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壺井だから壺

 私の発言にコトリは頷いてくれた。


「なんでも言ってみ?」


 先輩をいじめから助けるのも、お姉ちゃんを危険な目に遭わせないのも、とてもじゃないけど私一人では出来っこない。


「コトリにはさ、」


 でも、出来っこないとわかってても、大好きで大切な人に手を差し伸べるのは私でいたい。私だけでいたい。

 命が懸かっていたとしても、私は私でありたい。私は炬燵トウカでありたい。


「私を守って欲しい」


 だから、そんな私が大丈夫なように見守ってて欲しいし、何かがあれば助けて欲しい。


「私が道を踏み外しそうになったら正して欲しいし、壁にぶち当たったら背中を押して欲しいし、道に迷ったら目の前を照らして欲しい」


 私はずっと責任を感じてた。炬燵トウカになってからずっと。

 本当にここにいていいんだろうか。元の場所に帰ったほうがいいんじゃないだろうか。迷惑をかけてるんじゃないだろうか。

 正直、肩身の狭い思いをしてきた。勝手に。自分がそう思ってるだけだと思うけど。

 私を拾ってくれたおっかさんには感謝してるし、こんな私の姉にすんなりなってくれたお姉ちゃんにも感謝してる。もちろん、私に興味を抱かせてくれた先輩にも感謝してる。

 ただ、ちょっとだけ、ほんの少しだけ心に余裕がなくなってきた。

 抱き続けてきた責任のせいで、段々と家族を外側から見てしまうようになってしまった。

 そこから生まれた疎外感をたまに感じる。そういう感じのが夢にまで出てくる。

 家族が離れていきそうだと思ってたけれど、実際は私が変わってってしまってるのかもしれない。だから、


「だから、コトリには私を今の私のままでいさせて欲しい。変わることがあったら止めて欲しい。これがコトリにかける迷惑」


 私は今コトリに背後から抱きつかれながら座っている。

 頭にはコトリの右手、お腹あたりには左手が添えられている。

 コトリの左手に少し力が込められたのを感じた。


「待ってたんだから、迷惑かけてくれるの。だって、私は」


 コトリはさらに力を強めてから、続きを口にせずに、私を抱えたまま立ち上がった。


「私たちが解決すべき問題は二つ。まぁ、本来は三つなんだけど、一つは置いといて」


 先輩とおっかさんの娘である私とお姉ちゃんの件の二つじゃないのか?


「同時進行で解決していこうと思ってたんだけど、まずは情報が固まってきそうな先輩の方から片付けるのがベストだと思う。まぁ、いじめに関しては日にちが経たないと無理なところはあるけど。でも、解決とまではいかなくても、真相を知るところを仮にゴールだとすれば、早くに落ち着きそうかな。もう一つの方はトウカ自身もそうだし、アリスさんの身にも異変があればそこから紐解いてヒントが見つかるかもしれないし、すぐに動けることはないって感じかな」


 めちゃめちゃ考えてるぅぅぅ!


「そういうのは私が考えようとしてたんだけど」


 返せよ、私の覚悟!助かりはするけど、そういうのも含めて私がやるべきなのに!


「適材適所って言葉知ってる?」


 ……両手を勢いよく上げた。


「降参です」


 カッコつけて私を守って欲しいとか今のままでいさせて欲しいとか言ってたの恥ずかしくなってきた。本心だからいいんだけど。

 コトリの潜在的な能力の高さには圧倒的な敗北を感じざるを得ない。大人しくコトリの手を借りるとしよう。


「ということで、応接室へ潜入捜査にゃ!」


 にゃ!?小鳥なのに!?ていうか、


「潜入!?」

「ちょ、声でかいって」


 すぐに口を押さえて周囲をキョロキョロ見渡す。


「せ、潜入って、しちゃダメじゃない?」


 コトリはため息をついた。


「トウカは真面目なんだから。こういう時こそ大胆かつ慎重に行動するのが大事なのよ。その行動の良し悪しは別問題よ」


 一度悪いことだと脳が認識すると、どうしても乗り気にはなれない。


「じゃあ、どうやって潜入するのさ。動物のフリでもする?壺のフリとか?いや、椅子とか机?いい感じに育った木AとBとか?」


 ふざけているように見えるかもしれないが、至って真面目だ。真面目でないことを真面目に考えることに慣れてないだけ。


「……それだな」


 どれだよ!!


「壺のフリをしよう」


 壺のフリか。まさか自分が出したアイデアの中に良いのが入ってるとは思わなんだ。


「どうして壺なの?」


 コトリは自らの胸を二回叩いた。


「……ちょ、コトリ、さすがにここでそれをするのは」


 さすがに学校という公共の場所でドラミングをするのは……廊下には普通に人が歩いてるし、求愛行動をここでやるのはいかがなものかと。


「私の苗字が"壺井"だからよ!」


 ん?……ん?ん?


「え?何?」


 さすがに私は自分の耳を疑った。


「まじで申し訳ないんだけど、『私の苗字が"壺井"だから』って聞こえたような」


 コトリは「何言ってんだ、こいつ」みたいな顔をしている。私もそう思ってるから同じ顔をしてやる。


「そう言ったんだけど、おかしかった?」


 おかしいだろ!!どこに句読点置いてもおかしいよ!遊びでやった立ち幅跳びで世界記録出すくらいにおかしいよ!


「ほら、トウカもこうやって?」


 コトリは壺のポーズを取った。


「……こう?」


 私は見様見真似でやってみる。


「そう!」


 これでいいのか。


「よし、この形をキープしたまま潜入するよ!」


 コトリは壺のまま歩き出した。


「壺が歩くのはおかしいよ、さすがに。それは私でもわかる」


 コトリは歩くのをやめ、壺のポーズを解除し、普通に歩き始めた。


「……言われなくてもそのつもりだった」


 いやいやいやいや、それはさすがに強がりですぜコトリさん?今ちょっと間ありましたやん?


「よし、壺!」


 応接室の前に来ると、コトリのよくわからない合図で私たちは壺のポーズを取った。


「本当に大丈夫なの?」


 小声で訊くも、返事は返ってこない。


「コトリ?」


 いや、返事が返ってこないんじゃない。もしかして、本気で壺になってやがるな!?壺は話せないから返事は返ってこないんだ!クソ!やられた!……なんだよ「クソ!やられた!」って。恥ずかしいわ。


「壺は赤面しない」


 なんだよ、普通に話すじゃんかよ……

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