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朝の帳  作者: ヤヲノ
4/8

第1話;黎明 (Blooming) -④

アクセス頂きありがとうございます。

拙い文章です、ご容赦ください。


 「はぁはぁ……。おいおい、マジかよ。あの女、被害者ごと……。先輩……」


 イベントエリアの中心、大慌てで状況を確認しに来たヨイチは絶句してしまう。

 つい先程までエリア全体を占領していた漆黒色のダイダラボッチは、大勢の人間を口にしていた。

 そこへ突如現れたのは、対リヴァ特殊武鋒(ぶほう)部隊───通称LiSST(リスト)に所属する少女。国の実力組織の訓練生を名乗る紀伊乃(きいの)は、その怪物を処理すべく被害者ごと問答無用でリヴで等分した。

 ただ、怪物へ変化(へんげ)していたと思われるリヴァ、そのお腹の中には被害者たちがまだいたはず。

 凶悪犯の無力化はまだ良いとして、被害状況を一切把握せず二次被害を考慮しない経験不足による行動だ。そう非難しようとしていたヨイチは、イベントエリアで徐々に薄れていく漆黒色の(もや)を前に困惑していた。


 「誰も……いない」


 「先輩たちはぁ!?食べられちゃった人はどこぉ!?」


 「マヒル!無事だったか。僕にもさっぱり」「消化されたぁ?」


 「いや、多分連れ去ったんだと思うよ。そう考えれば身体の自由を奪ったのも理に適ってる」


 「アサヤも無事で良かった。殺すつもりだったら初手でやってるってことね、綾野(あやの)先輩も似たようなこと言ってたわ」


 「じゃぁ、あのでっかい怪物は?」


 「あの小っさいのと同じ生成物。よくよく考えれば生成系のリヴァは変化できないはずだしな」「確かに」


 「次どう動くぅ?連れ去ったなら早く追いかけないとぉ」


 「そなんだけど……せめて犯人や集団拉致(らち)の目的を特定できれば救助の糸口になるのにな……」


 「あ、あの女の子なら何か知ってるんじゃないぃ?」


 「知ってたとしても一般人には教えねーだろ。下っ端そうだし何も知らんと思うけどな」


 「誰が下っ端だって?」


 振り向くと金髪の少女がアサヤを下から睨んでいた。

 少し垂れ目の文学少女のようなご尊顔をしているが、綺麗な金髪と崩したファッション、物怖じしない振る舞いで外見とのギャップが(はなは)だしい。

 にしても、なぜヨイチではなく俺に対してがんを飛ばしているのだろう。


 「ふん、行こうアサヤ。僕らはただ巻き込まれただけだし、聞き取りなら僕ら以外に目撃者は多数いる。今最優先事項は先輩たちの救助だ」「うん」


 「あのバケモノの中に人の気配はなかった、だから切っただけ」


 「あぁはい、助けていただきありがとうございます」


 そうだろうと考えていたので責めるつもりはなかったのだけど。変わらずアサヤに向けて話す彼女は何か言いた気な表情でいるが、とりあえずお礼を伝える。

 ポケットの携帯が通知で揺れ、アサヤの意識が少女から外れた隙にマヒルが少女へ問う。


 「それでぇ犯人は何者なんですぅ?LiSST(リスト)が出動したってことはリヴを悪用した重大案件でしょぉ?」


 「言えるわけないでしょ、て言いたいところだけど一般市民に協力を仰ぎたい程に情報が無いのよ。というか、いくらウチが優秀だからといって訓練生が前線に出ている状況は普通じゃない。一体この国で何が起こってるの」


 「は?おい、それってどういう───」

 

 「マヒル!ヨイチ!中条先輩から連絡があった、急いで行くぞ!」


 携帯の通知に目を通していたアサヤはショッピングモールの出口を親指で指して二人に呼びかけた。

 二人は詳細を聞かずに出口へ駆け出した。アサヤが詳細や理由を省いて行動を示した、ということは何よりも行動を優先せよということだろう。


 「待って!」


 すぐに走りだそうとしたアサヤを止めたのは紀伊乃だった。


 「重要な情報なら教えなさい。被害者の救助はウチらの仕事」


 「じゃ、一緒に行きましょう。今は説明する時間が惜しいです」


 「それは…………」


 紀伊乃は自身が立っているイベントエリアをちらっと見渡した。

 未だ恐怖に顔を引きつらせる人々、営業を続けられない程に損壊した店舗、次を急かすように上司の名前で鳴る携帯。

 この場を離れるわけにはいかないのだろうと察したアサヤは、彼女へ自身の携帯画面を提示した。


 「これ、今写真撮ってください。連れ去られた人から届いた通知の内容です」


 「あ、うん………ありがと」


 「それと、許可をいただけますか」


 「え?」


 カシャというシャッター音と重なった彼の言葉に、口を少し開けて反射的に見上げた。

 手元を見ていた彼とは目が合わなかった。嘆願というより独白だった。


 「あなたの許可があれば、女性じゃなくても、友人を助けにいっていいですよね?」


 ようやく見交わしたアサヤに、紀伊乃は反射的に小さく頷き返してしまった。

 そうして彼は「ありがとうございます」と言って走り出した。

 救助は仕事、自分は優秀だから任せておけばよい、男は女に守られる立場だ。紀伊乃は彼の言葉で無意識の偏見を浮彫にさせた。

 眩しい出口から出ていくまで、彼に声をかけることはもうできなかった。




 ◆◆◆




 ここはどこ。光を探すも真っ暗闇で周囲が確認できない。

 口にはガムテープ、手首は後方に足首も固く縛られ、冷たい床に横にさせらている。

 中条は身に起こっている状況をくまなく把握しようとした。


 「!?」


 心臓に負担がかかる程ゾッとして鳥肌が立った。

 足首が()()()()()()?ちょっと待っておかしいおかしいおかしい。

 ショッピングモールで巨大な怪物と対峙(たいじ)した結果、膝下を食いちぎられたはずだ。

 ………。

 身体再生?時間の巻き戻し?

 不可能を可能にしてしまうリヴならあり得なくはないが、いやそんなことよりも、私は巨大な怪物に食べられてしまったはず。

 だがここはどうやら怪物の腹の中ではなさそうで、この揺れや床の硬い材質はおそらく車両、もっと言えばトラックとかの荷台の中だと思う。


 横臥(おうが)から上体を起こし、やっと暗闇に慣れていく目で周囲を見渡す。

 シルエットだけではっきりと見えてはいないが、自身と同じように縛られた人々が無造作に横たわっているようだ。

 すぐ後ろには綾野の姿があり、ゆすってみたがぐったりとしていて起きる気配がない。息はしているようで気を失っているだけ。

 

 綾野くんのも再生してる………。


 情報処理に秀でている中条はぺたっと元の楽な体勢に戻って自身が拉致されたことをすぐに理解した。

 人質としての価値を無くさないよう怪我を治したのであれば(うなず)ける。

 あとは犯行に及んだ彼女の目的だが。


 転ばぬ先の杖、すぐにことわざが思い浮かぶような状況は久しぶりかもしれない。

 万が一に備えていれば、例え連れ去られようが冷静に対策を打つことができる。

 中条は後ろ手に手首を柔らかくひねり、腕時計へタップと長押しの暗号を伝えた。暗号と言っても指紋を記憶させてロックを解除するように、あるタップと長押しの組み合わせを伝えると救難信号が発せられるように携帯と紐づいた時計に登録していただけのことだ。

 これにより、位置情報が直近で連絡をとっていた人間に送信された。あとは救助を待つだけだ。

 つめたい。暗く微かに息の音がする空間。金属の冷たい床に頭を預け、フル稼働していた頭を冷やす。


 リヴァによるショッピングモールの襲撃。

 身近にあった一件で、彼女にはその目的に少し思い当たる節があった。

 救助されたら彼らへいの一番に話すべきだろう。

 

 頼んだよ、三人とも。




 ◆◆◆




 ショッピングモールのやや広大な駐車場。できる限り出入口に近い場所を選択できただろうが、わざわざ遠く離れた位置にポツンと停車している黒い車。

 三人が駆け寄ると車の扉が自動で開き、涼しい風と心地よい香りが出迎える。

 やれやれといった表情のヨイチがとても慣れた様子で後部座席へ乗り込んだ。残り二人も続いて座り、アサヤは運転手の女性に目的地の住所を伝える。

 後部座席に並ぶ三人がシートベルトを締めたのを確認後、黒い車は目的地へ向かって発進した。


 「行く先々で待機してるの怖ーよ」


 「私はヨイチ様の専属秘書ですので」


 「僕は何回も要らないって言ってんのに。今まで聞けてなかったんだけど、毎回どうやってついてきてんの?」


 「GPS()でございます」「狂ってやがる」


 連れ去られてしまった中条から位置情報が送られてきた為、急遽その場所へ向かうべくショッピングモールのタクシー乗り場へ走ったが。

 先ほどまで化け物が暴れていた場所から離れようとする人々で長蛇の列となっていた。


 「まーまー、今回は助かったんだし。すみませんお世話になります」「何だかんだ久しぶりかもぉ」


 「ご無沙汰しております。お二人もお元気そうで何よりです。状況も状況かと思いますので私のことは気にせず作戦会議を進めていただければと」


 「ありがとうございます」


 黒い怪物を操るリヴァによって連れ去られた中条及び綾野の救出作戦。

 携帯を取り出したアサヤは中条からもらった重要な情報をマヒルとヨイチにも転送して共有する。

 それはデフォルトのマップアプリと紐づいた位置情報だった。実際にアプリを開き、自身の位置も画面内に入るよう縮小することで位置関係を掴む。


 「どう見てるぅ?」


 「中条先輩が隙を見て送信した現在の位置情報ってことだよな」


 「間違いないと思う。文字打つより数タップで居場所伝えられるし。ただそこまで車で三十分、事件によるこの渋滞で到着はもっと遅くなると考えると」


 「着いた頃にはバイバイビーってわけか」


 「でも今ある情報は少ないし、行くしかないってことだよねぇ」「そゆこと」


 「追加で位置情報来てたりしないか?」


 「いいや、返信にも既読がついてない。取り上げられちゃったかもな」


 「うぅ……どうして中条先輩と綾野先輩がぁ……。ねぇ犯人は先輩たちに何をさせたいのかなぁ?」


 「それを話し合うにはこっちの話もしないとな」


 アサヤはトップニュースやトレンドのタイトルが表示されたサイトへ切り替えた。

 ショッピングモールで遊び始めてからまともに携帯を開いてなかった三人。彼に(なら)って同じサイトを確認した二人は目を開く。

 停滞している車内に膨大な文章を追う静寂が流れた。


 『堂暦(どうれき)駅改札前の無差別襲撃 上下線で一時運転を見合わせ』

 『美和(みわ)電力本社ビルにテロ 犯人数人立てこもり』

 『志田関(しだせき)で刑務所襲撃、受刑者二十人超が脱走か』


 画面には十年に一度あるくらいの大事件がいくつも列記されていた。三箇所どころではない、十を超えるほどだ。

 SNSでも、テロリストのメンバーと思しき女性がリヴを、男が銃を用いて各地を襲撃している映像や写真がタイムラインを超特急で更新させている。

 各事件の詳細を確認する為、タップとスクロールを繰り返しているが、目まぐるしい物量の情報に埋もれてしまいそう。

 記事にはまだなっていないようだが、SNSでは彼らが遭遇したショッピングモールでの事件も最新トレンドに浮上していた。

 同タイミングで複数の場所を襲撃、それはつまり。


 「同時多発テロ……襲撃に遭っていたのは僕らだけじゃなかったってことか」


 「あの女の子が言ってたこの国でどうちゃらってこれのことかぁ。やばぁい、状況は最悪だぁ」


 「犯人の目的だけどさ、よってダンサーのリヴァがテロリストの一員なら、個人ではなく組織の目的を考えなきゃいけなくなった」


 「テロってことは組織として何か壮大な理想があるんだろうな。なあ今回のテロで共通して失ったモノ、間接的に大きな打撃を受けたモノはなんだ」


 三人は改めて書く記事や呟きに目を通す。

 同時刻に複数箇所を襲撃となると組織的な犯行であることに間違いはない。組織として理想を掲げ、理想の実現の為に人が集い、共通の意志の基に行動しているはず。


 「共通してるのは人が多い場所を襲撃してるくらいで、破壊行為や拉致は今のところ全部が全部ってわけではなさそう。ただ拉致は大半で発生してるから重要度は高い、かも」


 「間接的な打撃かぁ。被害者の家族ぅ、警察や救急ぅ、政府とかぁ?もう『()』だよねぇ」「ネットは今頃有象無象で大盛り上がりだろうな」


 「多数の人質、敵が国なら大方人質取引。人質以外なら生贄(いけにえ)、宗教的な貢物(みつぎもの)の一種とか。あとは無理やり労働?」


 「奴隷ってことぉ?怒るよそんなのぉ」


 後頭部で指をクロスさせ背もたれに身を任せたマヒルは鼻から大きく空気を噴出する。

 人質や生贄にしろ、こっそりやらず大胆に仕掛けてきたのは何か意味があるのだろう。

 タクシーの天井を眺めていたマヒルはそのまま携帯を天井まで持ち上げ違う観点から要素探しを試みる。


 「SNSで画像見てるんだけどぉ、テロリストみぃんな頭にガラスの被り物してるぅ。ショッピングモールの人もそうだったしぃ」


 「だね、色も形も一人一人違う。メンバーを区別しやすくとか顔を隠す為とかそんな感じの理由かな」


 「ファンマークみたいなもんだろ、同じ精神ですを示したい人間のよくやることだ。テロリストって分かりやすくて助かるぜ」


 「……」


 現時点、彼らはまだ()()()()()も、それが()()()()()()も明らかにしていない。襲撃を全て終えてからか、将又(はたまた)公表しないまま長期間襲撃を続ける可能性だってある。

 犯行の場所や場面から所属する組織や掲げた旗を推測するには材料が足りない。情報の真偽が分別つくほどまだ時間も経過していない。

 ただ被害者ましてや知り合いが連れ去られている以上、適切で迅速な対応が必要である。三人は各々自分たちにできることを熟考する。

 ヨイチが一足先に。


 「ひとまず到着するまでできる限りネットから情報採取しとくわ」


 「うんお願い。俺は先輩たちの情報探しとこの後を考えてみる。あマヒルさ、ダンサーのリヴァについて整理してみてくれない?特にリヴのこと。あのリヴに一番対峙したのマヒルだろうし、それに、この後も対峙するかもだし」


 「りょうかぁい。あの人めっちゃ生成量と攻撃性あったよねぇ。あれで組織の末端だとしたらぁ、うぅん考えたくもないぃ」


 「また金髪の彼女に助けてもらうしかないか~」


 「あの子も凄かったねぇ、デカいのを一撃でぇ。今日は色々起きすぎだぁ頭パンクするぅ」


 「そうね~。俺も寝る前に情報整理しないと。ミシェルの件含めて」


 「───あ!!」


 突然何かを思い出し大きな声をあげたヨイチ。

 携帯から携帯カバーを剥がし、隙間に入れていた物を取り出した。三本指で摘ままれたそれは、デザインも印字もないただただ表裏純黒なカ─ドだった。

 差し出されたそれを受け取ったアサヤは軽く曲げたり透かしてみたりしてみる。材質はクレジットカ─ドっぽい。


 「ごぼういたじゃん。あいつが(くわ)えて寄越したやつ、忘れてた。何だか分かるか?」


 「どこかで拾ってきたのかなぁ?なんじゃこれぇ、ミニ下敷きぃ?」「レッドカードの上位存在とみた」


 「ま、紛失物だろうし明日学校側に預けよう」


 「わりぃ。そんときテンパっ、てて持ってきち、まっ────」


 「あれヨイチ寝ちゃったぁ」


 縫いぐるみのように座席に背を預けてぐったり眠るヨイチ。電源が切れてしまった彼は幼稚園児さながらだ。

 ルームミラーで状況を把握した運転手は前方注意を怠らずに言う。


 「申し訳ございません。後ろにブランケットがありますのでヨイチ様にかけていただけますか?」


 「あ、はいわかりました」


 「急に寝ちゃうの久しぶりに見たぁ」


 「ね。脳に負荷が蓄積すると身体が無意識に休ませようとする、って本人は言ってたし到着まで寝かせてあげよう」


 いつの間にか渋滞から脱出した車は目的地に向けて順調に進んでいた。

 アサヤはヨイチにブランケットをかけてあげ、自身の財布に彼から預かった純黒なカードをしまった。ショッピングモールを襲った怪物と同色の、不吉なそのカードを。

 救世主である中条と後輩に優しい綾野。今日出会ったばかりの二人だが、もう他人事にはできない大切な葉柄(はがら)高校の先輩だ。

 そんな彼女らを襲ったダンサーの女性らをメンバーとしたテロリスト。組織の目的は不明だが、同時多発のテロ行為により国が悲鳴をあげている。

 現状唯一確度の高い情報である中条の位置情報を今一度眺める。

 放課後、閉め損ねたベランダへの引き戸。日常化した日々の中で自宅の鍵を閉めたかを思い出すようにその風景がふと浮かんだ。


 「何か、いや沢山のことを見逃している気がする」


 「気にするなぁ。オレやヨイチも気付かなかったことを責めやしないぃ」


 「さんきゅ。一体いつからだろうな……」


 三人を招くように夕日は山の向こうへと消えようとしている。

 ルームミラー越しに運転手はアサヤをチラ見し、すぐに安全運転に戻る。

 濃い紺色が空を支配していくと、黒い車はその色に溶けていった。


お読み頂きありがとうございました。

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