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時は戻らない  作者: みのみさ


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13話 歓迎会

 無事に鎮魂祭を終えて、ルフィーノたちの歓迎会が王城で行われていた。

 すでに新聞では一面トップで鎮魂祭の様子を報じていたし、参加者からの噂も広まっていて、王城でも鎮魂歌を披露することになった。


 青い火の鳥メンバーは故郷の正装姿で現れ、会場には大きなざわめきが湧きあがる。

 カンナギ国の衣装は和装というガウンのような衣装を帯で留める仕様だ。

 トーヤは羽織袴という礼装で上衣が黒地で下衣が縞模様で、シンプルながらも彼の秀麗さを引き立てていて威風堂々としている。アイリとカリンは袖の長い華やかな振袖姿だ。

 アイリの衣装は紺地に鮮やかな大輪の和花が咲き乱れ、蝶が舞っている。カリンは緋色の生地に見たことのない模様が描かれていたが、故郷の伝統工芸品である鼓や鞠、折り紙などらしい。帯には金糸銀糸の刺繍が施されており、帯留めには大粒の宝石が花の形に細工されている。簪という見慣れない髪飾りも王国では目にしない意匠だ。

 ただでさえ、珍しい和装に異国情緒いっぱいの装飾品に誰もが興味深々で、特に女性たちは興奮を隠しきれない様子だった。


 演奏前から盛りあがっていた会場は見事な鎮魂歌と幻影によってさらに白熱した。

 わあああと歓声と共に大きな拍手が鳴り響き、演奏後に英雄たちに誰もが話しかけようと押し寄せる。

 トーヤとアイリが話せないカリンを庇うように前にでて話しかける相手を見事に捌いていた。


「よろしいのですか、ルフィーノ様。お連れを放置なさっていて」

「いやあ、今日の主役は彼らだからねえ。私がでしゃばるのは無粋だろう?」

 アルフレードに話しかけられたルフィーノは飲食スペースでのんびりと酒と肴を摘んでいた。

「君こそ、いいのかい? こんな隅っこにいて」

「・・・今日は誰も私のことは気にしませんよ」

 アルフレードが苦笑して肩をすくめた。いつもは彼の周りは絶えることなく人垣ができるのだが、今日は皆英雄たちに夢中だった。

「君がお誘いすれば断る令嬢なんかいないだろう。ちょうど、ダンスフロアが空いているし、踊ってきたらどうだ?」

 ルフィーノの勧めにアルフレードはさらに苦笑いだ。

「下手に誘うと婚約者候補の噂をたてられますよ。相手が気の毒だ」


 メインの鎮魂歌が済んだ後に楽団が曲を奏でてダンスタイムが始まったが、和装は踊るには適さない格好だ。英雄が誰一人とてダンスには応じないので、皆話しかけて少しでも知己を得ようとしている。今日のダンスフロアは人がまばらで不人気だ。そんな中でアルフレードが踊りだしたら目立つこと間違いない。

 本来ならば、第一王子であるアルフレードが国賓のカリンやアイリをファーストダンスに誘うのが礼儀なのだがそれは無理だし、今のアルフレードにはパートナーとなる婚約者もいない。

 王族の役目のファーストダンスは弟のコルラードに譲って歓談していたが、皆英雄を気にしているので会話が弾まない。却って英雄へ紹介したほうが喜ばれる状態だ。


 眉目秀麗なナナミネ姉弟の人気はもちろんのこと、ジルベルタと瓜二つのカリンも驚かれたのは最初だけで人目を惹いている。

 彼らは山の王国では馴染みのない冒険者家業だが、頂点の金剛クラスだ。しかも、ナナミネ姉弟は全属性で、カリンはレアな光と闇属性、どうしたって興味や好奇心をかきたてずにはいられない。カンナギ国の十二家の出自も話題性十分で大人気だった。


「ルフィーノ様、お礼を申しあげます。確かに彼らのおかげで不穏な噂は消えました」

 アルフレードが英雄たちを見つめて軽く頭を下げた。

 英雄は全員闇属性持ちだ。闇属性非難は彼らを侮辱することになる。カリンがジルベルタの血縁者という情報も広まっていて、ジルベルタの悪評はぴたりとやんでいた。

 ルフィーノが不敵な笑みを浮かべた。

「我が国の英雄を敵に回すアホウはいなかったということだな。・・・約一名を除いて」

 その例外者は歓迎会を体調不良で欠席していた。おそらく、これ以上の失態を避けるためだろうとアルフレードは予測していた。ドナート侯爵は娘の不調法を正式に謝罪してカリンへ高価な贈り物をしようとしたが、ばっさりとトーヤに断られていた。

 誠意を見せるなら金子をかけるのではなく、態度で示せと言われて、ドナート侯爵は顔をひきつらせつつ、クラーラ以外も一族総出で謹慎に入った。この場を欠席とは後々の社交で遅れをとることになる。高位貴族としては十分な罰だろう。


 カリンは大怪我の後遺症で声を失っていると説明されていた。メモ帳持参で筆談になるが、ジルベルタを慕っていたドロテーアたち数人の令嬢に囲まれていて彼女の周りはとても華やかだ。

 何か楽しいことでもあったのか、令嬢たちがくすくすと微笑んでいてカリンもにこりと相好を崩している。ちょうど目に入った光景にアルフレードは見惚れた。双子の姉妹である祖母似というだけあって笑顔さえもジルベルタとよく似ていた。

 懐かしさにアルフレードの瞳が和み、少しだけ胸に痛みが走った。あの笑顔に再び出会えた喜びと手放した喪失感とで胸中は実に複雑な感情が入り乱れている。

 思わず深いため息をこぼしたら、目の前にグラスが差しだされた。


「カンナギの酒でな。米から作った酒だ。すっきりとした味わいで美味いぞ。どうだ?」

「・・・ええ、いただきます」

 アルフレードはルフィーノから透明な酒を勧められて一口飲んでみた。芳醇な香りも素晴らしく、ワインにも勝るとも劣らない。アルフレードは目を輝かせた。

「初めて飲みましたが、美味しいですね。これも取引可能になるのですか?」

「うん、君ならこの味をわかってくれると思っていたよ。取引はやはり来年になるからね、持参したのがいくつかあるから後で進呈しよう」

「それはありがとうございます」

 ほっと頬を緩めたアルフレードにルフィーノは労わる眼差しを向けた。


「君が王太子になったら、祝い酒に渡そうと思っていたんだ。だが、この数年、我が国も貴国も魔獣討伐で忙しかったからな」

「・・・そうですね、色々とありましたから」

「うん。そうだな、君も大変だったなあ。陛下たちも気にしていたよ。だからこそ、君の配偶者の選定には心配りしているのだろうけど・・・。

 陛下もなあ、ちょおっと無神経というか。まあ、王妃様がとりなしてくださったが」

「ルフィーノ様、何かありましたか?」

 ルフィーノが珍しく歯切れが悪い。アルフレードが首を傾げると、いきなり爆弾投下された。

「君の婚約者候補にカリンはどうかと言われてしまってねえ」

「はっ? え、な、何を・・・」

「あー、その慌てぶりだと君は知らなかったのかい?」

「あ、当たり前です!」

 思わず、叫んでしまったアルフレードは慌てて周囲を見渡した。今の会話が誰かの小耳に入ったらと心配したのだが、ルフィーノが肩をすくめた。


「防音魔法をかけてあるよ、そう焦らなくても大丈夫だ。さすがに自国の王子がフラれるなんて話、誰かに聞かれるわけにはいかないからね」

「え、フラれる? 決定事項ですか?」

 あっさりと告げられた言葉にアルフレードが目を丸くした。

 一考の余地もなしとか、ちょっとだけ・・・、いやもう少しくらいは傷つく。

「ああ、カリンはトーヤの許嫁なんだ。金剛クラスにもあがったことだし、そろそろ居住地を安定させてもいいかな、と検討していたところで、近いうちに挙式も視野に入れている」

「・・・そうだったのですか」

 アルフレードは手にしたグラスに視線を落とした。まだ半ばくらい残っている透明な酒はかすかに揺れていて、彼の心中を表しているようだ。


 トーヤがカリンを案じている様は仲間ゆえと思っていた。姉と二人で声がでないカリンを気遣っているのを目にしていたから、婚約関係にあるとは気づいていなかった。なぜか落胆していて、それがアルフレードには不可解だった。

 カリンとは直接関わることはなかった。いつも、会話はアイリかトーヤとしていて彼女と筆談もしたことはない。ただの顔見知りくらいの仲だ。

 それなのに、なぜか平静ではいられなかった。


「カリンはフェデーレ嬢にそっくりだろう? 

 君には顔を合わせるのは辛いのではないかと思ったのだが、そんな様子はなかったから、逆にいけるのではと思われたみたいだ。でも、中身は別人だからね、君もイヤだろう? 

 ・・・彼女の身代わりなんて」 

「当たり前です。そんな失礼な真似はできませんよ。どんなに似ていても、ジルはジルで、ミツフジ嬢はミツフジ嬢だ」

「うん。君ならそう言うと思った。でも、トーヤにはおもしろくなかったみたいでねえ。まあ、陛下は二人の仲をご存じなかったから仕方ないのだけど。

 それでねえ、彼らは今日の正装になったのさ。

 カンナギの正装ならダンスに誘われないだろう? 礼儀上のお誘いとわかっていても、トーヤはカリンが他の男と踊るのはイヤだったようだ。特にカリンにはお声がかりがあったばかりだし」

「そうでしたか。・・・その、父が申し訳ありません。後で、母にシメられると思いますが、私からも釘を刺しておきます」

 アルフレードは真顔で断言した。


 公の場では陛下と言うべきだが、国王としてよりも父親としての発言だろうから、彼もまた王子ではなく息子として対応するつもりだ。

 ルフィーノはこの後の国王に降りかかる災難を予想して遠くを見る目になった。

 妻からも息子からも思いきりシメられるのは間違いない。まあ、家庭内対話の方法は人それぞれだろう。詳しく知るのは精神的によくない気がする。


「ははっ、お手柔らかにねえ。ただでさえ、王妃様が怒り狂っておられたから」

「当然です」

 断言したアルフレードは周囲を見渡してから声をひそめた。防音魔法を行使していても、万が一ということもある。

「私の婚約者候補は伯爵令嬢数人にしぼられました。ドナート嬢はしばらく体調不良で領地で静養するそうですし、サクラ嬢は巫女姫として神職に尽くして欲しいと神殿側の意向がありますから。本人もその気はないと意思表示しましたし」

「そうか。・・・やはり、8歳前後のご令嬢から?」

「ええ、そうなります」

「・・・一応、確認するが、ホントに幼女趣味はないよな?」

「ルフィーノ様、売られたケンカは買いますよ?」

 アルフレードが目だけは笑んでいない微笑みを浮かべると、ルフィーノがすまんすまんと両手を合わせて拝むフリをする。

 ただの軽口の応酬とわかっていたので、彼らはその後も和やかに酒を酌み交わした。

 アルフレードはすっきりとした後味の酒なのに、なぜか苦いものを感じてかすかに顔を歪めた。

 婚約者は国内から選ぶのだ。ジルベルタの血縁者であってもカリンと関わることはもうない。それが、少しだけ残念に思えた。


 その晩、コルラードは私室に訪れた兄を快く出迎えた。

「兄上、ようこそ。お待ちしておりました」

「コルラード、すまないな。夜会が終わったばかりで疲れているところに」

「いえいえ、きっと兄上がいらっしゃると思っていましたから。どうぞ、こちらです」

 コルラードが愛想よく兄を案内した先では父がぐてっとくつろいでいた。まだ正装のままの長男の姿にぎょっとして飛び起きる。


「お、おおお前たち、どうして?」

「父上、さあ、母上がお待ちですよ。駄々をこねないで行きましょう」

「そうですよ、子供みたいなことしないでください。さっさと怒られたほうが被害は少ないですよ」

 兄弟は母の味方だった。国王はせっかく避難先に逃げ込んだのに、次男にあっさりと見捨てられて焦った。

「ちょ、ちょっっおおおおっと、待ていっ! お前たち、話せばわかる。落ちつけ」

「落ちつくのは父上のほうですよ。ああ、コルラード、騒がせた詫びだ。受け取ってくれ」

「兄上、ありがとうございます。ドーラが喜びます」

 コルラードは最高級の蜂蜜の瓶を受けとって顔を輝かせた。婚約者のドロテーアの好物なのだ。

 弟は笑顔で父を連れ去る兄に手を振った。風魔法で拘束された父は問答無用で連行される。

 

「コ、コルラード! 父を見捨てるのか? 薄情ではないか!」

「情のない真似をした父上がお悪いのでしょう? 逃げ回るほど母上の機嫌が悪くなりますよ」

 アルフレードが目が笑っていない笑みを浮かべると、国王はガックリと肩を落として、妻のお仕置きに怯えるのだった・・・。


 後日、アルフレードの予想は大いに外れた。

 カリンとアイリをフェデーレ家に連れていくことになったからだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。


西洋様式の世界ですが、東方諸島はアジア圏のイメージ。

カンナギ国は日本文化の色濃いお国ということで。

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