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イチカとバチカ

「オチヤ!これからよろしくね!」


 なんやかんやあって、ソウルターミナルで働くことになった俺だが、いきなり同期ができた。


「アリス、さん。よろしく」

「アリスでいいよ!」

「ア、アリスは本当に良かったのか?」


 元々は私利私欲に満ち溢れた転生を希望していたアリスだが、どうしてか俺と共にソウルターミナルに身を置くことになった。


「だって、あたしの涙見たじゃん……///」


 そんな風に照れないでくれ。恋しちゃうじゃん。


「聞いた話なんだけどさ、ここでは他人の過去のことを聞いてはいけないルールがあるらしいよ」


 おい、そんな驚いた目で見るなよ。俺だって今日ここに来たばかりで、知ったのも今日だし、さっきは忘れてたんだって。


「さっきは悪かったって」

「じゃあさ、」


 アリスがモジモジしながら見つめてくる。


「オチヤの過去のこと、教えてくれたら、おあいこ」


 聞いちゃダメって言ったばかりじゃん!鳥頭かよ!俺の方がまだマシなの逆に驚きだけど!


「いやいや、だから聞いちゃダメなんだって」

「でも、オチヤ聞いてきたじゃん」

「だから、それは悪かったって」


 アリスはわかりやすく肩を落とす。


「実はさ、覚えてないんだよ。ここに来た理由も、経緯も。気づいたらここにいて、目を開けたらユキノさんがいて」


 教えられるのであれば教えたいし、自分だって知りたい。でも、知らないものは知らない。

 過去について聞いてはいけないということは、自分もそれに当てはまるということでもある。

 もしかすると、自分の過去を模索することがソウルターミナルにとってマイナスなことに繋がってしまうとか?


「だからさ、これから!これからの日々を一緒に過ごせるんだからさ!過去は一旦置いておこうよ!」


 そうだ。俺にはここでの生活が待っている。

 見えない過去を見ようとするより、見えない未来を見ようとした方がいくらか明るいはずだ。

 ほら、アリスだって目を輝かして、顔を近づけて、近づけて、いやいや、それはあまりにも近すぎ……


「近すぎるって!」


 顔を近づけてくるアリスの額を抑える。

 高鳴る鼓動を正常に戻しつつ、アリスの目を開かせる。


「今、何しようとした?」

「誓いの」


 「近いの」と「誓いの」で言葉の意味をうまくかけてくるんじゃないよ。


「てか、何を誓うんだよ」

「あたしたちの、未来?」


 じゃあ、握手くらいでいいじゃん。別に結婚するわけじゃあるまいし。


「アリス、君は何か勘違いしていることばかりだな」


 アリスは首を傾げて大量のクエスチョンマークを頭上に浮かべる。いや、浮かべすぎだろ。天井にまで届きそうだぞ。


「仲良くやってんね」


 イチカさんが再び戻ってきた。


「これのどこが仲良く見えるんですか」

「キスしようとしてたの見えたよ?オチヤ君って意外と積極的なんだね」


 どうしたら俺から仕掛けたように見えるんだ?


「イチカさん!オチヤが意地悪してくる!」


 いやいやいやいや、過去に触れそうになったってのはあるけど、だとしても今のこの状況はそっちが作り出したじゃん!


「こら!ダメじゃない!女の子をいじめちゃ!」


 あー、終わった。終わったわ。見えない未来は見えないままの方がいいかもしれない。

 思い返してみればここには女性しかいない。俺の、男の味方が誰一人いない。

 ああ、所長が帰って来てくれればなぁ。いい感じに味方してくれそうなのに。


「いじめた覚えはありませんよ」

「いじめる人はそうやって言うのよ」

「いじめた覚えがあります」

「じゃあ、ダメじゃない」


 詰みゲーです。


「ともかく、仲良くやってよ?ただでさえ仕事で忙しいんだから、変なトラブル起こされると困るのよ」


 はい!と元気よく返事をする俺とは対照的に、はーい、と気の抜けた返事をするアリス。


「アリスちゃんは偉いね!」


 はい、不平等。俺のことも褒めてやれ。


「俺たちはこれから何すればいいんですか?」


 このまま「アリスを持ち上げ隊」の流れに従ってしまえば、俺の立ち位置が完全になくなると思い、俺は口早に尋ねる。


「そうだなぁ、ちょうど落ち着いてきてるし、所内を案内しようかな」


 仕事を任されるよりも先な気がする、とはこの状況ではさすがに言えない。言ってしまえば、あーだこーだと言葉を投げてくるに間違いない。


「と、思ったけど、もうこんな時間だ」


 所内に鳴り響く蛍の光。終業の合図だ。


「じゃあ、今日の勤務は終わりですか?」

「は?」


 めっちゃ怖い目で睨んでくるじゃん。


「これから書類整理だったり、明日来るであろう転生希望者用の世界を用意したりするんだよ?勤務の終わりなんてないんだよ?」

「ブラックだぁ……」


 アリスが小さく呟くと、遠くから俺を睨む視線を感じる。

 なんで毎回矛先が俺なんですか。


「まともに体休まらないじゃないですか」

「体は休める必要ないんだよ」


 何を言っているんだこの人は。


「案内もそうだし、この件についても、私の妹に一任する予定だから」

「妹さんって、イチカさんが叱られたって言ってたあの?」

「誰が叱ったですって?」


 気配が全くなく、気づいたら背後から低い声が聞こえてきた。


「お初にお目にかかります。バチカです。以後、お見知り置きを」


 驚いて、距離をとりつつ振り返る。

 ショートカットで小柄なバチカさんは、身の丈に合っていないスーツを着ており、袖から手が出ていない。


「よろしくお願いします」

「よろしく!バチカちゃん!」


 パァン、とアリスが差し伸べた手をはたく。

 あ、もしかして!


「痛い!何するのー!」

「あちし、女が嫌いなので」


 キターーーーー!!!突然降り注ぐ男の味方!これで理不尽な女性陣への贔屓もバチカさんがいれば守ってくれる!!


「男はもっと嫌いなので」


 ………………あ、はぁ、まぁ、そ、そうでしたか。

 [悲報]俺の、男の味方は一生現れない。

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