表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/358

喋るロッカー

 さて、先輩をどう誤魔化そうか。


「どいてよ、また漏らさせたいのか?」


 そんなことはないけど、それよりもっとやばいこと起きますよ?


「別にここでする必要、なくないですか?」

「いや、ここが一番近いし、教室にも早く戻れるし、他んとこ行く時間無駄だろ」


 何言っても返される気がする。負けるな、私!


「いやいや、先輩も聞こえてたでしょ?今、中に入ったら修羅場になりますって」

「それはトウカがそう思ってるだけであって、俺はそうは思わない。ああいうのは構うのがよくないのであって、無視しとけば大抵なんとかなる」


 なんとかなるかもしれないけど!私の第六感がダメだって言ってるんだもん!


「いいや、ダメです!違うトイレに行きましょう!私も向かいますから!」


 それでも目の前のトイレに入ろうとする先輩を無理矢理振り向かせ、背中を押して進み出した。


「あれ!ヤイチじゃん!トイレ?奇遇だね!」


 ……終わった、お姉ちゃんだ。


「げっ、そこに誰かいるの?」


 やばい、お姉ちゃんのクソデカボイスで中の人に気づかれた!?


「か、隠れて!」


 ガシャンッ!!!パチッ!パチッ!


 私はすぐそこの角を曲がった踊り場に置かれている掃除用具ロッカーに先輩と一緒に入った。


「おい、また漏らさせる気か?」


 いやいや、そんなこと言ってる場合か!って、こんな状況にさせたの私なんだけどさ……


「先輩、当たってるんですけど」


 私が取る咄嗟の行動は全て大胆になってしまうのかもしれない。

 声の主がそこにいないと不審がられて周囲を探されると思い、お姉ちゃんをトイレの前に置いてきた。まぁ、なんとかなるでしょ。


「……るんだよ」


 え、な、なんて?


「なんて言いました?」


 先輩は私と視線を合わせてくれない。


「……きくなるんだよ」


 きくなるんだよ?


「なんですかそれ、聞かない言葉ですけど」


 先輩は右斜めに向いていた視線を左斜めに向ける。


「大きく!……なるんだよ」


 大きく……なるんだよ……確かに先輩のアレは大きくなってるような気がするけど、一体どうして……?

 私はふと視線を落とした。


「きゃっ!!」


 バンバンバンッ!!


「おい!動くなよ!隠れた意味なくなるだろ!俺は隠れたくなかったけどさ」


 どのタイミングかはわからないけど、制服の第二ボタンまでが弾け飛んでいて、谷間がこんにちはしていた。


「……見たん、ですね?」


 別に怒ってはいないのだが、先輩がどう反応するのか気になって訊いてみた。


「だから、見てないって。そうじゃないことでも反応する時があるんだよ」


 なるほど、先輩は嘘をつく、と。


「先輩、嘘が下手ですね。私が教えてあげましょうか?」


 私はコトリに気持ちを悟られないように何度か嘘を本気で試したことがある!……結果は惨敗だったけど。それでも、人よりかは嘘について研究してきた自信がある!……結果は出なかったけど。


「嘘じゃないって」


 その発言がもう嘘じゃーん。


「あれ、てか、トウカお前、胸元めっちゃ空いてるぞ?暖冬だからって油断してると風邪引くぞ」


 先輩は狭いロッカーの中でゴソゴソ動いて、ポケットからタオルハンカチを取り出して、私の胸によだれかけのようにしてくれた。


「空気が触れなくなるだけでだいぶマシになるだろう。……お前顔赤くね?言ったそばから風邪ひいたか?」


 ドゥクン、ドゥクン、ドゥクン、


 ……これが……乙女の気持ち……!!


「先輩!私と!」


 ガラン!!


 先輩に想いを伝えるのなら今だと思って体に力が入ってしまった。


「あ」


 ゆっくりと開かれて行く扉。正面には満面の笑みのお姉ちゃんが立っていた。


「楽しそうでなにより!」


 あぁぁぁあああああ!!変な誤解されるぅぅううう!!嫌だ、嫌だぁぁぁあああ!!


「ふぅ、やっとトイレに行けるよ」


 先輩はスタスタとトイレに向かって行った。


「大丈夫。中の二人は逃げてったよ」


 私が先輩の手を掴もうとすると、お姉ちゃんにそう言われた。


「逃げてった……?」


 お姉ちゃんが何かしたのかな?


「『ロ、ロッカーが喋ってるぅぅうう!?!?』って言いながら逃げてったよ」


 この日を境に、私の高校の七不思議に"喋るロッカー"が追加された。


「あ、戻ってきたな、喋るロッカー」


 噂回るの早すぎだろ、新幹線かよ。


「コトリは情報屋か何か?」


 教室に戻ってくる頃には二限は終わっており、休み時間に突入していた。

 戻るついでにロッカーから取り出した教科書等を机の上に置いて、自分の席に腰掛けた。

 なんだか今日は忙しないな。今の件もそうだし、遅刻したし、呼び出されたし。


「将来の夢は情報屋だよ?ほら、映画とかでよく見る両勢力どっちにも情報を売るやつになりたいのよ」


 それ第三勢力に捕まって殺されるか、終盤に戦争に巻き込まれて死ぬか、次回作以降出番なくなるやつじゃん。つまり、立ち位置めっちゃ悪いってこと。


「そんな世の中になったら、この世も末だね」


 平和なこの国でそんなことは起こらないはず。こんなこと言うと平和ボケって言われるけど、いざという時のためにピリピリして過ごすよりも、平和にボケていた方が何倍かマシだと思う。


「でも、割と現実的に戦争が起きそうって話、興味ない?」


 ここにピリピリしてそうな人いたわ。


「興味ないと言ったら嘘になるけど」


 まぁ、コトリの妄想だと思って聞いてみるか。


「人間とAIが対立するかも、って海外で話題になっててさ。ほら、最近AIが普及し出したじゃん?」


 AIねぇ、機械に疎いから考えたくもないけど、耳にする話全てが便利と結びついてるほど、AIの力はすごいみたい。


「でも、この話の面白いところがさ、人間とAIの戦争なのに、AIを作ったのは人間ってところなのよ。実際に戦争しあうのは人間同士ってわけ。ほんと、私たちって愚かな生き物よね」


 人間は、愚か。これまでもそうだし、きっとこれからもそうなんだろうな。人間が生きている間は、あたかも自分たちが中心に世界が回っていると思い続けるんだろうな。本当は周囲の存在に回され続けてるってだけなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ