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 おまえの直球は全国で通用しない。

 いつの日か崢は篤史にそう言った。


 中学時代、崢とは幾度もぶつかってきた。マウンドで投げ合う、それだけではなかった。マウンドと打席で対峙してきたわけだ、つまり打席の崢に向かって篤史は幾度も直球を放ってきた。バットコントロールがいいと評されてきた崢は好みの球が来れば積極的にバットを振り、確実に当ててきたわけだが、対峙する相手が篤史となれば鳴りを潜めた。


 手が出ない、そういった表現が適切であろうことはマウンドに立ちながらも分かった。


 篤史の記憶が正しければ崢を塁に出したことはない。すべての球を見送って、崢はマウンドの篤史を眺めながら唇の端っこを舐めもした。


 しかしながらその目は何を思っていたわけか。篤史に変化球を仕込む過程で言ったのだ、おまえの直球は全国で通用しない、と。理由は言わなかった。直球は封印しろ。暗にそう言っていた。


 変化球を習得しその数を増やすことが一番の目標となった。習得した変化球は、エグい、と、多くの者に描写された。キャッチャーミットが唸るたびに彼らはにやりと笑って、エグいな、と言った。


 崢が篤史の腕に指に擦り込んだ変化球はよく曲がり、よく沈んだ。直球をキャッチャーミットに投げ込む時の快感とはまた違う種類の快感が、そこにはあった。バットがくるくる回り、または全く動かず、ただキャッチャーミットだけが唸った。


 エグい。その一言に尽きる、そんな球だった。


 そのエグさを作ったのは崢である。その理由は分からぬままだ。



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