。

その中でもサティの率いる部隊は「無敵」と噂されるほどの存在。

彼は、戦局を覆すにはまずサティを無力化するしかないと判断する。


決め手は――サティの弱点。

彼女が息子レイを溺愛しているという情報を掴んだのだ。


「息子を奪えば、母は戦えなくなる。部隊も力を失うだろう」

そう確信した闇の商人は、標的をレイに定めた。


レイが疎開するという情報を得た彼は、護送の道中を狙って野盗に化けて襲撃を繰り返した。

しかし、護衛は精鋭揃いで、企みはことごとく失敗する。


「……ちっ。子供一人を攫うだけなのに、なぜこうも鉄壁なんだ」

苛立ちを隠さず歯ぎしりする夜もあった。


だが諦めることはなかった。レイが最終的にリンド村へ身を寄せたと知った彼は、次の一手を考える。

より大きな策が必要だと悟った彼は、ファルコナー近郊で怪しい研究を続けるマッドサイエンティスト――ドクター・クラウスに接触する。


クラウスは、複合毒や魔物を従わせる研究する危険人物だった。

「資金を出す。その代わり子供を攫う手伝いをしろ」

商人がそう持ちかけると、クラウスは狂気じみた笑みを浮かべる。

「いいだろう。ただし……死んでも責任は取らんぞ?」

「構わん」

サティを潰すことが最優先。レイの命など手段にすぎなかった。


こうして二人の陰謀は動き出す。

クラウスはすぐにリンド村への夜襲を計画し、魔物を差し向けた。

村は防備が手薄で、抵抗はほとんど意味を成さなかった。

家々は燃え、村人たちは次々と倒れ、リンド村は壊滅に近い惨状となる。


報告を受けた闇の商人は、実際に現地へ赴き、焼け落ちた家々と散乱する遺体を目にした。その冷徹な瞳は一切揺らがない。

次に彼は、セリン領の領主館へ忍び込み、生存者名簿を確認する。


そして――そこに横線で消された「レイ」の名を見つける。

「……終わったな」

小さく呟いた瞬間、胸に冷たい勝利の感覚が広がった。

サティは息子を失い、心を折られる。これで部隊も瓦解する。

全ては帝国のため。そう信じて闇の商人は満足げに領主館を後にした。


だが彼は知らなかった。

役場の職員が「村全滅」との報告を鵜呑みにし、名簿の全員に無造作に取り消し線を引いていただけのことを。


レイは――まだ生きていたのだ。

ただ、運命の帳簿から誤って抹消されていただけだった。


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