閑話(武器屋の話)
レイは、新しい剣を探してファルコナーの武具店を見て回っていた。
スタンピードの時に折れた愛用の剣の代わりだ。
(その剣って、以前ダンジョンで拾ったやつですよね?)
「うん、そうそう。ゴブリンダンジョンを何度も周回して、ようやく手に入れた一本だよ」
レイは少し得意げに胸を張る。
(で、その剣を手に入れる前に使ってた剣はどうしたんですか?)
「え?あれ……」
レイは考え込み、首をかしげた。
(あの日、新しい剣を宝箱から取り出して、そのまま腰に吊るしたと記憶していますが……古い剣は?)
「……ダンジョンに置きっぱなしだ!」
間抜けな叫びとともに、レイの顔が青ざめる。
「ヤバい、誰かに拾われてるかも!」
(でも、ここはファルコナーです。ダンジョンまでは、往復で二日かかりますよ)
「……がーん」
レイは肩を落としながらも、未練がましく空を仰いだ。
そんな時、視界の端に光るものが飛び込んでくる。
「……ん? あれは……!」
ミスリルの輝きに目を奪われ、レイは思わず駆け寄った。
「うおお、ミスリルの剣!マジで売ってるのか!?」
その声には本気の感動がこもっていた。
「金貨十枚……いまならギリ出せる!」
(……しかし、それはショートソードですが?)
アルが冷静に指摘するが、レイはうっとりと剣を見つめたまま動かない。
「いや、ミスリルってだけで気分が上がるだろ。これ持ってたら、一流冒険者っぽい雰囲気出せるし」
手に取った剣は軽く、洗練された造形が美しい。レイは裏の値札に目をやり――
「このミスリルショートソードは、月光のごとく鋭く輝き、闇夜に紛れて敵の首を一瞬で切り裂く……?」
値札の裏には、過剰にもほどがある謳い文句がずらりと並んでいた。
「うわ、なんか背中がゾワゾワしてきた……」
(モザイクですね。はい、精神安定用に)
「助かる……。ファルコナーの店でまで殺し文句が浸透してるとか、どうなってんの……」
未練を感じつつも、レイは剣を元の位置に戻す。ふと、別の棚に目が留まった。
「ん? これ、カスタマイズできるって書いてあるぞ?」
彼の目に映ったのは、装飾の少ないがしっかりした造りのロングソード。興味を惹かれて店員に声をかける。
「すみませーん。この剣、カスタマイズって、どんな感じでできるんですか?」
「はい、グリップの色を変えたり、ガードに彫金を入れたり、名前を刻印することも可能ですよ」
「へえ……でも、性能には影響ないですよね?」
「そうですね。見た目が良くなるだけです。あとは、磨けば光りますよ!」
「……光ってどうするんですか?」
「戦場でキラキラして目立ちます!」
「それ、狙われやすくなるだけでは?」
レイは頭を押さえながら、苦笑を漏らした。
「それじゃ、この“一生使えるブレードソード”って、本当に一生使えるんですか?」
「使い方次第ですが、普通に使えば長持ちしますよ。ただ、使うたびに少しずつ寿命が縮みます」
「……だったら“ずっと使える”って言わないでほしいな……」
「でも、持ってるだけなら一生モノです!」
にっこり笑う店員の無邪気さに、レイは小さく後ずさった。
ミスリルのショートソードにも心惹かれたが、今日はどうも流れが悪い。
レイはそっと店を出た。剣選びの道のりは、まだ続きそうだった。
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