プロローグ
本編が始まる十年以上前の話になります。この回は残酷描写がありますので、
かなりマイルドに改稿しましたが、お嫌いな方は読み飛ばして頂いても大丈夫です。
レイは幼い頃、祖父母に連れられて当時の開拓村だったリンド村にやってきた。
平穏に暮らしていたある夜、村はオークの集団に襲われる。大人たちは必死に抵抗するが、オークは圧倒的な力で村を蹂躙し、レイの祖父母も命を落とした。
そのオークは異様だった。
目は焦点を失い、虚空を見つめているかのようだった。柵に手をかけたオークは、見えない何かに引っ張られるように不自然に体を揺らしながらも、確実に柵を破壊していく。その姿は、まるで人形が無理やり動かされているかのようで、見ている者に強い不気味さを与えた。
ついにオークが村の中へ侵入した。斧が振り下ろされる音、悲鳴、そして血の匂いが一気に広がり、村全体を覆っていった。
「こっちはダメだ!」
「子供たちは家に入ってろ!」
大人たちの叫び声が響く中、子供たちは慌ただしく家の中へと押し戻された。外では村人が次々と斃れ、オークの群れは容赦なく村を蹂躙していく。絶体絶命の状況だった。
レイの爺ちゃんは家の前に立ち、鍬を構えて何度も声をかけていた。
「心配するな。ワシが守る」
だが、その声もやがて途絶えた。
婆ちゃんは部屋の隅で震えていた子供たちを立たせ、裏の扉を開けて言った。
「門まで一緒に走るんだよ」
そう言って、そっと背中を押した。
レイたちはその背に押されるまま門の方へ走り出したが、振り返ったときには家が崩れていく音が響き、婆ちゃんの姿もすでに見えなくなっていた。幼いレイは涙をこぼしながら、その場に立ち尽くしてしまった。
絶望の中、突然現れたのは黒い外套を纏った冒険者だった。冒険者は圧倒的な剣技でオークを次々に倒し、レイたちを救った。その姿を見て、レイの胸には悔しさと憧れが入り混じった。
涙をこぼしながら、レイは冒険者に必死に詰め寄った。
「なんで…、なんで、もっと早く来てくれなかったんだよぉ!」
冒険者は肩を落とし、声を少し詰まらせながら答えた。
「すまなかった……もっと早く来られれば、こんなことにはならなかったのに」
その後、レイはさらに問いかける。
「どうすれば、おじさんみたく強くなれるの…!?」
冒険者はレイの肩に手を置き、落ち着いた声で答えた。
「強くなりたければ、自分を鍛えるんだ。ただし、体だけじゃない。心も、恐怖に立ち向かう勇気も一緒に鍛えるんだ、分かったか?坊主」
その言葉を胸に刻み込み、レイは心に誓った。いつか祖父母の仇を討つのだと。
「うん、僕、努力するよ! 頑張っておじさんみたいに強い冒険者になる! そして、じいちゃんとばあちゃんの仇を討つんだ」
冒険者はその決意を見て微笑み、力強く肩を叩いた。
「そうか、頑張れよ、坊主!」
オーク襲撃から十年。レイは孤児院で他の子供たちと共に育てられた。両親が迎えに来ると信じていた時期もあったが、やがて誰も現れない現実を受け入れる。残されたのは断片的な記憶だけだった。母親らしき人がベッドで泣いていたこと、大きな剣を振ろうとして止められたこと、両親と離されて玄関先で泣いていたこと。どれも繋がりはなく、姿も名前も霞んでいた。だからこそ、レイは木剣を振り続け、自らを鍛えることで心を支えていた。
十五歳になると、正式に冒険者として登録される。最初は街の雑務をこなしながら体力をつけ、金のないレイは安物の剣を買っては毎日振った。魔物討伐の依頼が来るまでは、ひたすら訓練の日々だった。
だが、初めて魔物を目の前にしたとき、幼い頃の恐怖が蘇った。オーク襲撃の記憶が体を縛りつけ、足がすくんで動けなくなる。何度もそうした場面を経験しながら、それでも祖父母の仇を討つ思いを支えに、レイは少しずつ恐怖に抗っていった。
冒険者としての道はまだ始まったばかり。レイは過去の影と戦いながら、「実戦で目を逸らさずに立てる自分」になろうと鍛錬を重ねる。いつか祖父母の仇を討つその日まで。
読んでくださり、ありがとうございます。
九月六日:表現がマイルドになるよう改稿しました。
要点だけ残して短くしています。