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バグ

に神がいるのなら、私みたいな悲しい人間は生まれないし、生まれたとしても救済を頂くに値する暮らしをしていたと思う。

 それがなかったということは、この世に神はいない。神はいつだってあの世から私たちを見下ろしている。

 けれど人間たちはあたかも神が味方であるかのように信仰し、崇め奉る。

 いるかいないかもわからない存在に銭を投げて、自分に救済を恵んでもらうように両手を合わせ祈りを捧げる。

 もし自分が神で、あの世からそんな光景を見ていたとしても、何も手を出すことができないと思う。

 世界が異なるのだから、何か手を加えることなんてできない。

 祈りを捧げたことでうまくいけば神のおかげ、うまくいかなければ祈り不足。

 いつだって人間は自分自身に悪い要素を見出してきた。

 神はいつだって、最高で究極で頂点に君臨する概念として、人間に見られている。いや、実際に見れているわけではなく、見ていると思い込んでいるだけだ。

 実際にアルタイルと接していても、神と人間の違いというのは片手で数えられる程度だった。

 つまり、あの世に身を置く人間をこの世にいる人間は神として認識しているのではないか、みたいな仮説が立てられる。

 ただ、そんな仮説が立証される日なんて来ないだろう。こんな非日常な出来事、後にも先にも誰にも体験してほしくないから。


「神って、可哀想なことするわよね」


 召使いに群がろうとしている生徒たちを見て、神の怖さを改めて痛感する。

 あれはヤイチが無意識に従えてきた生徒たちだ。と言っても中身の入っていない抜け殻のようなものだけれど。

 そうするように何も仕向けていないだろうに、生徒たちは磁石のように引っ張られてきたのだろう。

 アルタイルが棲みつく私の後ろには誰もいない。あれもまた、アレガの強大な力が関係しているとでも言うのだろうか。


「神だからな」


 アルタイルが呟く。


「神でも許されることとそうでないことはあるでしょ?」

「もちろんじゃ」

「誰がそれを審判して罰してるの?」

「自分自身じゃ」

「じゃあ、罪を犯した神は自己判断で罰を決められるってこと?」

「何を言うておる。何のための四神じゃ」


 アルタイルは表に出てきて、私の指を四本立てた後、一本を折り曲げた。


「一人が不祥事を起こしても、まだ三人残っておる。逆も同じじゃ。三人が不祥事を起こしても、一人が残っておる。ここで問題になってくるのが、四人が不祥事を起こしてしまうことじゃ」

「それは過去にあったの?」

「なりかけたことはあった。ただ、わらわたちがこうして神でいられているのはデネブのおかげじゃ。デネブの意思はとても固い。どこまでも誠実で、漫画に登場するなら間違いなく主人公であろうな」


 アルタイルは続けて言葉を発する。


「罪を犯した神は同じことを罰として受けるという決まりがある。ものを盗めばそれを返すと同時に同価値のものを譲るとか、深い傷を負わせることがあれば自身の体にも傷をつけるとか。それから、他の神を差し置いて唯一神になろうとすれば、神としての地位を消されるとか、そんなところじゃろう」

「地位を消されそうになったことがあるわけ?」

「一度だけ。ただ、デネブの慈悲で許してもらうことになった。その時は断食に正座にその他諸々と、古すぎる拷問をさせられた記憶がある。辛かったものの、この状況を見るに今では良い思い出なのかもしれぬな」


 たとえ犯した罪と同等のものを神が罰として受けようとも、私たち人間に救済が与えられるわけではない。

 だから、今アルタイルが話したことは別世界の法律やルールについてのことで、人間にとっては全く関係ない。

 私たち人間と神との間には視認することが決してできないほどの距離が空いている。

 神に対して祈りを捧げるのは、焼け石に水に過ぎない。


「そういえば神も一人二人って数えるのね」

「そりゃまぁ……一神二神と数えるよりかは伝わりやすいじゃろう」

「アルタイルは思いやりができるし優しいんだね」

「……それは最近の話じゃ」


 神にとっての最近が何年前からのことを指しているのかはわからないけど、アルタイルにとって自身を変えてくれる出来事があったみたいだ。


「先入ってていいかしら」


 扉の取っ手に手を掛けているあつみんが私の背後に視線を向けながら呟く。


「うん、入ろう」


 召使いの邪魔が一才入ることなく、扉に到達することができた。

 これもヤイチが引き連れてきた生徒たちのおかげだ。なんだか複雑な気分にさせられるな。


「ヤイチは大丈夫なの?」


 そう言われ、あつみんの視線の先に目を向ける。


「……何やってんの」


 無意識にため息が出てしまった。


「心配して損したでしょ?」


 あつみんの言う通り、心配して振り向いたものの、私の懸念はどこにも向かうことなく墜落してしまった。


「ヤイチ!!何やってんのよ!!?」


 ヤイチはパンツ一丁で、変顔をしながら阿波踊りをしていた。

 おまけに召使いを取り押さえていない生徒たちも一緒になって踊っている。

 なんならそのうちの何人かは太鼓を鳴らしたり笛を吹いたりする振りをしている。


「そ、そんなの、俺が知りたいよぉ〜」


 返答は思っていたものと違って、ヤイチは困惑の声を上げた。


「アレガ……しつこい奴じゃな」


 舌打ちとともにアルタイルが呟く。


「アレガが何か関係してるの?」

「あれはヤイチが起こしている行動ではない。アレガが表に出られなくて、裏からヤイチの思考をジャックしているんじゃ」


 ……ジャックしてるんならパンツ一丁で変顔しながら阿波踊りなんてさせるか?

 私がアレガの立場でもそんなことさせないし、その行動に意味があるとは到底思えない。


「どうしてあんな変なことを?」

「バグじゃよ。キメラにしか起こり得ないバグじゃ。三つの脳を持っているんじゃ、脳がバグを起こしても何もおかしくない」


 アルタイルの言葉の裏には忠告が隠されているみたいに、釘を刺されたような気がした。

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