爪は短いほうがいいが詰めは長くとった方がいい
次の日
再び、朝に僕らは005号室に集まった。
「染めた?」
アインの髪が黒くなっている。
「ああ、お揃いだ。」
ストレートでサラサラな髪、一重のたれ目につり眉、
薄い青が瞳の中に閉じ込められている。整った顔立ちに加え、身長も僕より少し高い。
列挙したら嫉妬が湧いてきた。
「暇なのか?」
「恥ずかしすぎて昨日の記憶を消したのかい。」
逆だ。ここに来てから炭素15脳、体験したことについて3秒もあれば半分忘れる状態だったがあれは鮮明に覚え続けている。
「うん、もう忘れちゃった。黒の髪でも似合うとかズルくね。」
一秒で矛盾した。
「”君と話したいことがたくさんあるんだ。”」
僕の正面に座り直し耳元に囁いてくる。横を向く。微笑みが見えた。目つきが変化している。
「”明日、ご挨拶するお義姉さんについてか?”」
「”勿論、君についても。”」
首筋に左手が伸びてくる。僕の首より僅かに冷えた親指が脈を取っていることが分かる。
残りの指は床と平行に伸び、手の甲が顎を支えている。
同じ行動をアインに僕はした。昨日、部屋に戻ったとき爪を切っておいてよかった。
「首に手を当てさせるのは目を逸らさない、命や誇りを懸けることを握手は相手を信頼し手を組むことを示す。まあ、所詮儀式だがこのまま話しても面白そうじゃないか?」
アインが首に当てる手を右に変え僕の左手と握手する形になる。
このまま話すのは腕と首が疲れそうだ。よく見たら座高同じくらいなんだな。
足長いってことじゃん。
「まず最初の質問。この芝居で僕が死ぬ可能性はある?」
「ない。殺人事件になれば捕まるから。」
同様の理由で骨折などもないだろう。
「君は姉さんの回しものか?」
「違う。周りが見えない状態でポケットに紙を入れられただけだ。」
指輪をつけていなかったポンコツだったからだろうな。反撃する心配がない。
「魔法ってどうすれば使えるようになる?」
「指輪つけてどれくらいだい?」
「明日で三日目。」
保険として魔法を持っておきたい。
三日から一週間かかるものを三日でやる、出来なくはない。
「不可能じゃないくらいか、そういえばビジョン説って知ってるか?」
「いや、知らない。」
「どんな魔法が使いたいかを明確にすると習得にかかる時間が短くなる傾向があるというものだ。それに縋るのもいいと思う。」
どんな魔法が使いたいか…、全く出てこない。保険に使える魔法が思い浮かばない。
「そうなのか。そういえば芝居の方はあれでいいのか?」
僕の演技はアインのと比べて稚拙である。
「どうせバレるからな、君を連れていく理由付けだ。
どちらにしろ死ぬことはないさ。」
恋人であれば一緒に連れていくことの不自然さを低減出来る。
誰かと一緒であれば誰かに見られているのであれば殺されることはないと考えたのだろう。
「勝てるのか?」
”三敗してるんだろう。”という言葉は飲み込んだ。
「やるだけやるのさ。」
笑みを見せた。
「明日の予定についてだけど朝の九時に指輪をもってここに集合。」
「分かった。」
割と早めに終わった。まだ昼にもなっていない。
明日どうなるのか。それが少し不安であるが出来そうなことがない。
強いて言うなら明日の幸運を祈るくらいだろう。