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行方不明のシロコさん

 身換室の壁を修理するための申請書をユウカさんに提出した後、俺とバチカさんはアリスの様子を伺いに再び身換室へ向かっている。


「戻りましたー」


 扉を開けると、そこには誰もいなかった。


「まだ戻ってないみたいですね」

「あちしたちも壁の中に入ってみましょうか」


 少しだけバチカさんのワクワクが伝わってくる。

 きっちりとしているように見えて、意外と幼いのか?


「アリスの形……今は俺の体ですけど、綺麗に(かたど)られてますね」


 穴の中は奥へ進むほど光が届かなくなり、やがて何も見えなくなる。


「何かあるといけませんから、俺の服を掴んでいてくださいね」


 言われる前にすでに掴まれていた。

 真面目な面しか見てこなかったために、こういう仕草はキュンとくる。

 意外な一面を発見すると、クラスでの人気女子ランキングは一気に変動する。女子の意外な一面は誠に眼福である。


「バチカさん、怖かったら別にいいんですけど、片手で十分ですからね」


 気づくと、俺の服を掴む手が二つになっていた。


「こ、怖くないですし、掴んでない手はここです」


 二つの手で掴まれつつ、バチカさんは服を掴んでいないもう片方の手を見せてくる。


「バチカさんって、三本も腕ありましたっけ?」

「ないです」


 ボケたつもりが、ツッコまれることなく、否定される。

 じゃあ、一体、誰が俺の服を掴んでいるのだろうか。


「おい、誰なんだお前は?」


 バチカさんではない手を掴み、暗闇でも見ることのできる距離まで顔を近づける。


「えーと、」


 よく、わからなかった。

 よくわからないこと続きだったのだが、本当によくわからなかった。

 顔を近づけて、時が止まったかのように見つめ合う。もう一人の俺と。


「ドッペルゲンガー!?!?」

「違うわよ!!」


 俺は俺に平手打ちを喰らう。

 そう言えば、アリスが俺の体を器としているんだった。


「アリス、でいいんだな?」


 「何でわかんないのよ」と、不満そうなオーラを漂わせてくる。


「どうしてアリスさんがここに?シロコさんは?」


 そうだった。アリスを探しにシロコさんが向かったはずなのに、一体、シロコさんはどこに?


「それがね、あたしも見てないの」


 敬語は使わない路線で行くんですね。了解です。


「見てないとは?」


 俺たちは互いを認識できるくらいに顔を近づけて話し合う。


「三十個目のみかんを食べ終えて、気づくと辺りが真っ暗で」


 みかん食べ過ぎだろ。


「シロコさんの声が聞こえたんだけど、姿が見えず、気づけば声が遠のいて行っちゃって」

「アリスも声かけたのか?」

「かくれんぼかと思って、黙ってた」


 ダメだこりゃ。


「シロコさんがどっち方向に行ったかわかりますか?」

「多分あっち!」


 そう言って、アリスが指を差すと、アリスの指先が光り始める。


「あ、そう言えばあたしの指って光るんだった!」


 どこぞの宇宙人だ。


「でも、それは好都合だ。光を頼りにシロコさんを探しに行こう!」


 ん?よく見ると、指先が黄色がかってるぞ。みかんの食い過ぎだな?


「バチカさん、手、離していいですよ」

「掴んでてもいいですか?」

「いいですけど」


 まぁ、俺に損はないし。


「あたしは?」


 アリスが光を自分の顔に向けながら言う。


「ひぇっ!!」


 誰の声だ?


「今のって誰の声?」

「さぁ?シロコさーん?いるんですかー?」


 反応はなし。


「となると……」


 アリスが光を照らしてくれた先で、俺の服を掴んでいたはずのバチカさんがしゃがみ込んで頭を抱えている。


「バチカさん!大丈夫ですか?」


 おばけ、おばけ、と震える声で呟いている。


「おばけじゃないよー、アリスだよー」


 アリス、追い打ちをかけるな。あと、俺の顔でやられると、俺の今後に響くからやめろ。


「アリス、あんまりからかうな。誰にだって怖いものはある。アリスもそうだろ?」


 何も口にせず、首だけ横に振るアリス。


「呪いは?」

「全然?」

「戦争は?」

「そんなに?」

「俺に嫌われることは?」


 一問一答形式で、淡々と答えていたアリスが言葉を詰まらせた。何度も口をパクパクさせている。


「えっとさ、」


 指先で照らされたアリスの頬が少しだけ赤いように見える。


「その言い方だと、オチヤはあたしのこと好きだってことでいいんだよね?」


 俺は表情一つ変えずに答える。


「すまん、言い方ミスった。別に好きじゃない。言葉の選択ミスだ。決してアリスが好きなわけじゃない」


 アリスは何も言わず、しゃがみ込んで頭を抱える。


「アリス、それが怖いってことだ」


 ただ、と俺は言葉を付け加える。


「今は好きなわけじゃないけど、いずれは好きになる可能性はある。かも。ほんの少しだけ」


 指先の光と大差ないくらい眩しい笑顔を近づけてくる。


「待ってるから!」


 この時、ほんの少しだけアリスのことを好きだと感じた。笑顔に勝る表情などないのだ。


「バチカさん、もう大丈夫ですから、行きましょ?」


 バチカさんに手を差し伸べる。


「おばけは?」

「やっつけておきました」


 バチカさんが俺の手を取り、立ち上がる。


「ぐすっ、今のこと、内緒でお願いしますね」


 俺は口が裂けても守る自信ありますけど、アリスはどうだか……


「じゃ、シロコさん探しにレッツラゴー!」


 こうして、闇に消えていったシロコさん探しが始まった。

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