後輩のトウカ
「私、働きたいんです!」
席に着くことなく、次の転生希望者はそう言った。
「働く……世界をご希望ということでよろしいですか?」
希望者は何も言わずに席に着く。
「違います!ここで!この場所で働きたいんです!」
意味がよく理解できなかった。
この人はどうして転生するための列にいるのだろうか。
この人はどうして"こんな"場所で働きたいんだいたたたたたた、ちょっと!イチカさん!見られてないからって、机の下で足を踏みつけるのはアウトでしょ!そういうのは裏でやりましょうよ!喜んで引き受けますから!
「もう少し、わかりやすくお願いしてもいいですか?」
俺は詳しい説明を求めた。
「私の名前はトウカ。年齢も性格も血液型も経歴も、プロフィールというものは名前以外に覚えていません」
いきなり始まった自己紹介。
どれどれ、と書類に目を通すと、確かにこの人は転生希望の欄が空白になっている。じゃあ、本当にここで働きたいのか?
「この場所で、魂の終着点、ソウルターミナルで働きたいんです!」
働きたい!という強い思いはわかったのだが、話の最初から、どうして働きたいのか、理由が掴めていない。
「どうしてここで働きたいんですか?そもそも、それなら受付で振り分けられるは、ず……」
と、受付の方へ視線を飛ばすと、意味不明な動きをし続けているアリスがいた。
あぁ、そういうことか。じゃあ、あいつ仕事してないじゃん!後で説教だな。
「理由は、その、面白くなりたいから、です。特に深い理由でなくてすいません」
トウカさんの視線をアリスの方へ向いた。
「あんな面白い方、初めて見ました。記憶はないのですが、あったとしても初めてだと思います」
やばい人に憧れを抱いてしまったトウカさん。一周回ってここで働く方が危険な気がする。いくら面白くなりたいからと言っても。
「ここで働くのはお勧めしませいたたたたたた」
首を傾げるトウカさん。イチカさんを睨む俺。俺の足を踏みつけるイチカさん。
「あの、大丈夫で」
「うちは誰でも大歓迎ですので!シフトは週二日、いや、一日三時間、いや、十分から入れますので!」
イチカさんがトウカさんの言葉を遮って、ワントーン高めの声を発した。
是非、俺にもその待遇してくれ。
「いえ、そんな、ここで働かせていただけるだけで嬉しいのに、それなら力にならせてください!」
トウカさんは両手の拳を握る。真剣な眼差しをしているも、輝く瞳はどこか幼さを感じる。
「そこまで言うなら」
転生を希望しないのなら、ここで働きたいと言うのなら、それは嬉しい限りだろう。
俺にとってはまだ人が少ないと感じてはいないが、後々そう思わざるを得なくなるかもしれない。
「ということは、俺の後輩になるのか」
四日しか経っていないのに、もう後輩ができてしまった。ほぼ同期なのだが、なんか、いいな後輩って。言葉の響きがとてもいい。
「よし、トウカ!後輩としてコーヒーを」
「この機会だから、色々お話ししましょ?」
先輩として後輩をパシろうとしたところ、イチカさんに顔を鷲掴みにされて止められた。
「あの、大丈夫で」
「それでそれで、トウカちゃんはどんなことが得意だったり好きだったりするの?」
その心配は届いてるぞ、後輩。だから、どうか、その気持ちを持ち続けてくれ。ずっと、俺の味方であってくれな?
「とにかく頑張ること、ですかね。努力とかひたむきとか。簡単でわかりやすいので!あと、諦めることはしたくないです!」
話を聞く限り、過去と関係しているかは不明だが、トウカは頑張り屋さんのようだ。
「フレッシュさがあっていいですね」
鷲から顔を解放された俺がイチカさんに声をかけられたのだが、
「新人はこういうのが当たり前なんだけど?」
と、言われた。うるさい。俺が俺でいて何が悪い。
「それと、多分なんですが、頭使うのとかは苦手かもです」
ここにいる人たちは経験値が高い上に、頭良さそうだから、トウカのような人は珍しいと思う。
量より質じゃなくて、質より量なのがトウカのような気がする。
「それでも!いつかは賢くなりたいと思っているので、何卒、よろしくお願いいたします!」
自由の女神のように高々と腕を上げるトウカ。背後に並んでいる転生希望者が拍手し始めた。
「おめでとう!」
「頑張れよー!」
「挫けんなよー!」
う、うぅ、俺の時は何もなかったのに、誰も見てくれなかったのに、なんでそんな、みんなを味方につけられるんだよ。
「それも、トウカちゃんの特技なのかもね」
イチカさんが小さく呟いた。
「こちらこそよろしくね。ひとまずはオチヤ君にここを案内してもらって」
あ、自己紹介忘れてた。
「どうも、四日前にここに来たばかりでまだ新人のオチヤです。俺もわからないことだらけだけど、一緒に頑張ろうな!」
俺は右手を差し出す。
「よろしくお願いします!先輩!」
あ、先輩って言ってくれるのね、めっちゃ優しいじゃん、四日しか違わないのにたたたたたた!
「痛いって!」
緊張してて、ちょっと力入れすぎちゃったのかと思ってたから我慢してたけど、ずっとその強さじゃん!
「あ、す、すいません。加減するのも苦手みたいです」
俺は痛みを逃すように手を振る。
いや、イチカさん、蔑んだ目で見てこないで。今のは自己防衛ですよ。あのままじゃ俺の右手はおじゃんになってましたし。
「苦手なところはカバーするから、どんどん教えてね。じゃあ、行こっか」
俺はトウカにソウルターミナルを案内するため、横に並んで歩き出した。
ふと、恐ろしい視線を感じるも、俺は気にも留めずに歩き続ける。




