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暗闇が怖いバチカさん

 シロコさんを探しに来ている俺とアリスとバチカさんなわけだが、かれこれ数十分が経過しており、やや疲労が溜まってきている様子が窺える。


「こんな長旅になるとは思ってませんでした。一休みしましょうか」


 体を交換していない俺ならまだしも、交換した二人がこの状態だと、俺でもおかしく感じてしまう。


「労働には耐えられても、運動には耐えられません」


 ソウルターミナルはデスクワークが基本らしく、体を大きく動かすような仕事はないようだ。つまり、体がなまっているというわけだ。


「いい運動だと思うことにしましょう。ほら、疲れた顔しながらでもアリスは懸命に歩いてますし」


 おいアリス、俺の顔使ってそんな顔するんじゃない。頬の肉だだ落ちじゃないか。そんな俺の顔見たことないぞ。


「オチヤー、暑いよー、水欲しー」


 アリスが顔中を汗でびしょびしょにしながら言う。

 無自覚元気っ娘でも、さすがに環境の変化には勝てないか。


「確かに、さっきから気温が上がってるな」


 俺だけかと思っていたし、言うべきではないと思っていたために言ってこなかったが、突然の気温の上昇を察知していた。


「汗気持ち悪いー」


 俺の顔をしたアリスが俺の服で汗を拭いてくる。うげぇ……


「バチカさんは大丈夫ですか?」


 無自覚元気っ娘は大丈夫だろう。人一倍真面目でプライドの高そうなバチカさんが心配だ。


「あちしはここで待ってますから、二人だけでも先へ行ってください」

「そんな、置いてくほど急いでいませんし、バチカさんが休むなら俺たちだって」


 振り返ってアリスの所在を確認すると、そこにはもういなかった。


「急ぐ理由、できましたね」


 なんで?さっきまでここにいたじゃーん。俺の服で汗拭いてたじゃーん。目の前真っ暗じゃーん。

 俺は暗闇に一人バチカさんを残すことを心の中で何度も謝りながら、アリスの後を追う。

 幸い、アリスの指先が光っているため、微かだが方向はわかる。


「アリスー!待てってー!どこ行くんだよー!」


 アリスからの返事はない。アリスのことだ。そっちに興味が転がっているのだろう。

 少しして、動いていたはずの微かな光が止まり、段々とアリスの姿もはっきり見えてきた。


「どうしたんだよ、いきなり走り出して」


 アリスは何も言わず、指先の光を一点に集中させている。


「シロコ……さん?」


 シロコさんのはずなのだが、何やら様子がおかしい。少し、幼い?


「この子、シロコさんじゃない」

「どこからどう見てもシロコさんではあるだろ。少し様子が変なだけで」


 アリスは周囲を調べるように光を照らすも、特に異常は見つからなかった。


「バチカさんも置いてきちゃってるわけだし、とりあえずシロコさん連れて戻ろう」


 俺はシロコさんを抱えて、アリスと共にバチカさんの元へ戻る。


「むにゃむにゃ……はっ!!!」


 道中、シロコさんが俺の腕の中で何度か寝返りを打っていたが、やがて目を覚ました。

 目をこすりながら、驚いた目をこちらへ向けてくる。目ガン開きすぎるだろ。


「シロコさん、大丈夫ですか?」


 驚いた表情は変わらず、口を開けたまま、まじまじと見つめてくる。


「だから、シロコさんじゃないって、その子」

「どこからどう見てもシロコさんだろ。白衣着てるし、飴も舐めて……」


 俺たちは立ち止まる。


「飴舐めてないの?」

「舐めてないわ」

「それがいつもと様子が変な原因じゃない?」


 アリスにしては勘が冴えてるな。

 俺はシロコさんの白衣のポケットから飴を取り出し、空いたままの口に入れてみる。


「シロコさーん、大丈夫ですかー?」


 呼びかけるように声をかけると、大きく開いた口が閉じていき、舌が飴を確認したのか、転がし始めた。


「どうして、オチヤ君が私を抱えているの?」

「シロコさんだ!」


 さっきからシロコさんだったって。


「シロコさん、どうなったか覚えてますか?」


 俺はシロコさんを下に下ろす。


「私はアリスちゃんを探しに、オチヤ君に開けられたどうしようもない最悪の穴に入って」


 その節は申し訳ありません。何かお詫びをしに後日伺わせてください。


「暗くて何も見えないから呼びかけてたんだけど、返事もなくて。それで、気がついたらオチヤ君に抱きかかえられていて」


 要するに、シロコさんもバチカさんみたく、運動に慣れていないために、意識を失ってしまったのだろうか。

 心の強い女性ばかりだが、案外、体は脆いのか?


「具合はどうですか?」


 シロコさんが首を回しながら答える。


「問題ない。身換室に戻ろうか」


 突然、アリスの指先から出ていた光が消える。


「ごめん、電池切れちゃったみたい」


 それ電池式だったの!?みかんが電池とか言わないよね?


「一本道だったし、足元に気をつけていれば大丈夫よ」


 俺たちは来た道を戻り、身換室へ向かう。

 その途中で、何かを忘れているような気がしたが、思い出せず。思い出せないものは大したことないと、深く考えることはなかった。


 ***


 あちしの名前はバチカ。小柄ながらもきっちり仕事をこなすタイプだと自負している。

 そんなあちしでも怖いものがある。それは、暗闇とお化けだ。

 滅多にそんな状況には見舞われないが、今、現在進行形で見舞われている。


「オチヤさーん、アリスさーん」


 小さく震える声では届かないだろうが、声を出していないと恐怖で押し潰されてしまいそうだ。


「どうして眠ってしまったんでしょうか」


 体を変えたばかりで疲労は溜まっていないはずなのに、なぜかあちしは眠気に襲われてしまった。


「忘れてしまわれていたりは、しないですよね」


 暗闇という恐怖に包まれていることよりも、あちしの存在を忘れているのでは、という心配の方が勝っている。


「こういう時は一か八か。一本道なんですし、進みましょう」


 こうして、あちしは身換室へ戻る道ではなく、奥へて進む道を選んでしまい、ソウルターミナルへ戻るのにはかなりの時間を要したのだった。

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