名前がないのが名前だと自己紹介しずらい
街灯をよく見ると中に透明な石が入っている。
この世界において宝石はインフラに欠かせないらしい。
そんなことを考えているうちに目的地に到着する。
アパートと言うよりはホテルのほうが近い見た目をしている。
「ご予約のジョンドゥ様ですね。こちらに指輪をかざして下さい。」
予約は向かいながら取った。手をかざすと
「ご宿泊ありがとうございます。貴方の部屋番号は003です。」と表示される。
礼を言い部屋に向かう。旅先のホテルで心が弾まないことがあるだろうか、いや弾む。
ふつう衣服は最初に確保しているものだろうがない。
今は追剥に会う一張羅の外套よりも安いレディメイドが数着欲しい。
・安い服を買う。
一張羅や衣なんて考えるから天麩羅が少し恋しくなってしまった。
美味しいものが食べたい。
・三回朝食を食べられるようにする。
まずはこんなもんか。ドアの前で一応の予定を立てる。
ちなみに部屋は玄関、洗面所、キッチン、クローゼット、リビング兼寝室
ギチギチに機能を詰め込んだ遊びのないものとなっている。
部屋からはホテル感が全くないがテスターだからしょうがない。
ベッドに座り込みながら画面から口座の欄を開く。
「エールキング社サポート」
が追加されている。この名前をさっきも見た。行政と癒着でもしているのか?
内容は対象商品が無料になるというもの。ログインボーナスがイメージとして近い。
ドアを開ける。今日の分を貰いに行こうか。
「あっ、無事に入れましたか。ドアの前で立ってたんで何か困ってたのかと。
よかった。」
笑顔で青年がドアの近くに立っていた。
「どちら様ですか?」
炭素15脳であれど初めて見る顔であることに変わりはない。
ドアの前で考え事をするのは止めよう。いい人でも悪い人でもあんまりよくはない。
「レイ=ラガークイン。隣の隣001号室に住んでんの。よろしく。」
「よろしく。」
手を差し出されたので握手する。明るい人だ。
「奢るから今日飯食いに行かね?」
僕ら今日会ったばかりだよね?
「いいね。来たばっかであんまここのこと知らないんだ。」
もうどうにでもなれ。指輪は置いて行こう。指輪を指から外そうとする。
「サービスでアイスがもらえるから指輪は嵌めたままの方がいい。」
「まじか。じゃあ嵌めたままでいいか。」
正直自分のネタの解説をするのは恥ずかしいが
「よいならば夢と知れどもさめはせず」のよいは宵と良いがかかっている。
今、夏ということだ。好きなアイスの味はバニラ。
「そう言えば名前何?」
「ジョンドゥ」
名前がないのが名前みたいになった。もう少し考えて、名前変えよう。