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五十代のおっさんだろ。風船が割れるかのごとく男子らは笑った。我慢できなかったのかよ、と。崢により密告されたなんとも破廉恥なその事件は監督を懲戒に追いやり、篤史が口を閉ざし続けている間にも学校中に瞬く間に広まった。
「学校でやる奴ってほんとにいるんだな」
げらげら笑いながら男子らは笑う。いつものように崢と篤史は彼らに囲まれているわけだが、最近では篤史は自分の席につき、その後ろの机の上に崢が座って、ズボンのポケットにそれぞれの手を突っ込みつつ篤史の身体を足と足の間に挟むようにしている、なぜだかそんな体勢となって落ち着くことが増えた。
「いるよ」
その体勢で崢は答える。笑いを含んだ声である。
「男子生徒とやった教員もいる。そいつは男だ」
「うわ、きっしょ」
平然とした崢の言葉に対しまたしても風船が弾けた。
「学校でか」
「うん」
「まじか。逮捕された?」
篤史の背中の後ろで崢がせせら笑っている。そんな奴はな、と言った。
「オマワリに突き出すだけじゃ元がとれねえだろ。そいつが一番大事にしてるもんをぶっ壊してやればいいんだよ」
それでようやくウィンウィンだ。崢はそう言った。だってさ、とも付け加えた。被害男子の言葉を代弁したようだ、他人の破廉恥なさまをその目で見たことが少なくとも二度はある、崢はそんな星のもとにでも生まれたわけか。実に飄々としたものだ、篤史にしてはあの日からどうも気分が悪い。
クラスメート、川本えな。崢の腕の中にいた女。それが五十代の教員の指により快楽をもたらされ、あんな声を出したわけである。
「誰とやったんだろうな」
男子達の関心事はやはり懲戒となった男の相手についてだ。
「この学校の誰かなわけだよな。このクラスにいたりして」
「やめろよ、生々しい」
にそにそと、ひそひそと、何も知らぬ彼らは詮索する。
ふと、顎のあたりにひんやりとしたものが触れた。崢の指だ、篤史の背中の後ろから絡みついてきた。頭の上のほうからはわずかに吐息も降ってきて、それが意味するものは、まさに、しーっ、だ、誰にも言うな、である。
誰も知らない。懲戒となった本人と、三人以外、誰も。えなは何事もない様子で今日も膝の上に女子を乗せている。




