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 聞こえるのだ、風鈴の音が。篤史、そう耳元で揺れたあの声音もまた、聞こえた。

「篤史」

 呼んだのは兄だった。その目は篤史の目を真っすぐに見据えていた。

「俺を見ろ」

 兄ちゃん、ではなかった。俺、と言った。

「今夜あいつにしたことだ、同じことを俺にしなさい」

「できない」

 篤史は言った。喉から絞り出すような声になった。どういうわけか目の奥のあたりが痛くなって、勝手に涙がぽろぽろと篤史の頬を零れ落ちた。

「俺にはできないわけか」

 闇の中にあるからか、それとも涙で霞んでいるせいか、兄の顔はほとんど見えなかった。その声がまさに闇のように暗い、それくらいしか分からなかった。


 どのくらい時間がたったのか。鼻をすすることくらいしかせずまるで蛇口の閉め忘れかのごとく涙を出しっ放しにする篤史、その頬に、すっと、兄の手が触れた。原因の分からぬまま篤史の頬を流れる涙だ、それを篤史の代わりに兄が手で拭っていた。

「あいつの思うつぼだ」

 兄は言った。

 思うつぼ。これを言われるのは二回目だ。解説の必要な言葉である。篤史には難解だった。

「おまえはいつか必ず後悔する」

 これもまた、そうだった。あまりにも難解だった。



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