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完璧主義者

 チャイムが鳴り響く中、私とコトリは教室に入った。

 二限は現代文。机の中に教科書等が入っていて助かった。


「すいません!ロッカー漁ってきます!」


 コトリは教室に入った瞬間、先生に向かってそう言った。

 準備もせずに私のことを気にかけてくれてたみたいだ。やっぱり強い人だよ、コトリは。


「では、授業を始めます」


 四十代くらいの男性教師の眠たくなるような声で授業が始まった。

 私の席は窓側の後ろから二番目。一つ後ろなら主人公席とでも言われているというのに、その前の席の私はいつだって脇役だ。

 水曜二限、この時間は向かいの校舎で先輩が数学の授業を受けている。

 私は窓に視線を移して、向かいの教室にいる先輩の姿を探す。


「ほら、あそこだよ、教卓あたりの」


 私の考えを読んだようにコトリは先輩の位置を教えてくれた。


「え……」


 思わず声が漏れてしまい、咄嗟に口を押さえた。幸い、誰にも聞かれておらず、私はほっと胸を撫で下ろした。

 私の視界に入ってきたのは異様な光景だった。教卓の前に座る先輩の周囲には誰一人として座っていなかったのだ。

 保健室の前には本日の欠席者、遅刻者、早退者が記入されるホワイトボードが貼り付けられている。

 保健室に入る前に見たのだが、この日の学校全体の遅刻者は三人。私と先輩以外にもいたということ。それと、欠席者はたったの一人だった。

 つまり、先輩の周囲の生徒は休んでいるわけでも遅刻しているわけでもなく、単純に誰も座っていないということになる。


「なんか変だよね」


 コトリもそれに気がついたのか、独り言のように呟いた。

 窓から見えるのは教室の前方、真ん中、後方の三箇所。前方には先輩の姿しかなく、真ん中と後方には多数の生徒が見られた。


「集団心理ってやつだね」


 集団心理。みんながやってるから自分もやる、それが悪いことであってもみんながやってるからという免罪符があるため、悪いと思う気持ちを持つことなくやってしまう。

 それがまさに先輩のクラスで行われている。


「昨日までは普通だったよね?」


 コトリの言う通りだ。私は常に先輩の姿を追っている……これ言葉にすると少し恥ずかしいな。

 昨日までは至って普通な教室の風景だったのだが、そんなすぐに変わるものなのか?


「ああいうのは現場だけ収束させても、根本的な部分は直ってないから、再発しちゃうんだろうね。完全に一対多数の構造が出来あがっちゃってるわ」


 私はそれこそ昨日から、先輩をいじめの現場から引っ張り出すために動き出した。

 クラスの人間から絡まれそうだったところを、部活の後輩であるという関係性を使ってなんとか回避させることができた。

 コトリが言っているのは、それだけじゃいつまで経ってもいじめは終わらない。中心にいる人物をどうにかしないと、このままじゃ私の精神もすり減らされてしまう。


「面白い話なら先生にも聞かせて欲しいんで、す、け、ど」


 授業のことをすっかり忘れて先輩を見ていたため、教室後方に先生がやってきたことに気が付かなかった。


「ね、壺井(つぼい)さん」


 よかった、私じゃなかった。


「違いますよ?私は窓から見える光景を詠んでただけです」

「今は授業中です」

「先生は私たちの創作意欲を潰すんですか!?」

「今は、授業中です」

「思いついた時に」

「今は?」

「……授業中です、すいません、す!い!ま!せ!ん!」


 英断だコトリ。教師相手には何を言っても力で負けてしまう。それでも、対抗しようとするコトリはすごいや。私ならすぐに諦めちゃうから。


「では壺井さん、次の行から読んでください」


 あれ、先輩が立ち上がって歩き出した。廊下に出て、どこに向かうんだろう。"今は授業中"なのに。


「せ、先生!お手洗い行ってきます!」


 咄嗟にとった行動だったため、それが恥ずかしいことだと思うのに少し時間がかかった。


「トウカって、たまに大胆だよね」


 クスクスという笑い声に包まれながら、私は逃げるように教室を飛び出した。そして、向かいの校舎へ向かう。

 授業の流れとか、クラスの雰囲気とかはわからないけど、少なくとも異常だ。どうして授業中に突然廊下に出て行くんだ。


「あ」


 私は早足で進めていた歩を止めた。


「トイレに行っただけじゃ……」


 授業中+廊下に出るはつまりトイレじゃん。なーんだ、私の考えすぎかー、あはは、あはは。


「せっかく休みだと思ったのにさ」


 と、教室へ戻ろうとした時、背後から声が聞こえてきた。


「まぁまぁ、あと一ヶ月の辛抱だろ?」


 どうやら男女が会話しているみたいだ。


「アタシは完璧主義者なの。席替えは運だからカズト君と遠くなっちゃうのは仕方ないけどさ、両親がいないやつの隣なんて嫌なんだけど。うつるっていうかさ。こっちまで不幸になりそうじゃん?」


 待って、誰の話してるの?


「そんなこと言うなって。あいつだって好きでそうなったわけじゃないんだしさ。どうしてそんなこと言うんだよ」


 ねぇ、それ、私の話?お姉ちゃんの話?先輩の話?誰の話?


「アタシはこういう人間なの……カズト君には迷惑かけちゃってるって思ってるよ?でも、変えられないの。こんなアタシ嫌なんだけど、どうしても完璧じゃない人見ると鳥肌が立つし、寒気が止まらなくなるの」


 私は気づけば声が聞こえてくるトイレの前まで来ていた。


「俺だって完璧じゃないぞ?寝坊はするし、宿題忘れるし、金欠だし」

「違うの。アタシの言う完璧は言い換えれば理想ってこと。カズト君は頭から爪先までアタシの理想だから、完璧なの!」


 すると、後ろから足音が聞こえてきた。


「あれ、トウカじゃん。トイレ?でも、なんでここの?」


 まずい、先輩にこの話を聞かせてはいけない。


「せ、先輩!偶然ですね!でも、向こうのトイレに」

「だからさ、アタシの理想に反してるあの、名前なんだっけ?オチャみたいな名前のやつ。目障りだからいなくなって欲しいんだよね」


 トイレの中からの声は、おそらく先輩にも聞こえていた。

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