アインのシュドウ
ボーイズラブ的要素が含まれます。
バン=エールキング
それがオレの名前、両親からもらった名前だ。
アインは自由な発想をしていた。
鬼ごっこのときは犬が苦手なオレに犬の散歩をしながらオニも逃げも行い、ババ抜きのときは同じトランプを隠れて用意し、最後の二枚をどっちもジョーカーにしたりしていた。
勝ったり負けたり、そうやって義弟と遊ぶのが楽しかった。
「姉さんがここを継いでくださいよ。」
いつからかアインがオレを避けるようになった。
弟だからと気を使う必要はないのに継承を避けようとしていた。
意図があるとは分かっていた。
一つの行動に複数の意味を仕込むと分かっていたはずなのに
「そいつは誰だ?」
「あっ、姉さん実は好きな人ができたんだ。」
そう言って、弟は男の首筋に唇を当てた。
男の顔に手を這わせている。
もう一つで男と指を絡め合わせて手をつないでいる。
果し合いの場で、オレが一昨昨日気にも止めなかった男に。
ドウイウコト?
オレの脳が理解を拒絶した。
時系列はレストランでの食事後に戻る。
僕らは005号室の前に立っている。
エントランスに近いほうから005、003、002,001となっており、1の近くには非常口がある。004号室がないのは死を連想するからだろう。
「部屋狭いだろうからうち来いよ。ちょっと外じゃ話しにくいことだし。」
こんな軽く家誘ってくることある?今日会ったばかりだよな?
「僕らはほぼ初対面だ、流石に怖い。」
「見られてないと嫌か?」
「言い方どうなってんだ。005号室は使えないのか?」
「開いてるよ、狭いけど。そこならいいのかい?」
その芝居とやらは部屋が広いほうがいいのか。
「うん。後、指輪は部屋に置いてきてくれ。」
魔法を警戒するというのと先に部屋を見ておきたい。
「全然いいよ。カギは開いてるから入って待ってて。」
右手にある指輪を外す。ノブに手をかけ入る。
フローリングの床に殺風景な壁、大体僕の部屋と同じだがベッドがこの部屋にはない。
その分広くはなっている。
疲れた。今日だけでいろんなことがありすぎた。床に座って天井を見つめる。
ガチャリとドアが開く、アインが同じように床に座る。
「それで芝居なんだけど…」
緊張感が部屋を満たし始める。一体何なんだ?
「”君が私の恋人になる。”」
アインがこちらに目を合わせながらはっきりと話す。
緊張から一気に拍子抜けしたものだから思わず吹き出す。
「笑うなよ。これでもそこそこ真剣に考えたんだ。」
どう反応すればいいか考えながら、一分くらい笑い続けた。
「ごめん、もう落ち着いた。いいんじゃない?」
今、僕には何もない。まあ、暇なのだ。
「まずは名前だな。ラガークインを使って偽名をつくってくれ。」
そこまでするの?いや、やるなら徹底的にか。
「レジューム=ド=ラガークイン。これでいいか?」
レイ=ラガークインを「デミ」つまり「半分」使う。デミグラスはドミグラスともいう。デミをドとした。レジュームは適当に考えた。
大真面目にふざけるのは楽しい。
「内面とか設定とか詰めたほうがきっといいな。」
「バンのこと義姉さんって呼ぶか。」
今、貴方への恨みはありません。
しかし、僕は貴方と同じことを自分の目的のために他者を脅かすことをします。
それでもどうか運が悪かったと思って欲しい。
「あはは、面白いな。」
アインの新たな一面を垣間見た気がする。
「”こうして君と話しているだけで私は君に恋をした日を思い出す。”」
目つきが変わる。蛇が這うようにゆっくりと僕の手の甲に指を交えてくる。
思わず手の方を見る。指の熱が伝わる。
「”ここには僕と貴方以外いない。”」
微笑んで甲を返しアインの手を握る。アインに顔を向ける。背中の奥がぞわりとする。
前言撤回、この先は生半可じゃない。二日で演じるとなればなおさら狂気的だ。
「これ以上は明日にしよう。」
「ああ。」
アインが手を離す。
変な汗が出てきた。部屋でシャワーを浴びよう。