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乞う

作者: Ichen


あんたを忘れたい



忘れたいんだ 


あんたを思い出すと 助かる気がして


そんな望みが どんなに悲観的か


でも俺は しがみついているんだよな


あんたを忘れたいんだ 唯一の俺の希望だから




煙草に火がついて煙が立ち上がる


可笑しいかもしれないが


あんたの髪を連想する 螺旋を描くあの影だ


煙草一本が終わるまでに


あんたの全部が 俺の中に生き返るんだ


眼差しも 瞳の光も 掠れる吐息も 


絶対に この手が触れなかった あんたの肌の色も


助けてくれる気がして 



それでいつも 未練がましく思う


俺は 忘れる必要があるんだろうかって


あんたは 俺の希望なのに




火をもみ消して なかったことにする





うまく扱えない自分がいるよ


過去の俺は容易く扱えた それが嘘みたいだ


なぁ どうやったら生きていられるんだ?


いつ終わっても仕方ない 漠然と認めていたのに


覚悟じゃないが 期待もなかったのに



今の俺は 生きていたいと願っている



たった一人の 


俺の希望を抱えた その白い腕に


俺が手を伸ばせたら 


その手を 


握って 引き寄せて あんたを腕に抱えて 



助けてくれないか そう言えたら 





絶対に触れない 俺の希望


俺の願い 俺がこれまで知らなかった 穏やかな時間


あんたの存在を 垣間見たから




『あなたは一人じゃない』


そう あんたは俺に言っただろ?





残酷だよな



俺がいるだけで 山のように犠牲が出るなんて


俺が動くだけで 普通も日常も吹っ飛ぶなんて


顔も知らない誰かが その日に死ぬんだって




俺は 死ななきゃいけないんだろう


唯一 あんたが俺の希望だ


触れない 俺の希望 




忘れられたらいいのに 


忘れたい いっそ知らなかったことにしたい


あんたに 助けてくれないかって言えたら


生きていたいんだ 



俺が死ぬべきだとしても




忘れたいよ


あんたを忘れて終わりに出来たら


でもしがみついている




挿絵(By みてみん)


彼は異世界転移者で、以前の世界でも希望のない生き方でした。

転移した世界では、惨劇の引き金として送り込まれました。

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