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「なんだよこれ」

 見やった先にいる崢は夕焼け色に染まった部屋につっ立ったまま、篤史を、篤史の手にある写真を、その周囲に散らばったおびただしい数の写真達をじっと見下ろしていた。夕日を浴びた崢の顔にはくっきりと陰影ができ、その表情を窺うことは不可能であった。


「なんで兄ちゃんの顔は抹殺しねえの?」

 脳裏に蘇るものは凄まじいと表現できるほどの筆圧で塗りつぶされた篤史の顔である。しかしながら、だ、兄の顔は一枚たりとも塗りつぶされることなく綺麗なまま残されているのだ。

「なんで?」

 あの血走った目――兄のことを、あいつ、と言った崢の、殺気立ったあの目が蘇る。

「なんで?」

 崢は何も答えない。つっ立っているのみだ。

 どこかでカラスが鳴いていた。開け放した窓から風が流れ込んで静かにカーテンを揺らし、かすかな潮の香が鼻をかすめていった。

「なんでおまえこんなに笑ってんの?」

 潮風に髪を揺らしながら崢は何も言わない。


 よく笑う男だった。くっくっと、さも可笑しそうに喉のあたりで変なふうに笑ったし、優しく微笑みかけもした。だから崢の笑みはよく知っていた。しかしながら断言できるのは兄と二人で写った崢の、この類の笑みはこれまでに見たことがないということ、要するに瞳孔が開いたとでも表現できる、つまり写真の崢が手にしているソフトクリームのような、そんな甘さを含んだ笑み、それを篤史は一度も見たことがなかった、そういうことだ。


「なんで?」

 崢の目から涙が零れ落ちていた。


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