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37/122

4

 静けさをたたえた崢、その視線の先にいる二人。なぜ野球部の部室を選んだのか。この男が野球部の監督であるはずがない。六十人もの部員を率いる、いかつい顔をした、妻子持ちの五十代だ、彼の一存で女子禁制にしているから野球部に女子はいないし女子マネージャーもいない、であるから相手の女にしてもどこの誰なのか、分かるのはこの学校の誰かであるということくらいだ。


 いずれにしても破廉恥である。突如として電気がついたことで破廉恥が照らし出された。まさにフリーズである。男の手がぴたりと止まると同時にその目が部室の入口をさっと見た。その膝の上で女もまた入口を振り向く。


 大惨事であった。どちらの顔にも見覚えがあった。男の顔はまさに野球部の監督のそれで、女のほうはと言えば、えなだったのである。


 ああ、修羅場と化すわけか。額にも首筋にも脇の下にも汗が噴き出していた。篤史は目だけ動かして崢の顔色を窺った。


 崢の右手にはカメラがあった。彼は何も言わないし、その目にも感情を乗せない。兄と同じタチなのか。憤怒したとて静かに怒るのだ、きっと。暗闇の中でしばし彼らを眺め続け、その後唐突に電気をつけると、照らし出された確かなる証拠を一瞬にしてカメラにおさめたわけである。


 監督の顔は蒼白となっていた。えなのほうはと言えばふくらはぎのあたりに白いパンツをひっかけたまま、落ち着きはらった目で崢の目を見ていた。


 自分はここにいてはいけない、篤史はそう思った。また明日、と崢に言われていた。つまり帰れと言われていたのだ、それを破り崢のあとをついてここに来た。その結果、見てはいけないものを見て、知ってはいけないことを知ってしまった。


 崢の目が動く。実にゆったりと、篤史のほうへ。まるで篤史が崢の反対側から部室の中を覗いていたことをすでに知っていた、そんな様子で。


 唇が、笑った。実に緩慢に。確かに篤史の目を見据え。

 しーっ、である。自分の人差し指を自分の唇に当て、確かに、しーっ、崢はそう言った。

 誰にも言うな、である。何も言わずしてその目はそう言っている。



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