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5


 もはや一心不乱である。魚の楽園を漁る。あとはハンコをつくだけだ、家に置いてある、と崢が言っていた退部届、それを探して。どこにもない。


 机の引き出しだとか棚や納戸の中だとか、開けられる部分はすべて開けた。もちろん原状回復を怠らず。その過程でカラーボックスの奥深くからある物を見つけた。箱だ。もちろん開けた。


 入っていたのは一枚の写真だった。集合写真だ、ずらりと並んだ者達が身につけているものが野球のユニフォームで、胸元には篤史の通う高校の名が印字されているから自身の属する野球部であることは明確だった。この写真には見覚えがあった。なぜなら自分も持っているからだ。春に撮影され、部員全員に配られたものである。


 何の変哲もない集合写真。なぜこんなものが丁寧に箱に入れられているわけか。この一枚だけがひらりと入っていたわけである。見知った者達の引き締まった顔がずらずらと並ぶ写真。その、ある一箇所に篤史の目が止まった。


 世の中には見てはいけないものもあるし、知ってはいけないものもある。


「なんだこれ」

 思わず声を発していた。独り言を漏らすことなど滅多にないというのに。


 最後尾に立つ一人の部員の顔がボールペンのようなものでぐちゃぐちゃに潰されているのである。紙が破れそうな、穴があきそうなほどの筆圧で。はっきりとした意図や意志なるものがそこにみなぎっているのは一目瞭然であった。


 誰の顔が塗りつぶされているわけか。篤史は息さえ止めて目を凝らし、隅から隅まで全員の顔を調べていった。大野、鈴木、中村、杉原、前田――まさに部員一人一人のつぶし込みだ、残った一人が塗りつぶされているわけである。


 途中で分からなくなった。何せ引退した三年生まで含まれているのだ、総勢六十人あまりである。印象の薄かった部員は名前すら忘れていた。ま、いいか。つまり篤史は興味をなくしたわけだ、それを箱の中に戻そうとした。

 その手が止まった。頭を何かがよぎった。


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