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16

 自分の歯がカチカチと音を立てているのが聞こえた。ふっ、と兄は笑った。

「俺にやられたくなけりゃ、あいつと関わるのをやめることだな」

 言いながら兄はベッドから起き上がる。

「スマホは没収だ」

 ジャージのポケットからスマートフォンをひったくられるも反応などできないほど全身が硬直していた。兄はベッドのそばに立ち、自分のズボンのポケットに手を突っ込みながらもう片方の手で篤史のスマートフォンを操作し始めた。ロックをかけていなかった為それはすぐに兄の意のままになった。


 画面をスクロールする兄の親指が止まる。

「嬉しそうに笑いやがって」

 独り言のように兄は言った。画面を見据え、片頬だけで笑って。


 すぐに分かった。見られているのだ、崢と二人で写った何枚もの写真を。それは教室で撮ったものであったり魚の楽園でのものであったり色々だが、たびたび揶揄されてきた、鉄仮面、そんな篤史の代名詞が完全に吹っ飛ぶ類のものであるのは確かなことであった。しかしながらそれだけだ、第三者に見られてまずいものなど一つもない、そうでありながら兄にだけは決して見られてはならないものである、そんなことを篤史は無意識に感じた。


 もはや反射だ、篤史はベッドから起き上がり兄の手を払った。スマートフォンが兄の手からこぼれ落ちてベッドの上で跳ねた。

 兄の目がベッドの上に転がるスマートフォンを見ている。やがてその目がゆったりと動いて篤史の目元へと移った。

「なんだ、やられたいのか」

 兄の手が篤史の顎を掴む。

 もう片方の兄の手が篤史の下半身に回った。その手がジャージの紐をほどき、篤史の胃がぐっと突き上がった。

 ちい兄ちゃん、いんの? ドアの向こうから弟の声が響いてくる。

 ふっ、と兄が笑った。篤史の身から手を離した。篤史の肩を肩で押すようにしながら身をかがめ、ベッドに転がった篤史のスマートフォンを拾うと自分のポケットにねじ込み、部屋から出ていった。


 頬の上を何かが滑り落ちてゆく。それが自分の涙であると気づくまで少し時間を要した。

 兄は経験のある男の目をしていた。



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